早くに両親を亡くした貴ノ岩にとって、元貴乃花親方は親代わりのような存在だったという(写真は今年3月のもの)

「貴ノ岩は、普段から付け人に暴力を振るうような男では絶対にない。やはり精神的に不安定になっていたんでしょう」

そう語るのは、京都府宇治市・龍神総宮社(りゅうじんそうぐうしゃ)の祭主、辻本公俊(よしとし)氏だ。辻本氏は毎年、大阪場所の開催中に宿舎を提供するなど、元貴乃花親方が部屋を創設した頃から長年応援してきた。所属力士だった貴公俊(たかよしとし/現千賀ノ浦部屋、来年初場所から貴ノ富士に改名)のしこ名は、辻本氏の名前からとったものだ。

昨年10月、横綱・日馬富士(後に引退)から暴行を受けた貴ノ岩(現千賀ノ浦部屋)自身が、今度は付け人への暴力行為で引退という衝撃のニュース。辻本氏はその報告を貴ノ岩から直接受けたという。

「引退発表の前日、本人から電話がありました。憔悴(しょうすい)しきった声で、涙ながらに『申し訳ございません。取り返しのつかないことをしてしまいました』と......。でも、彼のこれまでの境遇を思うと、本当に引退しなければならないことなのかと思ってしまいます」

モンゴル出身の貴ノ岩は、小学生の頃に母を、16歳で来日した直後に父を亡くしている。元貴乃花親方と女将(おかみ)さん(先日離婚した河野景子氏)は、まさしく親代わりのような存在だったという。

そんな親方の愛情に応え、部屋の関取第1号となった貴ノ岩。昨秋の暴行事件の影響で長い休場を余儀なくされながらも、再入幕を果たした今年九月場所では10勝5敗と勝ち越した。ところが......。

「そこに降って湧いたのが、貴乃花親方の突然の引退です。

貴ノ岩はほかの所属力士以上にショックだったはず。また、貴ノ岩は10月4日、元日馬富士に対し民事訴訟を起こしたのですが、母国モンゴルでは横綱はヒーローのような存在。貴ノ岩を母親代わりに育てた兄弟たちが、激しいバッシングに遭ってしまったのです(同30日に提訴取り下げ)。これはこたえたでしょうね」(辻本氏)

親方の引退、部屋の移籍、そして親族へのバッシング。そんな渦中で迎えた十一月場所は6勝9敗に終わり、その後の冬巡業中に、付け人への「暴行事件」が起きたわけだ。

「もちろん暴力は許されることではありません。しかし、今回の行為は風邪薬を買うのを忘れた付け人に対し、しつけの意味もあり手を出してしまったもの。何もかも思うようにならない、そんなイライラもあったでしょう。この行為と、昨秋の事件のような理不尽かつ悪質な暴力とを、同じようにひとくくりにしていいのか。貴ノ岩本人が引退届を出すことは仕方ありませんが、そのまま受け取って引退させた相撲協会の態度には疑問を感じます」(辻本氏)

ところで、貴ノ岩の引退発表後、あるテレビ番組の取材を受けた元貴乃花親方は「今後10年は会わない」と、突き放すような発言をした。だが、辻本氏はこう言って笑う。

「(元)親方の本音はね、それくらい大変なことをしでかしたんだぞと、それだけですよ。現師匠の千賀ノ浦親方に対する配慮もあるでしょう。大丈夫、心配せんでも会いますよ(笑)。いつまでたっても自分の子供みたいなものですから。

来年2月、貴ノ岩の断髪式が開かれると聞きました。私は行くつもりですし、(元)貴乃花親方も誘ってあげようかと思っているんです」

"親子"の共演はあるのか?