乾貴士について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第110回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、乾貴士について。古巣・エイバルに復帰し、ますます活躍が期待される乾貴士。そんな彼の素顔を、本人から聞いたロシアW杯のエピソードなども交えて宮澤ミシェルが語った。

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乾貴士の今シーズンの所属先がようやく決まったね。昨シーズンは名門ベティスに移籍したけれど、出番がなかなか来なくて冬の移籍市場でアラベスにレンタル移籍していた。それで今シーズンはどこでプレーするのか気にかけていたのだけど、古巣のエイバルに戻ることになった。

噂には聞いていたけれど、なかなか発表されないからヤキモキしていたんだ。ベティスのような大きなクラブでのチャレンジもおもしろいけれど、乾はローカルクラブで王様としてプレーするのが似合っていると思うな。

乾とは今年3月にスペインに行ったときに、西野朗さん(現タイ代表監督)を交えて、じっくり話をする機会があってさ。西野さんと乾が揃ったら、話題はやっぱりW杯ロシア大会のことになってね。その時に出てきたエピソードを聞いて、乾は根っからのサッカー小僧なんだなって改めて思ったよ。

ロシア大会直前に乾は怪我をしていたんだ。その状況は相当に深刻だったらしいんだけど、手術して懸命にリハビリして、W杯ロシア大会のメンバーに残れるかどうか微妙なところまで回復した。

それでW杯メンバーを決めるための代表候補合宿が始まったら、西野監督の耳にはやたらと乾の声が入ってきたそうなんだ。「さあ、行こうぜ!」「右だ、右だ」って具合に。ピッチサイドから大声でチームメイトを鼓舞したり、西野監督のそばでドリブルのフェイント練習をしたりして。

西野監督は、「あれ? 乾ってこんなキャラクターだったけ?」という感じだったらしいよ。

その真相を乾に問いただすと「やっぱりW杯は行きたいじゃないですか。それで監督のそばでガンガンにアピールしてました」って。でも、アピールできるくらいに回復したということは戦力になる目処が立ったということでもあるからね。

W杯後にも話題になったけど、W杯開幕直前の練習試合で、西野監督が乾にスパイクを履き替えるように指示したら、履き替えた途端に2ゴールを挙げた話は、本当らしいな。厳密に「履き替えろ」と指示したわけではなくて、「そのスパイク、重りかなにかついているんじゃないか」というようなことを言ったそうなんだ。

違うスパイクに履き替えて結果を出した乾は、W杯初戦となったコロンビア戦の先発の座をつかみ、セネガル戦でも先発して先制ゴールを決めた。何が功を奏するかわからないね。

もしメンバー決定前の合宿で乾が声を出してアピールしていなかったら、西野監督は日本代表としてW杯ロシア大会に乾を連れて行かなかったかもしれない。W杯直前の練習試合で乾が2ゴールを決めなければ、W杯での先発の座は原口元気になっていて、また違う結果になっていたかもしれない。サッカーってドラマだよな。

ただ、W杯後にベティスに移籍したけれど、乾は「あのW杯でのゴールで、僕が点を獲るタイプの選手だと誤解された」と振り返っていたね。確かに、乾は左サイドのアタッカーとしてゴール前に切れ込んでいけるけれど、ガチガチのゴールゲッターではないもんな。どちらかといえば、彼の持ち味はドリブルで相手を翻弄して、最後の最後の一番おいしいところは味方選手に決めさせるタイプだからね。

チームの評価が得点力ということでベティスではリズムを崩した部分もあったよな。無理にシュートを打ちに行ったりして。それで出番が減って、レンタル移籍したアラベスでは今度は右サイドのアタッカーとして使われて最初は苦労していたね。

右利きの乾の場合、右サイドからだとドリブルから中央に切れ込んでシュートに持ちこみにくいから。それでも数試合やったら適応してチームの攻撃の軸になるんだから、さすがだよな。

今季は古巣のエイバルに戻り、勝手知ったるグラウンドで、自分の好きなポジションを任されるはずだから、大いに暴れ回ってくれると期待しているんだ。エイバルでは任されなかった役割も昨年は経験したから、それを古巣で生かしてもらいたいよね。

なにより、乾と仲の良い岡崎慎司や香川真司が、2部とはいえスペインリーグに移籍したのも刺激になるんじゃないかな。

乾とはLINEの連絡先を交換をしたから、もし不甲斐ないプレーをしていたら、ハッパをかけてやろうと思っているよ。

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