海外に移籍した若手日本人選手について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第111回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、海外に移籍した若手日本人選手について。今年の夏も久保建英や安部裕葵をはじめ、菅原由勢、中村敬斗など、多くの若手日本人選手が海外クラブへと移籍した。宮澤ミシェルは、そんな彼らを暖かく見守る必要があると語る。

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この夏は数多くの若い日本選手たちが、Jリーグから飛び出して海外クラブへと移籍していったね。その筆頭の久保建英はレアル・マドリードからマジョルカへの1年間のレンタル移籍でトップリーグでのプレーが決まった。バルセロナのカスティージャへ移籍した安部裕葵もどう成長していくか興味深いよ。

注目は超ビッグクラブに移籍した2選手に集まりがちだけど、オランダリーグには菅原由勢(前名古屋)がAZアルクマールへ、中村敬斗(前G大阪)がトゥウェンテに移籍した。

オランダリーグは過去に小野伸二をはじめ、本田圭佑や吉田麻也などが海外移籍のファーストステップを踏んだリーグ。日本人選手への理解を持っているから、彼らにしてもプレーしやすいんじゃないかな。

昨シーズンに続いて堂安律や板倉滉(フローニンゲン)、中山雄太(AZ)もプレーしているけれど、オランダの地で東京五輪世代が切磋琢磨しながら、さらに才能に磨きをかけてくれることを期待しているよ。

ほかの東京五輪世代では三好康児(前・横浜F.M)がベルギー1部のアントワープへ、前田大然(前・松本山雅)はポルトガル1部のマリティモに移籍した。マンチェスター・シティが獲得した食野亮太郎(前G大阪)は、すぐにプレミアリーグでプレーするわけではないけれど、レンタル移籍先でしっかり経験を積んで、ビッグクラブが目をつけるだけの才能を、しっかりと伸ばしてもらいたい。

東京五輪世代よりも年齢が上の選手でも、日本代表に招集されたことのある天野純(前・横浜F.M)や、小池龍太(柏)はベルギー2部のスポルティング・ロケレンに移籍し、安西幸輝(前・鹿島)はポルトガルのボルティモネンセから海外でのキャリアをスタートさせていくことになった。

これだけ若い日本選手たちが海外移籍するのは、海外でしか経験できないこともあって、自身のレベルアップを考えたときには優先されるよな。しかも、日本代表としてW杯に出場したいと考えれば、ここ数大会は"海外組"から日本代表が招集されていることも影響しているんじゃないかな。

海外クラブにしても、以前までなら日本選手のレベルは海のものとも山のものともわからなかったけれど、中田英寿が切り開いて、本田や香川真司、長友佑都、長谷部誠らが実績を築いたことで、獲得しやすくなったよな。しかも、移籍金も高くないからね。

ただ、行く側は海外クラブに行けるからといって、成功が保証されているわけではないと肝に命じないとダメだし、送り出す側もそこを理解しないとね。海外クラブに移籍して、たいして活躍もせずに戻ってきたら冷たい視線を浴びせるけれど、どんなに才能が豊かでも必ず成功するわけではない。だから、チャレンジして失敗してJリーグに戻ってきた選手は、暖かく迎えてもらいたいな。

ブラジルだって数多くの選手が海外移籍するけれど、ほとんど失敗するんだから。名古屋のジョーだって、Jリーグでようやく成功したけれど、それ以前の海外挑戦は失敗続きだった。それくらい難しいことなんだ。

海外移籍で成功している日本選手を見ていると、酒井宏樹や酒井高徳が特にそうだけど、図太いんだ。言葉ができなくても、ちゃんとコミュニケーションが取れる。言葉ができないと引っ込み思案になりがちだけど、言葉がわからないからこそ、逆に相手の懐に飛び込むくらいでないとね。監督やチームメイトに何を考えているか理解してもらわないと、信用は得られない。まずはそこが最初のハードルだよ。

2010年W杯を境にして、日本選手の海外移籍は増えてきたけれど、ここ1、2年でさらに若い選手が次々と海外移籍している。Jリーグの空洞化はますます顕著になるだろうな。トップ選手を直接見られるのは、日本代表戦だけという状況は続くよ。

でも、だからこそ、Jリーグでプレーしている選手には奮起してもらいたいんだ。国内に残っても大きく成長できるというのを見せてもらいたいし、Jリーグで大きく育ってから、何十億円という高い移籍金で海外クラブへ行く時代になってほしいんだ。

そういう時代は、現状では絵空事のように感じるかもしれない。でも、日本にプロリーグのない時代からサッカーに携わってきた私にすれば、何度となく絵空事が現実になるのを目の当たりに見てきた。いまの若い選手たちが成熟した選手へと育つ過程で、日本サッカーはどんな姿に変わっていくのか。一緒にしっかり見届けましょう!

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