高校ナンバーワンの呼び声高い大船渡高校のエース佐々木朗希投手は、岩手県大会決勝のマウンドに上がることなく敗戦。この采配を『サンデーモーニング』のご意見番である張本 勲氏は激しく非難した。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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高校野球岩手県大会の決勝で、エースの佐々木朗希(ろうき)投手を起用せずに花巻東高校に敗れた大船渡高校。國保(こくぼ)陽平監督はその理由を「故障を避けるため」としましたが、苦情が殺到しました。

野球評論家で元プロ野球選手の張本 勲氏は監督を激しく批判し、一方でシカゴ・カブスのダルビッシュ有投手は全面擁護。高校野球のあり方にも疑問を呈しています。 

正直言って、張本氏の主張には違和感しかありません。体を痛めつけて苦しい思いをすれば強くなるって、戦時中かと思いましたよ。

ここ数年で「ブラック部活」問題が注目され、日大アメフト部の悪質タックル問題やスポーツ界のパワハラ・セクハラが次々と明るみに出て批判されました。それなのにまだ根性論で「投げ込めば強くなる」とは、時の止まりっぷりに言葉もありません。

高校野球で若者たちの涙のストーリーを見たいという世間の要求もあるのでしょう。しかし子供は体を壊してまでも大人を感動させなくちゃならんのでしょうか。一度しかない人生、せっかく素質に恵まれたのなら長くプレーできるように考えてあげるのが大人の役割です。

張本氏はご自身の時代の経験からとにかく投げさせろとおっしゃるのでしょうが、それで体を壊してしまった選手たちの無念はどうなるのでしょう。「ケガを怖がったんじゃ、スポーツやめたほうがいいよ。みんな宿命なんだから、スポーツ選手は」というのも、ブラック企業の社長みたい。

そういえば「お笑いがやりたいならひどい目に遭ってもしょうがないでしょ」という話も最近聞いたような。人々を感動させたり何かを極めるためには、過酷な目に遭わなきゃいかん? それはただの恫喝(どうかつ)、呪いです。

運動会でも、巨大な人間ピラミッドの危険性が散々指摘されているにもかかわらず、「廃止するな!」と言う親がいるそうですが、そんなに命がけに感動したいなら何度でも『アルマゲドン』を見ればいいでしょう。いっそ自分でフリークライミングでもやればいい。なんでわざわざ子供たちを危険にさらして眺めたいのか。鍛えてやっているんだというなら、それは単なる支配です。

張本氏の「監督と佐々木君のチームじゃないから。ナインはどうします? 一緒に戦っているナインは」という言葉には、全体の利益のためなら個人が犠牲になっても構わないという発想がにじみます。もう、たくさん。それを美談と呼ばないでほしいです。

ダルビッシュ投手の、暑いなか入場行進しての開会式をやめようとか、予選開催時期を5月からにしてはどうかという提案はもっともです。汗と熱血の甲子園物語とはいいかげん決別して、才能のある若者を長い目で守り育てるのが当たり前になりますように。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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