サマーリーグでは得点数だけでなく、献身的なディフェンスも高く評価された八村。10月のNBA開幕戦でのスタメンデビューに向け、大きくアピールした

「日本のバスケットボールもここまで成長したんだな、といえるくらいのところまではきていると思う。それが、サマーリーグに(日本人選手が)4人出場したことにつながったんじゃないかと思います」

Bリーグのアルバルク東京に所属する馬場雄大は、ダラス・マーベリックスの一員としてNBAサマーリーグに参加した日々を振り返り、感慨深げにそう述べた。

現地時間の7月5日から、アメリカ・ラスベガスで行なわれたサマーリーグとは、毎夏に開催される"NBAを目指す若手選手の登竜門"と呼ばれる舞台。全30球団がそれぞれ序盤に4試合を戦い、成績上位8チームが決勝トーナメントに進む。そこに、今年は八村 塁(はちむら・るい)、渡邊雄太、比江島慎(ひえじま・まこと)、馬場の4人が出場した。

日本人初のNBA選手となった田臥勇太を皮切りに、これまで多くの日本人がサマーリーグに挑んできたが、日本人選手が4人も集まったのは初めて。馬場の言葉どおり、日本バスケットボールは"新時代"を迎えようとしているのかもしれない。

この注目のステージで、4人はそれぞれの形で存在感を示した。今年度のドラフト1巡目、全体9位でワシントン・ウィザーズに入団した八村は、3試合に出場して平均19.3得点、7リバウンド、1.7ブロックと期待どおりの活躍。

特に7月11日のアトランタ・ホークス戦では、ゲーム最多の25得点、9リバウンドという数字を残し、今大会のセカンドチーム(=オールスターチームのナンバー2)に選出された。

「サマーリーグはNBAに入るために(実力を)見せる選手がいっぱい来ている場所。そういうなかでもちゃんと結果を出せてよかった」

大会終了後にそう語った八村のプレーを見て、ウィザーズの関係者、ファンは今後への期待を膨らませたはずだ。日本史上最高の大器は、まだ実力の片鱗(へんりん)を示したにすぎないが、今回のサマーリーグは"伝説の第一歩"として、後に振り返られることになるかもしれない。

また、昨季はメンフィス・グリズリーズの一員として15戦に出場し、日本人2人目のNBAプレーヤーになった渡邊も"さすが"と感じさせるプレーを見せた。

ラスベガスの前に行なわれたソルトレークシティーでのサマーリーグ戦も含め、4試合で平均14.8得点、7.3リバウンド、1.5アシスト。ラスベガスでの決勝トーナメントで優勝を飾った、グリズリーズの攻守のリーダーとして、その成熟したプレーは貫禄を感じさせるほどだった。

馬場も、7月6日のヒューストン・ロケッツ戦で8得点、3リバウンド、1ブロックを記録するなど、持ち前のバネを生かして随所でインパクトを残した。今後、NBAを目指す上で大きな糧となったに違いない。

ニューオーリンズ・ペリカンズのメンバーに入った比江島は、大会中に「とにかく点を取りたい」と繰り返していたものの、4人のなかで唯一の無得点。目立った働きはできなかったが、オーストラリアリーグに挑んだ昨季に続き、海外で経験を積めたことには意味があったはずだ。

昨季NBAデビューを飾った渡邊は、持ち味であるディフェンス、攻撃でも積極性が光った。NBA本契約を勝ち取るために、好調なままシーズンを迎えたい

日本バスケットボール界の黄金世代――。現在活躍している世代をそう呼ぶのはまだ早いかもしれないが、24歳の渡邊、23歳の馬場、21歳の八村といった選手たちには伸びしろがある。

さらにはNCAA1部のノースカロライナ大ウィルミントン校でプレーする20歳のテーブス海、同じくアメリカのIMGアカデミー(高校)でキャリアをスタートさせた17歳の田中 力(ちから)など、さらに若い力が黄金期を築いてくれると期待するファンは増えているはずだ。

「これがゴールではなく、次の世代につながって、(サマーリーグに挑む選手が)5人、6人と増えてほしい。僕たちの姿を見て、『自分も』と思ってくれる選手がひとりでも増えたらと思います」

サマーリーグ終了後、馬場が残していたそんなコメントも心に響いてくる。現代の俊才たちのおかげで、NBAやNCAAといった、これまで夢のようだった世界は、日本の若い選手たちにとってもより身近なものに感じられるようになっただろう。

最初の2戦では好調だったものの、その後は出場機会が減っていった馬場。しかし苦しい状況になっても、前向きにチャレンジを続けて手応えを得た

この新たな潮流をさらに前に押し進めるべく、日本バスケットボール界にとって極めて重要な舞台が待ち受けている。8月に開幕するワールドカップの出場権をすでに手に入れた日本男子代表は、同時に2020年の東京五輪にも開催国枠で出場できることが決定。

このふたつの国際大会に、日本は八村、渡邊、馬場、比江島、さらにはニック・ファジーカスといった好選手を軸とする"過去最強のチーム"を送り込むことになるだろう。

「(サマーリーグで一緒にプレーした)日本人たちと一緒にやるというのはすごい楽しみ。(日本代表はアジア予選で)4連敗した後に8連勝している。僕もそうですけど、みんなも楽しみにしているんじゃないかなと思います」

日本代表について語った八村のそんな言葉は、日本中のすべてのバスケットボールファンの思いを代弁しているようだった。まず、8月31日から中国で始まるワールドカップは、今後に向けた試金石。勢いを保ち、さらに力をつけて母国開催のオリンピックに臨むことができれば......。

数年前には考えられなかった、スポーツファンが日本版の"バスケットボール・ドリームチーム"に熱狂する光景を想像するのは、今はそれほど難しいことではない。若き旗手たちの向こうに、真の夜明けが見えてきている。新たな"ゴールデンエイジ(黄金世代)"と共に、時代は間もなく変わろうとしている。