アトレティコ・マドリードについて語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第143回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマはアトレティコ・マドリードについて。中断前に6位とラ・リーガでの不調が続いているアトレティコ・マドリード。そんな中、CLでは昨季の王者であるリバプールに劇的勝利を果たした。なぜ、不調にもかかわらずリバプールに勝利できたのか? 不調の理由と合わせて宮澤ミシェルが考える。

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ディエゴ・シメオネにとって今シーズンの終盤戦は、監督キャリアの大きなターニングポイントになると思うよ。

2011年12月にアトレティコ・マドリードの監督に就任し、2011-2012年のヨーロッパリーグで優勝。2013ー2014シーズンは18年ぶりのリーグ優勝に導いた。

このシーズンはチャンピオンズリーグでも40年ぶりに決勝進出を果たしたよね。ポルトガルのリスボンで行なわれたファイナルは延長戦で1-4と敗れはしたものの、レアル・マドリードとのマドリードダービーを実現させた手腕は見事だった。

2015-2016年もCL決勝に進んだものの、ふたたびレアル・マドリードに敗れて準優勝になったけど、2017-2018年シーズンはヨーロッパリーグの決勝戦で酒井宏樹のいたマルセイユを破ってタイトルを獲得したよね。

この時は準決勝での退場処分によって監督は大舞台のベンチに入れなかったけど、振り返ってみれば、このエピソードもシメオネらしく思えるよ。

強烈なカリスマ性と強力なリーダーシップで、ラ・リーガでは昨シーズンまで7季連続して3位以内でフィニッシュ。CLやELでも見事な手腕を見せてきたシメオネだけど、今季のラ・リーガでは6位と苦戦が続いていたんだよね。

一番の原因は得点力。今季は27試合を終えて31得点。首位のバルセロナの63得点はすごすぎて比べるのが可愛そうだけど、2位のレアル・マドリードの49得点、3位のセビージャの39得点、4位のソシエダの45得点、5位のヘタフェの37得点だからね。

数字がすべてを物語るわけではないとはいえ、アトレティコの場合はゴールが決まらないから、勝ち点が奪い切れないという循環にハマっているのは顕著なんだよな。

ジエゴ・コスタがいればここまで苦しまなかったと思うけれど、ヘルニアで離脱したのが痛かったよな。20歳の新鋭のジョアン・フェリックスや、チェルシーで出番に恵まれなかったアルバロ・モラタが頑張っているけれど、それでもまだまだ足りない。

ジョアン・フェリックスは、もっと大きくブレイクするかなと期待していたんだけど、プレーの幅が多くはないよな。若いわりにはすでに得意な形を持っている選手だけど、相手DFからすればゴールから遠いところでプレーさせれば怖さは消えてしまう。その辺りの駆け引きの面でまだ未熟。ただ、20歳の選手にあれもこれも期待するのは酷だし、2、3シーズン後にはとんでもない選手になっているのは間違いないよ。

逆の見方をすれば得点力が課題のチームだからこそ、チャンピオンズリーグでは決勝トーナメント1回戦でリバプールに勝利できたとも言えるんだよ。

シメオネにしたら、防御をガッチリと固めてからのカウンター頼みのプラン以外はなかったよな。それが本拠地での第一戦でハマって1-0で勝利。アウェーでの第2戦はラッキーな面があったとはいえ、延長線の末に2戦合計4-2で勝利できた。

今シーズン序盤戦から圧倒的な強さを誇ってきたリバプールが調子を落としていたことや、守護神のアリソンが欠場していた面は確かに大きい。

内容を見れば、それでもリバプールが勝っていて不思議はないほどの力の差がありながらも、勝利という結果をもぎ取れたのは、シメオネ監督の軍隊のような厳しい規律のもとにチームが働いたからだと思うよ。

あの試合はシメオネ監督のもとでヨーロッパを席巻していた頃の"アトレティコ・マドリードの雰囲気"があったよな。

ここ数シーズンはラ・リーガで上位の常連になって、ヨーロッパの舞台でも結果を残してきたことで少し変わった印象があったんだよね。特に今季は、シメオネのもとで大黒柱としてチームを支えてきたディエゴ・ゴディンが、今季開幕前にインテルに移籍した影響も大きかったように思う。

外から見ていて感じるくらいだから、チーム内にはマンネリ感とか閉塞感とかあったんじゃないかな。だけど、そうしたものをチャンピオンズリーグでは番狂わせとも言える結果を残して、チームの雰囲気を上向きに変えることができた。さらに新型コロナウイルスの影響でラ・リーガもCLも中断となったことで、チームを抜本的に立て直す時間もつくれる。

アトレティコのどこに問題があるのか、誰よりもわかっているのはシメオネだからね。この期間中にしっかり修正してくると思うんだ。

新型コロナウイルスの影響で再開のメドは立っていないけど、今季のCLが再開されたら、期待しちゃうのは3度目のマドリード対決の決勝戦だよ。過去2回の決勝で煮え湯を飲まされたシメオネが、レアル・マドリードをぶちのめしたら、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか夢想しちうんだよ。

サッカーがない日々は退屈だけれど、こればかりは仕方のないこと。いまは頭のなかでサッカーを楽しみましょうよ!

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