西野氏の挑戦には大きな意義があると語るセルジオ越後氏

素晴らしいチャレンジだし、ぜひ成功してほしい。

先月19日、日本代表前監督の西野 朗氏がタイ代表の監督に就任した。どういうルート、経緯でオファーが届いたのかはわからないけど、昨年のロシアW杯で日本代表をベスト16へ導いたことが評価されたのは間違いない。

これまでにも、日本人が海外の代表チームの監督を務めたことはあるけど、マカオやフィリピン、ネパールなど、日本サッカー協会が国際交流・貢献活動の一環として派遣したケースが大半。カンボジア代表の実質的な監督を務めている本田にしても無報酬で、中途半端な形になっている。

また、チームのレベルという点でも、タイほどの国はなかった。クラブで見ても、かつて岡田武史氏が中国2部のチームを率いたことがある程度だ。

報道によれば、西野氏の契約期間は2年で、年俸は約7000万円。来年の東京五輪を目指すU-23(23歳以下)代表の監督も兼任するというから、タイ側の期待の大きさがわかる。

西野氏は64歳。ロシアW杯を最後にもう監督はやらないのかなと思っていたけど、現場への強いこだわりがあったんだね。今度は言葉や文化、習慣の違う海外でどんな采配を見せるのか。

当面は日本人スタッフを同行させず、タイ人スタッフと通訳を介してコミュニケーションを取りながらチームを率いるということからも意気込みが伝わってくる。

当面の目標は9月に開幕するW杯2次予選。最新のFIFAランキングで115位のタイはUAE(同65位)、ベトナム(同97位)、マレーシア(同159位)、インドネシア(同160位)と同組に入った。

5ヵ国中、実に4ヵ国が東南アジアで、各チームの実力も拮抗(きっこう)。2次予選の最激戦区といっていい。ラクな組に入った日本とは違って、しびれるような戦いが続くだろう。

タイには、昨季のJリーグのベストイレブンに輝いたチャナティップ(札幌)をはじめ、ティーラトン(横浜Fマ)、ティティパン(大分)ら技術のある選手が増えてきた。また、近年のアジアチャンピオンズリーグでもタイのクラブは存在感を増している。

それにもかかわらず、代表チームは思うような結果を出せていない。それを西野氏がどう変えていくのか。結果を出せば英雄扱いされるだろうし、最終予選に進んで日本と同じグループになったら面白い。

もちろん、大変なこともたくさんあるだろう。日本と違って、すぐに結果を求められる。複数年契約を結んでいても、すぐにクビを切られる。実際、タイは今年に入ってすでに2回も監督が代わっているからね。その意味でも西野氏にとって9月5日の初戦、ホームでのベトナム戦は重要になるし、注目だ。

今や選手の海外移籍は当たり前。その一方で、指導者が海を渡るケースは極めて少ない。少なくない時間とお金をかけて取得するS級ライセンス保持者は何百人といるのに、国内クラブの監督の座が空くのを順番待ちしている。

サッカーのチームは世界中にあるし、ライセンスを取る過程では、積極的に海外に勉強をしに行くというのに不思議なことだよ。

だからこそ、実績のある西野氏の今回の挑戦には大きな意義がある。新たな道を切り開けるか。期待して見守りたい。

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