日本代表の山中亮輔について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第75回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、日本代表の山中亮輔について。先日のキルギス戦で代表デビューにして初ゴールを決め大活躍だった山中亮輔だが、宮澤ミシェルは彼のプレイスタイルを見ていると、とある選手を思い出すのだという。

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山中亮輔が日本代表として初出場したキルギス戦で代表初ゴール。左SBの選手のファーストタッチでネットを揺らしたけど、チャンスを一発でモノにできるっていうのは、そうそうできることじゃないからね。彼はもしかしたら"持ってる"選手なのかもしれないな。

ボク自身がそうだったけど、リーグ戦は代表に呼ばれるくらい好調だったのに、代表活動の直前だったり、合宿中だったりに怪我でチャンスを逃してしまう選手っているでしょ。不思議とそういう選手は何度も同じパターンにハマるし、なぜか左利きの選手に多い気がするんだよね。

左利きでも不器用なタイプは怪我が少ないけれど、マラドーナにしろ、ロベルト・カルロスにしろ、中村俊輔にしろ、歴代の左利きを思い出すと、みんな故障しがちのイメージがあるんだ。リオネル・メッシは、いまはピッチのなかで自分のペースでやっているから怪我自体は減ったけど、若い頃は故障ばかりだったしね。

左利きの選手の多くは、右足でほとんどボールを蹴らないくらい、左足が器用すぎちゃうでしょ。それで体のバランスがおかしくなっていて、故障しやすくなっているのかもね。研究テーマとしては興味深いと思うから、誰か調べてくれないかな。

ただ、山中は左利きだけど、体は強そうなのがいいね。器用さもあるけれど、どちらかと言えば彼の魅力はやっぱりパワー。今季のJ1リーグで4得点決めているけれど、シュートはエゲツないものばかり。だけど、キルギス戦でのゴールは、パワーは7割程度で、ミートを心がけていた。

右側から来たボールを左足で打つときに、焦ってしまうと左足アウトサイドに当たって吹かしてしまうんだけど、彼はきっちりと呼び込んで真っ直ぐ飛ばしたでしょ。初代表、初スタメンで初めてのボールタッチで、あのシュートを打てた落ち着きはすばらしかったよ。

山中と同じように左利きのパワフルなSBで思い出すのが、佐々木雅尚さんだね。ボクの高校・大学の1学年先輩で、大学時代から日本代表に呼ばれて代表キャップは20。いまは都内の高校で先生をしているんだけど、現役時代は50m5秒台で、とにかく足が速かった。

パワーもすごかったんだけど、高校時代はボールがおさまらないから、恩師が竹刀でひっぱたきながら別メニューで練習させられていて。いまなら竹刀を振るったら大問題だけど、当時はそれが当たり前の時代。それを見ていた陸上部の顧問は何度も「陸上部に来ないか」と誘っていたね。

佐々木さんの走り方が2003年の世界陸上で200m銅メダリストになった末續慎吾さんに似ていたんだよね。腰の位置が低くて忍者走り。もしあの時、佐々木さんが陸上に転向していたら、当時の100mの日本新記録は塗り替えていたと思うよ。

それくらい大腿筋が発達しているからパワーがとんでもなかったけど、パワフルな選手は肉離れをしがちなんだよね。"ロベカル"もそうだったでしょ。ただ、普通の人は太腿の裏側を痛めるんだけど、佐々木さんの場合は大腿筋が発達し過ぎて前側の肉離れを起こしていたよ。

山中は25歳とまだ若いけれど、油断していたらケガしやすくなる年頃になっているから、ストレッチなどを増やすなどして身体への気配りを増やしてもらいたいね。

彼は守備の部分を含めて課題もあるんだけど、久しぶりに現れたパワフルな左利きのSBで貴重な存在。まだまだ成長できるポテンシャルを持っているだけに、怪我で遠回りしてもらいたくないし、ここから先で山中がどんな成長を遂げていくのか楽しみでならないよ。

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