プロは試合に出てなんぼと語るセルジオ越後氏

欧州各国のリーグが続々と開幕しているけど、今夏は例年以上にJリーグから欧州挑戦を決めた選手が多いね。

この原稿の締め切り時点で、GKシュミット・ダニエル(仙台→シントトロイデン)、DF安西(鹿島→ポルティモネンセ)、DF菅原(名古屋→AZ)、MF久保(FC東京→レアル・マドリード)、MF天野(横浜Fマ→ロケレン)、FW安部(鹿島→バルセロナ)、FW鈴木(鹿島→シントトロイデン)、FW中村(G大阪→トゥウェンテ)、FW前田(松本→マリティモ)、FW北川(清水→ラピッド・ウィーン)の10人。10年前、20年前には考えられない人数だ。

でも、だからといって、「日本のサッカーはレベルアップしてすごい」という単純な話にはならない。確かに、昔に比べれば日本の選手はうまくなった。でも、それは世界も同じ。世界における日本の立ち位置、序列が大きく変わったとは思わない。

欧州のクラブの"青田買い"の傾向が強まるなか、代理人の力を借りれば、欧州挑戦は以前よりも簡単になった。ただ、その移籍先は五大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)以外の中小クラブばかり。移籍金が0円やタダ同然のケースも多い。今夏話題を呼んだ久保や安部にしても、トップチームではなくBチームからのスタートだ。

そうした現状をもって、日本サッカーがレベルアップしていると手放しで喜ぶのはどうなんだろう。Jリーグで目立った成績を残していない選手でも移籍できてしまう現状には疑問を感じるよ。

もちろん、今はそういう時代なのだろうし、選手目線に立てば、目の前にチャンスがあったら挑戦するのは当然。それは否定しない。かつての中田英や長友、香川のように、結果を出してビッグクラブへの移籍を勝ち取る選手が出てくるかもしれないし、そうなることを期待している。

そのために大事なのは移籍先でどれだけ試合に出られるか、どれだけ結果を残せるか。僕はいつも口グセのように言っているけど、プロは試合に出てなんぼ。欧州移籍しても試合に出られないなら、ただの"留学"だ。

今夏、冨安がシントトロイデンからボローニャへ、欧州でのステップアップを果たしたけど、残念ながら近年、彼のような成功例は少数派。それよりも、移籍先で試合に出られず、コンディションを落とす選手が目立つ。日本代表に呼ばれなくなる選手もいる。そして、欧州に渡ったときよりも悪い状態でJリーグの古巣に戻ってくるのもおなじみだ。

選手寿命は決して長くない。試合に出られない状況が続くのに欧州にこだわりすぎるのは、本人にとってはもちろん、日本サッカーにとってもマイナス。そういう意味でうまく見切りをつけられるかどうかも重要になる。ダメだったら、またJリーグで頑張ってチャンスを狙えばいいだけの話だ。

かつて1994年から97年まで日本代表の監督を務めた加茂(周)さんは当時、「JFL(ジャパンフットボールリーグ。当時のJ2相当)の選手は代表に呼ばない」と言ったけど、個人的には、今の森保監督にも「欧州組でも試合に出ていない選手は代表に呼ばない」と言ってほしいくらい。

移籍はゴールではなくスタート。メディアもファンも欧州組だというだけで無条件に持ち上げるのではなく、冷静に見守るべきだ。

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