天皇杯について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第129回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは天皇杯について。新国立競技場のスポーツイベントのこけら落としとして元日に行なわれる天皇杯決勝。国立競技場では6年ぶりとなる今回の決勝戦を目前にして、宮澤ミシェルが天皇杯の思い出を語った。

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正月の風物詩がついに戻ってくる感じだな。天皇杯決勝が国立競技場で行なわれるのは6年ぶり。やっぱり元日に国立競技場で行なわれてこその天皇杯決勝だからね。

国立競技場は2016年12月から着工して、約3年の工期を経て新たに生まれ変わった。12月21日にはオープニングイベントが行なわれたけど、この天皇杯決勝がスポーツイベントとしてのこけら落とし。この試合から新国立競技場の新たな歴史が刻まれていくことになる。

私も現役時代の元日を国立競技場で迎えたことがあるんだ。1989年の元日に決勝が行なわれた第68回大会。当時はまだJリーグ発足前で、国内サッカーで最も注目される試合が天皇杯決勝。普段の日本リーグの試合では満員のスタンドなんてお目にかかれなかったけど、天皇杯決勝だけはビッシリ。身震いするほどだったね。

私の所属していたフジタ工業(現在の湘南ベルマーレの前身)は、現在の横浜F.マリノスの前身にあたる日産自動車と対戦して、延長戦の末に1-3で敗戦したんだ。試合後にメインスタンドでメダルを授与されたけど、新年最初の試合で負けた苦さは、月日が経った今も残っているよ。

時代は移り変わったけど、やっぱり今の選手たちにとっても天皇杯決勝は、一度は踏みたい舞台なのは変わらないと思うな。

J1リーグもJ2リーグも試合数は多いし、Jリーグカップもあるなかでは、天皇杯を早めに敗退した方がオフシーズンを長くとれる。来シーズンに向けてしっかりコンディションを整えられるのは間違いない。

でも、あの新年一発目の張り詰めた空気感での試合は、それ以上の喜びや達成感を選手にもたらしてくれる。それが天皇杯の魅力なんだよな。

天皇杯決勝に臨む選手たちが正月気分に浸れるのは試合翌日からなんだけど、勝ったチームと負けたチームでは天地ほどの差があるんだ。

勝ったチームは天皇杯をタイトル獲得の美酒で終えられるし、新年一発目の勝利で翌日からのお正月も晴れやかな気持ちで迎えられる。でも、これが負けた方になると精神的に酷だぜ。切り替えようと思っても、新たな年が敗戦から始まるし、せっかくのお正月なのに負けを引きずっちゃうからね。

今大会の決勝の舞台に駒を進めたのは、ヴィッセル神戸と鹿島アントラーズ。キックオフは14時35分だけど、令和最初の天皇杯王者を決める試合開始が待ち遠しいし、楽しみでならないよ。

ヴィッセル神戸にとってはクラブ初のタイトル獲得のチャンスだし、優勝すれば来季のACL出場の扉も開く。この試合が現役ラストゲームになるダビド・ビジャが、盟友アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキとのそろい踏みになれば、正月らしい華やかさもあるよな。

一方の鹿島アントラーズは、ACL、リーグ戦、Jリーグカップ、天皇杯で通算20回の優勝を誇るけど、21個目のタイトルになるこの大会にかける思いは強いはずだよ。リーグ戦終盤に失速してタイトルを逃した悔しさがあるだろうし、退任が決まっている大岩剛監督の花道を飾りたい思いがあるだろうからね。

果たしてどちらのチームが、晴れやかな気持ちで新年を迎えられるのか。

私はこの天皇杯決勝をNHKラジオで解説するんだけど、キャリアで唯一の天皇杯決勝だった68回大会で優勝した日産自動車のエースだった木村和司さんと一緒。懐かしい話も出るかもしれないな。昭和から平成へ、そして令和の新たな時代の幕開けになる試合を、ぜひ楽しんでくださいね。

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