新人王候補の筆頭に挙げられる広島1年目の森下暢仁。デビュー戦でいきなり7回無失点。初勝利を挙げた先発2試合目は、完封勝利まであと一歩の快投を見せた

コロナ禍のため、開幕が6月19日までずれ込んだプロ野球。例年より試合数が20以上少なく、約2ヵ月半も短いシーズンを戦っている。若手選手にとっては自分の存在をアピールする機会が少なくなる、まさに"死活問題"だ。

しかし、そんな逆境にも負けずに鮮烈な1軍デビューを飾った男たちがいる(7月13日時点。以下同)。チャンスをつかみつつある新鋭を紹介していこう。

まずはルーキー組から。森下暢仁(広島)は、明治大では角度のあるフォームから勝負できる球種が豊富な投手だった。ドラフト1位で入団した今季は「新人王候補筆頭」と目されている。

開幕直前の練習試合では打ち込まれる試合が続いたが、開幕後は見事にアジャスト。3試合に先発して1勝1敗、防御率2.18と評判どおりの実力を見せている。ただ、7月10日にはコンディション不良を理由に登録抹消。早い復帰が待たれる。

東芝からドラフト3位で中日に入団した岡野祐一郎は、驚くような球はないものの、持ち前のゲームメイク力を武器に開幕ローテーションに加わった。7月2日の阪神戦でプロ初勝利を挙げたものの、打ち込まれる試合も目立っている。新人ながら26歳という年齢だけに、1年目から勝負をかけたい。

リリーフ陣はどのチームも層を厚くしたい思惑があるだけに、ルーキーにとってチャンスが多い働き場だ。特に高い能力を発揮しているのは宮川 哲(西武)。

東芝で前出の岡野と"二枚看板"を張り、ドラフト1位で入団した現在は適性の高いリリーフに転向。社会人時代からの剛速球と、捕手が止めきれなかったパワーカーブはプロでも通用している。

好不調の波を小さくして、首脳陣から勝ちパターンで起用されるだけの信頼を勝ち取れば、新人王の芽も出てくる。

ほかにも慶應義塾大時代からリリーフで活躍したパワーピッチャーの津留﨑大成(楽天)、貴重な中継ぎ左腕として存在感を示す橋本侑樹(中日)、初見でとらえるのが難しい変則サイドの津森宥紀(ソフトバンク)といった個性派が輝きを放っている。

新人野手で楽しみなのは小深田大翔(楽天)である。大阪ガスでは小柄ながら、俊足好守の遊撃手として活躍。プロでは先発、代走、守備固めと幅広い起用法に応えている。過密日程の今季にレベルの高い内野手が控えるのは、チームも頼もしいはずだ。

続いて既存戦力から台頭した選手だが、昨年のパ・リーグ王者の西武は、開幕前の練習試合から投打で新戦力が猛アピールした。

技巧派アンダースローの與座海人は、大学時代からの右肘の故障をプロに持ち込み、一時は育成選手降格を味わうなど雌伏(しふく)の時を過ごした。

だが、傷が癒えた3年目の今季は持ち味の打者のタイミングを外す投球がさえ、開幕ローテーション入り。ここまで4試合に登板して0勝2敗と結果は残せていないものの、巻き返しに期待だ。

野手では、昨年に投手から転向した川越誠司に注目したい。爆発的なインパクトを誇る打撃が最大の魅力で、西武の"山賊打線"に新たな彩りを加える可能性を秘めた大器だ。

開幕後はバットが湿りがちも、そのフルスイングには夢がある。秋山翔吾(現レッズ)の抜けた穴を伸び盛りのヒットメーカーの卵・鈴木将平らと競う。

育成ドラフト会議で入団し、支配下登録を勝ち取った非エリートの活躍も見逃せない。長谷川宙輝(ヤクルト)は東京の聖徳学園という無名校の出身。かつては人数不足で大会に出られなかったり、20点差で負けるのが当たり前だったりする、典型的な弱小校だった。

だが、中里英亮監督と二人三脚で努力した末、ソフトバンクに育成ドラフトで拾われた。

ソフトバンクで3年を過ごしたのち、支配下契約を提示したヤクルトに移籍。今季は開幕から150キロ前後のキレのある速球を武器に、貴重な中継ぎ左腕としてキャリアを積んでいる。

変わり種なら和田康士朗(ロッテ)も負けてはいない。何しろ高校時代は陸上部に所属していたのだ。それでも、高校在学中にクラブチームで野球に取り組み、独立リーグを経て育成ドラフトでロッテ入り。今季は支配下登録を勝ち取ると、代走のスペシャリストに定着した。

開幕戦のソフトバンク戦では1点ビハインドの9回表に代走で登場し、球界屈指の強肩・甲斐拓也から盗塁を決めてみせた。この盗塁を突破口に一時は同点に追いついたように、和田の足にはチームを勢いづける力がある。

ソフトバンクの充実した育成環境で大化けしつつある尾形崇斗も、育成選手から1軍デビューを飾ったひとり。度肝を抜かれる剛速球にブレイクの予感がプンプンする。

開幕スタメンに抜擢(ばってき)され、短期間に2本塁打を放った野村佑希(日本ハム)は高卒2年目の20歳。将来は清宮幸太郎と共に主軸を張れる好素材だ。それだけに右手小指を骨折し、全治3ヵ月の重傷を負ったのは残念だった。

やや地味ながら、1軍に定着しつつあるのが廣澤伸哉(オリックス)だ。2017年にドラフト7位で入団した内野手が、高卒3年目の今季は高い守備力を武器に開幕1軍入り。非力さは否めないものの、プロ初安打も放ち着実にチャンスを生かしている。

ペナントレースが佳境に差しかかる秋に向けて、新戦力の台頭は歓迎されるはず。新たな1軍デビュー選手の出現を心待ちにしながら、プロ野球観戦を楽しもう。