今シーズン、横浜Fマのキャプテンを務めていた天野は、28歳でベルギーの2部チームへ。決して強豪ではないチームからの成り上がりを目指す

シーズンオフの欧州サッカー界で、日本人選手の移籍が相次いでいる。

この夏一番のビッグニュースは、元FC東京の久保建英のレアル・マドリード行きだ。バルセロナの下部組織で3年半ほど育成された久保は、今年6月4日に18歳の誕生日を迎え、晴れて欧州に再挑戦できることに(18歳未満の選手の国外移籍を禁止するFIFAの移籍条項がある。久保はこれにより2015年に帰国)。そこで選択した新天地が、なんと、バルセロナの"永遠の宿敵"レアルだったのである。

チャンピオンズリーグで13度の優勝を誇る世界随一のビッグクラブは、極東からこの左利きの新鋭を迎えるために、ライバルをはるかに上回る高待遇を提示。年俸は100万ユーロとも200万ユーロともいわれ、パフォーマンス次第で時期を設けずにファーストチームに昇格できる条項も盛り込んだ、と現地スペイン紙は報じている。

まずはBチームに所属することになるが、そこの指揮官はクラブのレジェンドであるラウール・ゴンサレスだ。ファーストチームのジネディーヌ・ジダン監督と同様に、技術を重視する指導者の下で、久保がどれほどの成長を見せるのか。カナダで行なわれた合宿では、新戦力のエデン・アザールらと共にトレーニングに励んでおり、期待は増すばかりだ。

多くの地元メディアから「(久保を取り逃がす)大失敗」と批判されたバルセロナはその後、鹿島アントラーズの20歳のアタッカー、安部裕葵(ひろき)を新たな標的に。鹿島は推定110万ユーロの移籍金で契約に応じた。

7月14日にスペインに発つ前、安部は鹿島の公式サイトを通じて、「すべてのアントラーズファミリーと勝利のために戦えたことは、自分の誇りであり、財産です。今回、シーズン途中でチームを離れることは難しい決断でしたが、FCバルセロナで新たな挑戦をしたいと強く思い、移籍を決めました」と心境を明かしている。

ふたりの攻撃的な逸材がスペインの二大クラブに移籍した一方、守備の俊才は着実にステップアップを果たしている。20歳の日本代表CB冨安健洋が、1年を過ごしたベルギーのシント=トロイデンを離れ、イタリアのボローニャへ完全移籍。契約は5年間で、移籍金はボーナスを含めた総額で推定1000万ユーロともいわれている。

昨季のセリエAを10位で終えたボローニャに加入する冨安は、現在のセリエAで唯一の日本人選手に。20歳にして日本代表15キャップを誇る才能豊かなCBが、守備の国で研鑽(けんさん)を積んでいく。

片や、7月19日に28歳となった横浜F・マリノスの天野 純が1年間の期限付きでベルギーのロケレンへ、27歳のシュミット・ダニエルがベガルタ仙台から、23歳の鈴木優磨が鹿島アントラーズから完全移籍でシント=トロイデンへ、鈴木と同じ鹿島から24歳の安西幸輝がポルトガルのポルティモネンセへ移籍。いずれも欧州のトップではない各国リーグで中位以下につけるクラブだ。

そのクラブが、日本代表でも出番が限られている選手たちを欲しがる理由はどこにあるのか。

まず、シント=トロイデンとポルティモネンセは、日本と強力な結びつきがある。前者は17年から日本のIT企業が経営権を握っており、テレビや旅行会社など、さまざまな日本企業とパートナーシップを締結。後者は元浦和レッズのロブソン・ポンテ氏がフロントの要職に就いている。

どちらも近年は、冨安(シント=トロイデン→ボローニャ)と中島翔哉(ポルティモネンセ→アル・ドゥハイル。新シーズンからポルト)のディールで大きな利益も得ている。日本人選手にとっては、同胞が近くにいる環境も手伝い、欧州における格好の最初のステップとなりつつある。

しかし、天野のロケレンへの移籍は、これには当てはまらない。彼の元所属先である横浜Fマは現在、J1で優勝争いを演じているが、ロケレンは昨季のベルギー国内リーグで最下位。他クラブに八百長疑惑があるため、来季も1部に残れる可能性があるというが、これは天野にとってステップアップとは言い難い。

それでも本人は「知らない世界に飛び込んでみたい」と移籍を決意し、ロケレン側もこのレフティーを歓迎している。

オランダ人のフットボールエージェント、リントン・ポストゥマス氏はこの状況の背景を次のように説明する。

「欧州の移籍市場で、日本人選手の価値は確実に高まっている。日本がアジアを代表するフットボール大国であることは誰もが知っており、日本人選手の特徴もきちんと理解されている。昨年のW杯における日本代表の躍進も、その一因になっている。(ロケレンのある)ベルギーは、ラウンド16で日本に冷や汗をかかされたじゃないか」

若くして国外へ移籍することは、一種のギャンブルだ。誰もが成功できるわけではないし、出場機会の減少やケガのリスクも常にある。リズムや自信を失って、キャリアが暗転してしまうケースも少なくない。

日本のクラブ側としては、主戦級の選手を失うというのに、欧州の水準からすれば二束三文の移籍金しか手にできないことも多い。

代理人ほか、選手やクラブの周囲でビジネスをする同胞たちには、日本サッカー界全体の利益を考慮した上で、適切な行動をとってもらいたい。それでも、欧州へ羽ばたいていく選手たちの未来に、やはり期待してしまうのもまた確かだ。