開幕2試合で合計5トライを記録した帝京大の江良。同学年で高校時代から怪物と呼ばれるチームメイトの奥井と共に、名門のFW陣の中で存在感を放っている

新型コロナウイルスの影響で、ラグビーは3月にトップリーグが中止になり、大学の春季大会、夏と秋の日本代表戦も行なわれなかった。

そんななかで10月4日、例年より1ヵ月遅れて関東大学ラグビーが開幕。例年どおり、対抗戦Aグループ(以下対抗戦)、リーグ戦1部(以下リーグ戦)とも8校ずつ総当たりで戦い優勝を決める。

昨年度、対抗戦の2チームが大学王者を決める大学選手権の決勝に進出したため、今年度は対抗戦(明治、早稲田、帝京、筑波、日体、慶應義塾、青山学院、立教)から上位5校、リーグ戦(東海、日本、流通経済、大東文化、法政、中央、専修、関東学院)から上位3校が大学選手権に出場することができる。

各大学は自粛期間が明けた6月中旬や7月、大学によっては8月に入ってから、日本ラグビー協会のガイドラインにのっとって練習を再開。準備期間は短くなったが、監督や選手たちは「コロナ禍で試合が行なわれたことに感謝したい」「試合ができてうれしい!」と声を弾ませた。

関東大学ラグビーの56試合中29試合は無観客試合となった。残りの27試合は有観客試合でも、例えば秩父宮ラグビー場では5000人、熊谷ラグビー場では3000人を上限とし、観客もソーシャルディスタンスを取りつつ、マスクを着用し声を出さないといったルールで実施されている。

もうひとつの主要リーグである関西大学Aリーグは、10月10日に開幕予定だったが、寮で62人のクラスターが発生した天理大や、9月まで全体練習を制限していた関西学院大を考慮して、11月7日開幕に。大学選手権に出場する3校を12月上旬までに絞る必要があるため、8校を2グループに分けて、最後に順位決定戦を行なう形となった。

関東大学ラグビーは10月18日までに、16校すべてが3試合を消化。対抗戦は昨年に優勝した明治大、大学選手権の王者・早稲田大、2017年まで大学9連覇を達成した帝京大が危なげなく3連勝。今年度も「3強」が上位を占めそうで、筑波大と慶應大がそれに続きそうだ。

一方のリーグ戦も、3連覇を狙う東海大、昨年2位と躍進した日本大、昨年3位の流通経済大が無傷の3連勝スタートになった。やはりこの「3強」が優勝を争いそうで、法政大、専修大がそれに絡めるかが注目される。

夏の菅平合宿を行なわなかったチームもあるなかで、本番を迎えてプレーの強度が上がったことから、関係者からは「例年よりもケガ人が多い」という声をよく聞く。

それでも、昨年のラグビーW杯の熱狂を高校3年時に体感したルーキーたちが躍動している。将来、日本代表でプレーするかもしれない注目の1年生を、対抗戦「3強」の大学から見ていこう。

3試合の平均得点が91点と好調で王座奪還に燃える帝京大には、強力FW(フォワード)の中心選手として頭角を現しているふたりがいる。大阪桐蔭2年時に「花園」で初優勝に貢献し、高校日本代表にも選出されたHO(フッカー)江良 颯(えら・はやて)と、NO8(ナンバーエイト)奥井章仁だ。

特にHO江良は開幕戦でハットトリックを達成し、2戦目でも2トライ。171cm・106kgと決して大きくない体ながらパワーを見せつけ、名将・岩出雅之監督も「1年生じゃないみたい」と舌を巻いた。

チームの司令塔、背番号10を背負う明治大の池戸。正確なキックが魅力で、開幕戦ではゴールキック8本を決めるなどマン・オブ・ザ・マッチに選出された

昨年、対抗戦で全勝優勝を果たした明治大は、東海大相模出身の1年生SO(スタンドオフ)池戸将太郎が、いきなり10番を背負って3戦連続先発。キックやパスといったスキルの高さを披露した。

「花園」には出場したことがないが、今年度には全国に名を知らしめるかもしれない。明治大は池戸のほかにも、5人の1年生が"紫紺デビュー"を果たしている。

「選抜」「7人制」「花園」の高校3冠を達成した、桐蔭学園の主力選手だった早稲田大の伊藤。複数のポジションでプレーが可能で、ケガからの早期復帰が待たれる

早稲田大では昨年度、桐蔭学園の高校3冠に大きく貢献したSO/CTB(センター)伊藤大が即戦力として期待されていた。パス、ラン、キックの三拍子がそろっており、1年生で唯一、レギュラー組として練習に参加していたが、ケガで出遅れることに。それでも後半戦には、レギュラー争いに絡んでくるだろう。

その3大学に続きそうな筑波大では、元日本代表WTB(ウイング)福岡堅樹の筑波大と福岡高の後輩にあたる、CTB谷山隼大が開幕から気を吐いた。ランだけでなく、もともとFWだったためタックル後の密集によるボールの奪い合い、空中戦も強い。タイプが違うランナーだが、「福岡2世」として耳目を集めそうだ。

慶應大では、開幕戦からFB(フルバック)の定位置を山田 響が確保。報徳学園2年時に高校日本代表に選ばれただけでなく、ユース五輪の代表として銅メダルを獲得しており、そのポテンシャルを大学でもいかんなく発揮している。

リーグ戦では、留学生も注目を集めそうだ。東海大は、東海大福岡2年時から高校日本代表に選ばれていたWTBポロメア・カタが開幕戦で先発出場。木村季由監督が「僕がトンガに行って声をかけた」という逸材で、パスやキックのスキルにも定評がある。

日本大には、フィジー代表として"セブンズの神様"の異名を取ったワイサレ・セレヴィを父に持つセレヴィ(父と同名)が加入。父が日本でのプレー経験があることから入部が決定したというセレヴィは、187cm・93kgという恵まれた体格ながら足も速く、スキルも高いという。

夏にケガをし、早くても後半戦からの出場になりそうだが、大きな戦力になりそうだ。

3月に予定されていた高校代表のウェールズ遠征は中止になり、大学に入ってもオンライン授業が中心。多くの困難の中でもラグビーに集中し、成長を遂げた"黄金世代"となりえるルーキーたちが、大学ラグビーを盛り上げる!