フジテレビスポーツ局野球班の戌亥芳昭さん。『プロ野球 珍プレー好プレー大賞』に20年上も携わるベテラン
1983年の第1回放送から今年で37年。「野球報道のあり方を変えた」ともいわれるフジテレビの『プロ野球 珍プレー好プレー大賞』。

12月1日(日)の放送を前に、同番組に20年以上も携わる名物ディレクターの戌亥芳昭(いぬい・よしあき)氏を直撃。昭和、平成、令和と3つの時代を股にかけて愛される番組作りの極意を聞いた!

――毎年、膨大な量の「珍プレー好プレー」が新たに生まれる中、これらをどのようにピックアップされているんですか?

戌亥 シーズン中からニュース映像や記事を見て、面白いものがあればその都度、リストアップしています。ただ、全試合の全プレーを確認できるわけではありませんから、そこはCSの『プロ野球ニュース』の担当者とも連携して情報を共有しています。それでシーズンが終わった段階でピックアップした映像を一度、すべて見ています。例えばエラーだけでも年間何百個も生まれるわけで、そのほとんどをチェックするわけですから気の遠くなるような量にはなりますね(笑)

――そこから実際に使用する映像は、どのような基準で決められているのですか?

戌亥 私がいつも意識しているのは、プロ野球ファンはもちろんですが、野球のルールを知らない人が見ても面白いと思ってもらえるような、極力、説明が必要ないシーンを選ぶようにしています。言ってみればラーメン屋さんのテレビで、音なしで映像だけを見ても楽しめるものです。

そうした映像に軽妙な音楽や効果音、さらにナレーションを加えて編集するとさらに面白くなりますから。もちろん、選手へのリスペクトも欠かせません。ですから珍プレーで楽しませてくれた選手については、なるべく好プレーも入れて、プロ野球選手としてのスゴさもお伝えできるようにしています。

――『珍プレー好プレー大賞』といえばフジテレビで、数々の歴史に残る「名作」があると思いますが、20年以上、番組に携わられている戌亥さんにとっての「名作」を教えてください。

戌亥 本当にたくさんあるので選ぶのが難しいのですが、91年に川崎球場でホームランを打った選手が、もらったホームラン賞の人形をスタンドに投げるのですが、それを1日に3回も同じ親子がキャッチするという"事件"がありました(笑)。あの映像はフジテレビでしか撮れないものですし、みのもんたさんのナレーションも絶妙で、私の中では外せない「名作」のひとつです。

――もらう度に娘さんとお母さんが大喜びしていたと記憶していますが、そんな偶然があっていいのか! という衝撃シーンでしたね(笑)

戌亥 実は2年ほど前、あの親子にスタジオに来ていただこうと、リサーチャーまで使って探したのですが、残念ながら足取りがつかめませんでした。もし、これをご覧になっていましたらぜひ、ご連絡ください(笑)。あと川崎球場といえば、クロスプレーになってロッテの袴田(英利)捕手が近鉄のブライアント選手のタックルで失神してしまったことがあるのですが、その時に診察に出てきた球場づきのおじいちゃん医師。彼は番組的には忘れられない"名スター"です(笑)。

取材は放送直前、編集作業まっただ中に行なわれた。画面には懐かしの乱闘映像が

――ドリフのコントに出てきそうなおじいちゃんでしたね(笑)。思えばクロスプレーや乱闘もここ最近はめっきり減りました。これについては少し寂しく思う視聴者も少なくないと思うのですが、このあたりは番組制作にも影響がありますよね?

戌亥 乱闘もそうですし、審判の微妙な判定に監督が激怒するシーンなんかもリクエスト制度の導入でだいぶ少なくなりました。パ・リーグのガラガラの球場でカップルがいちゃついたり、マージャンをやっていたりする画も今の時代は撮ることはできません。

ただ、その一方で球団マスコットのパフォーマンスは確実に進化していますし、今年はファールボールがスタンドのお客さんのビールカップに入る"奇跡"が3回もありました。これは昔と違って各球場が満員だからこそ撮れる映像です。選手のプレーも球場の環境もどんどん変わってきていますが、その時代ならではの面白い映像を視聴者に届けるのが私どもの仕事だと思っています。

――『珍プレー好プレー大賞』といえば、かつてはみのもんたさんのナレーションが番組のシンボル的存在でした。現在はおもにアンタッチャブルの山崎弘也さんが担当されていますが、戌井さんからご覧になって山崎さんのナレーションはいかがですか?

戌亥 以前に『たまッチ!』という番組でザキヤマさんが初めて珍プレーのナレーションに挑戦してくれた時に、すごく光るものを感じました。『珍プレー好プレー大賞』のナレーションはみのさんの時代から台本は一切なく、アドリブの1発録り。

これってものすごく特殊で難しいものなんです。「ピッチャー〇〇が投げました!」と状況を説明してもまったく面白くないのですが、そこをみのさん調で「さぁ、いらっしゃいよ~」とやると何倍も雰囲気が出る。ザキヤマさんはみのさんのナレーションをリスペクトし、また踏襲してくださっている部分もあるようで、私」にとっては非常にやりやすいですし、助かっています。

――みのさんはアドリブの1発録りにも関わらず、ほとんど撮り直しがなかったと聞きましたが本当ですか?

戌亥 本当です。録り直しどころか私は、みのさんが噛んだところすら見たことがありません(笑)。そういう意味ではまさに神業でした。でも、ザキヤマさんもほとんど撮り直しはないですし、そういう意味では職人芸の域に入ってきたなと感じています。

――昭和、平成、令和とこんなにも長く『珍プレー好プレー大賞』が愛され続けるのは、どこに理由があるとお考えですか?

戌亥 番組の根幹でもある、VTRを見て、それをアドリブでナレーションして面白おかしく伝えるという手法があまりに画期的だったからだと思います。それまでのテレビはまず原稿があって、それに沿って映像を見せていくのが常識でしたが、『珍プレー好プレー大賞』はその常識を覆したように思います。ある種の"発明"といってもいいかもしれません。そんな番組の核を、歴代のスタッフがブレることなく受け継いでいったために、今も視聴者の方に楽しんでいただけているのかもしれません。

――最後に今回の放送の見どころをお願いします。

戌亥 まずはその年の「新作」をお届けするのが『珍プレー好プレー』の基本のコンセプトですが、今年は令和元年なので昭和や平成の「名作」も時代ごとに区切ってお見せしようと考えています。現在、監督をされている方々の若い頃の映像や衝撃シーンなども楽しんでいただけると思います。

球界の1年を締めくくるプロ野球特番『中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞2019 』は12月1日(日)(19:00~21:54/フジテレビ系列)にて放送される。フジテレビ野球 (@fujitv_baseball) | Twitter