南アフリカ仕込みのテクニシャン・松島幸太朗選手

空前のラグビーブームをもたらした前回大会から4年、アジア初開催となる「ラグビーワールドカップ2019日本大会」が9月20日(金)から開幕する。田村 優選手福岡堅樹選手姫野和樹選手に続き、松島幸太朗(まつしま・こうたろう)選手のインタビューをお届けする。

*本記事は『週刊プレイボーイ32号』(7月29日発売)に掲載されたものです

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ジンバブエ人の父と日本人の母を持ち、中学生のときに南アフリカでラグビーを始めた松島幸太朗。世界トップレベルのテクニック、スピード、パワーを兼ね備え、攻守にわたるトリッキーなプレーで相手を翻弄(ほんろう)する。

前回大会でも日本代表の主力選手として活躍し、日本代表の3勝に貢献した松島は、今回のW杯に向けてどのように準備を進めているのか。

■今回は自分がチームを引っ張る

――ジェイミー・ジョセフHCから複数のポジションでの活躍を期待されているなか、合宿では何を課題として練習に取り組んだのですか?

「フルバックとウイングの両方のポジションで出場することを想定して、最後にタックルを決める精度を高めることを目標に練習しました」

――変幻自在なプレーが特徴だと思いますが、自分ではどう分析していますか?

「とっさの判断でプレーを選択することもありますが、僕は基本的に、相手選手の情報を頭に入れ、しっかり分析をしてから仕掛けるタイプです。相手のクセや心理状態も見ますね。

例えば守備では、タックルをいやがる選手だとわかったら突進しますし、逆にタックルが得意な選手であればタイミングをズラしてアタックする。そういうことがうまくいったプレーが、周囲からは"変幻自在"に見えるのかもしれませんね」

――ラグビーを始めたのは、ラグビー強豪国の南アフリカでだったそうですが。

「小学生のときにサッカー、中学に入ってからはバレーボールをやっていたんですが、中学生2年生になってから1年間だけ南アフリカに行く機会があって、向こうで誘われてラグビーを始めたんです。結果を残すことができて、そのチームで年間最優秀選手に選ばれました」

スピードを保ったまま横にもステップを切り、突破役、フィニッシャーとして活躍する

――たった1年間で才能を開花。それで帰国後はどのような道を歩んだんですか?

「ラグビースクールの『ワセダクラブ』でプレーし、桐蔭学園高校に進んでからは花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)でも優勝することができました。卒業前には日本の大学からの誘いもありましたが、スーパーラグビーに挑戦したかったので再び3年間ほど南アフリカに行き、シャークスというチームのアカデミー(育成組織)に入ったんです」

――その3年間で得たものは?

「練習や試合でもスーパーラグビーに出場している体格がいい選手を相手にしていたので、フィジカルが鍛えられました。日本にいたときよりもタックルにいく回数が増えて、世界のトップを目指す選手の意識の高さも肌で感じることもできた。多くのトッププレーヤーと一緒に戦う経験は、ほかの日本人選手よりも早く積むことができたと思います」

――そんな松島選手から見た、日本と海外チームの違いは?

「世界の強豪国のほうが、日本よりもシステムや戦術に関するアイデアが豊富だとは感じます。でも、日本代表のメンバーにも経験豊かな外国人選手が多く入って"多国籍"になっていますし、さまざまな情報を交換できているので、チーム力が上がっていることは間違いありません」

――前回のW杯でもそれを証明しましたよね。ファンの中には、プレーはもちろん、髪型で松島選手を覚えている人も多いと思います。

「そうですね。前回大会が終わってからは、街で声をかけられることも多くなりました。髪は2週間に1回くらいのペースで切っています。お店にも行きますけど、自分でも切ります(笑)。もう慣れたもんですよ」

――ちなみに、若い頃から海外でのプレー期間が長いと、聴く音楽も洋楽になるんですか?

「いや、日本のミュージシャンの曲が多いです(笑)。練習がないときは、ポルノグラフィティやORANGE RANGEなどを聴いてリフレッシュしています」

――試合には、どういった準備をして臨むのでしょうか。

「試合前には、今までやってきた練習を振り返ります。そうすると緊張をすることなく集中できるようになるんです。また、試合で勝つために『自分がどのようなプレーをしたいのか』をウオーミングアップのときからイメージしてモチベーションを上げています」

――2度目のW杯となりますが、今回のチームの仕上がりはいかがですか?

「W杯で3勝した4年前のチームのように規律を高めていきたいです。今はすごく厳しく、かつメリハリがあるいい練習ができています。

本番が近づくにつれてよりハードになるでしょうが、自分たちのスタンダードをいかに高くもっていけるかが勝敗を分けると思っています。特に疲れたときでも、自分たちの能力を発揮できるように練習から追い込みたいです」

――個人としての目標は?

「前回大会は先輩たちについていった感じなので、今回は自分もチームを引っ張っていけたらと思います。しっかり存在感を示して、その後にヨーロッパでプレーをしてみたいですね」

――今回のW杯で伝えたいラグビーの魅力は?

「ラグビーは僕をすごく成長させてくれました。人と人が助け合うスポーツですから、ひとりの選手が努力を怠れば、チーム全体の士気に影響が出ます。一丸となって相手に勝ちにいくときの迫力をぜひ見てもらいたいです。

そういったプレーをするためにはファンの皆さんの応援が必要です。思い切り声を出して僕たちを支えてください!」

●松島幸太朗(まつしま・こうたろう)
1993年生まれ、南アフリカ出身。サントリーサンゴリアス所属。ジンバブエ人の父譲りのバネを生かしたフットワークでチャンスを演出。早くから海外のチームで腕を磨き、複数のポジションで高いレベルのプレーを見せる。身長178cm、体重88kg。代表キャップ数34