エンゼルスの大谷は、右肘の手術のリハビリ組として特例でスタジアムの使用を許可されている。投手と打者の二刀流復活へ、ブルペンで調整を進めているようだ

コロナショックにより、3月半ばから一斉に活動を停止した米スポーツの再開がいつになるかはめどが立っていない。ニューヨーク、ロサンゼルスといった大都市が依然としてロックダウン(都市封鎖)されているだけに、再び機能し始めるまでに長い時間がかかっても不思議はないだろう。

そんな状況下でもMLB、NBAは再開へのプランを検討している。MLBはアリゾナとフロリダ、NBAはラスベガスに全チームを集め、無観客でシーズンを行なう案が話し合われているという。

コンセプトはどちらも同じ。選手、コーチ、スタッフを長期間にわたってホテルに隔離し、不要な外出を禁止した上でゲームを開催する。無観客、無移動でのリーグ戦ならば、感染のリスクを低く抑えられることは間違いない。MLBのキャンプ地だったアリゾナとフロリダには十分な数の施設があるし、ラスベガスにもNBAの全チームが参加するサマーリーグを開催してきた実績がある。

「7月4日にテレビをつけたら、MLBの試合が行なわれているかもしれない」

4月15日、国立アレルギー感染症研究所所長で、コロナ対策の主要メンバーであるアンソニー・ファウチ博士がそう語り、大きな話題になった。ファウチ博士が挙げたMLB開催の必須条件は「無観客」「選手の完全隔離」「週1回のウイルス検査」の3つだ。

一部で伝えられているとおり、5月、6月にコロナウイルスのテスト方法が進歩したら、MLB、NBAは夏の再開に希望が見えてくるかもしれない。シーズンの大半を終えているNBAは、必要な期間がプレーオフのための約1ヵ月間と短いため、実現の可能性はより高そうだ。

しかし、こういったプランがファンに希望を与えている一方で、「無謀すぎる」という冷静な声も少なくない。リーグ全体の隔離によるシーズン挙行は、一見すると理にかなっているように思えるが、越えなければならないハードルがあまりにも多いのだ。

選手、コーチ、リーグ関係者だけでなく、ホテル、レストラン、交通手段、テレビ局などを、数ヵ月にわたって完全隔離することは本当に可能なのか。複数の感染者が出た場合、どう対応するのか。チームスポーツは関わる人数が多いため、集団隔離実施時のコストも半端ではない。

全米各地で外出自粛が要請されている状況での、選手たちの調整の難しさも無視できない。とりわけ、日本人選手を含む外国人アスリートは環境を整えるのが厳しいだろう。トミー・ジョン手術からの回復途上ゆえ、スタジアムへの出入りが許されている大谷翔平(エンゼルス)は幸運なケースだが、アメリカに残っているほかのMLB選手や、NBAの八村 塁(ウィザーズ)らは練習場所の確保に苦労しているはずだ。

また、全米ですでに4万人以上の死者も出ているなかで、スポーツの再開に全力を注ぐことはモラル的に正しいのかという議論もある。多くの人が職を失い、主要都市でも医療崩壊の恐れがささやかれている状況で、"億万長者たちの集団隔離"を強引に推し進めれば反発もあるだろう。

障害になる要素は多いだけに、クリエイティブなアイデアが報道された後でも、「今年中にメジャースポーツが開催されたら驚く」と言う関係者は少なくない。

遠からず再開できるスポーツがあるとすれば、個人競技のゴルフ、テニス、あるいは単発興行の格闘技などだろう。関係者を隔離する際、チームスポーツに比べて人数が格段に少ない点がアドバンテージになる。用具もシェアしないで済むゴルフは、「6月のPGAツアー再開を目指している」と報道されたばかりだ。

総合格闘技では、UFCが4月18日の興行をもくろんだものの、これはさすがに時期尚早と、独占放映権を持つ米スポーツ専門局「ESPN」と、その親会社のディズニーからストップがかかった。

ただ、UFCの代表を務めるデイナ・ホワイトは早期の再開を諦めていない。格闘技スポーツの全面中止を通達した、カリフォルニア州のアスレチック・コミッションの管轄外である、インディアンカジノやプライベートアイランドでの興行を模索している様子で、5月9日に次の大会開催を目指しているとも伝えられている。まだ世間が騒がしいなかでイベントを挙行できるかどうかに注目が集まっている。

世界戦が延期され、今は「6割程度」で練習しているという井上。早めに現地入りしていた対戦相手のフィリピン人ボクサー、ジョンリエル・カシメロは帰国できずにいる

日本人選手の海外進出が目立つようになったボクシングも、3月中旬以降はイベントが行なわれていない。4月25日にラスベガスで予定されていた井上尚弥の世界バンタム級統一戦も、やむなく延期。今のところ、具体的な再開予定は報道されていない。

とはいえ、フロリダ州が4月13日に、米プロレス団体WWEの興行を「不可欠なビジネス」として認定したことで、ボクシングにも扉が開かれたという見方がある。フロリダ州が許容するのはWWEだけではなく、井上が所属するトップランク社のプロモーター、ボブ・アラムも同州での興行開催に興味を持っているという噂もあるようだ。

まずは、関係者が迅速にテストを受けられる医療体制の構築が大前提。もちろん無観客興行が基本で、サウル・アルバレス(メキシコ)のような人気選手、あるいは井上のような海外選手の試合挙行はしばらく難しいだろう。

しかし、たとえ中小興行でもボクシングが開催されれば、その意味は大きい。MLB、NBAより先に、UFCやボクシングなどが再開され、新たな道を切り開いていく可能性は高そうだ。