サッカーの指導者研修会について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第85回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、サッカーの指導者研修会について。世間には、あまり知られていない『フットボールカンファレンス』という指導者研修会を宮澤ミシェルが紹介。また、研修会で興味深かったというW杯ロシア大会でベルギー代表を率いたロベルト・マルチネス監督のインタビューについても語ってくれた。

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サッカー指導者ばかり1000人ほどが集まる会合があることは、世間にはあまり知られてないよね。日本サッカー協会が2年に1度、開催している『フットボールカンファレンス』という指導者研修会があって、11回目の今年は1月中旬に高知県で行なわれたんだ。

私も参加したけれど、全国各地からサッカー指導者が1000人も集まるものだから、飛行機も宿も予約がなかなか取れなくて大変だったよ。

高知に着いてタクシーに乗ったら運転手さんが、門松が取れたばかりのタイミングだっていうのに、「盆と正月が一緒に来たみたい」だって(笑)。確かに、そう思っちゃうくらい、凄い人数がいるんだよね。

カンファレンスは3日間で、世界的に有名な監督やコーチを招いての講義があるんだ。指導者のライセンス保持者には、ポイント制度というのがあって、彼らの講義をちゃんと受講することでポイントがもらえるんだよね。ライセンス更新には2年で40ポイントが必要で、このカンファレンスは参加すれば40ポイントがもらえる。

ほかのだと10ポイントだったり、20ポイントだったりして、数回出なきゃいけないから、これ一発で済ますという指導者が多いんだよね。だから、S級、A、B、C級の男女の指導者はもちろん、フットサル指導者もA級~C級までいて。参加者同士でいろんな情報交換ができるもの、これに参加する意義のひとつだな。

カンファレンスでは世界的に著名な監督やコーチが講義をしたり、フランスやイングランド、アイスランドなどの育成への取り組みなどが紹介されたりして、世界のトレンドや各国の取り組みを学べたんだけど、どの授業も面白かったから、私も講義中は寝ないでちゃんと聴いていたよ。

興味深かったのが、W杯ロシア大会でベルギー代表を率いたロベルト・マルチネス監督へのインタビュー。「あのゲームは勝ち目がなかった」と、日本戦のことを包み隠さずに語っていたんだ。

マルチネス監督が想定していた以上に、日本代表の質が良くて、思ったようなサッカーが展開できないなかで2点をリードされた。だから、65分に戦術を変更するしかなくて、日本代表のCBの裏から攻めることを選手に伝えたんだって。

ベルギー代表は追い込まれていたなかで、戦術を変える準備もできていたってことだよな。それだけの技量がマルチネス監督にはあったし、眼の前で起きている状況に合わせて戦い方を変えたあの柔軟さは、日本代表も見習わなければいけないところだったよね。

その話のなかで特に興味深かったのが、ベルギー代表の選手たちは、国内で頭角を現すと、国外のクラブで育成されるっていうんだよね。だから、選手たちは3ヵ国語は操れるし、それを受け入れるキャパシティの広さも持っているそうなんだ。それが柔軟な適応力につながっているということだった。

サッカー以外の日本の若い子たちは、いま海外留学をしないんだよな。パスポートすら持っていない子が増えている。そうした時代背景にあって、サッカー界は逆行していて、若い選手たちがどんどん海外に出るようになっている。

よその国でプレーするというのは、言葉や食事に始まり、それぞれの国の文化や価値観のなかで揉まれることだからね。そこを乗り越えるためにタフさや柔軟性が養われていくから、日本代表も少しずつ柔軟性を高めていってもらいたいね。

このカンファレンスにはジェフ市原のOBも数多く来ていて、1日のプログラムが終わった後は飲みに繰り出したりしてさ。まるで同窓会みたいだったね。

そうなると話はやっぱり古巣のこと。最後にJ1を戦ったのが2009年で、2010年からはJ2暮らし。一向にJ1に戻りそうな気配もないのは、さすがに心配になるし、今年は口うるさいOBとして古巣に積極的に関わっていこうって盛り上がったよ。

いまは指導者に立場は変わったけれど、昔の仲間たちとつながりを持てる場があることには感謝だし、本当に古巣が強くなるような取り組みをしたいなと思っているよ。

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