型にはまらない野性味を持った選手の育成は、今後の日本サッカーの大きな課題だと語るセルジオ越後氏

大会期間中、1都3県に緊急事態宣言が発出されたため、準決勝以降は無観客試合になってしまったけど、決勝まで無事に終えられて本当によかった。

全国高校サッカー選手権は山梨学院の11年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。青森山田との決勝は延長戦でも勝負はつかず、2-2のままPK戦までもつれ込んだ。この両チームに限ったことではないけど、今年度はコロナの影響で大会や練習が中止になったり、いろいろと難しい状況だったはず。

そのなかで決勝まで勝ち上がり、ひたむきにプレーする高校生たちの姿には胸を打たれたよ。できれば満員のスタジアムでプレーさせてあげたかった。

戦前の予想は、タレントぞろいの青森山田が山梨学院の堅守をどう崩すのか。いずれにしても、前半はお互い慎重な試合運びをするとみていた。ところが、前半12分に山梨学院が先制点を奪い、一気に試合が動いた。同点に追いつこうと前がかりになる青森山田に対して、カウンターを狙う山梨学院。非常に見応えがあったよ。

正直に言えば、後半18分に青森山田が逆転に成功した時点で、僕は勝負あったと思った。ところが、山梨学院の選手たちは集中力を切らさなかったね。準決勝から中1日の開催で疲れもあるはずなのに、後半33分、素早いリスタートに何人もの選手が反応して同点に追いついた。この大会にかける気持ちが伝わるプレーだった。

地力で上回る青森山田に対し、山梨学院は相手の実力を認めた上で、よく走り、ボール際も激しかった。そして少ないチャンスを確実に決めた。それが勝因だろう。

ただ、PK戦は運の部分が大きい。青森山田も素晴らしいサッカーをしたし、準優勝でも胸を張ってほしい。

今大会は青森山田をはじめ、多くのチームがロングスローから得点を決めたことでも話題を呼んだ。「好きか嫌いか」「戦術としてアリかナシか」とね。でも、ロングスローは高校サッカーの舞台では決して目新しいものではない。

以前、僕がテレビ解説をやっていた時代でも、市立船橋や国見といった強豪が武器にしていた。今大会はロングスローを使う学校が多かったのかもしれないけど、これだけ目立てば今後は各チームが守り方を考えるはず。ロングスローから点が入らなくなれば、自然と減るんじゃないかな。

それよりも僕が気になったのは、今回も"怪物"が現れなかったこと。例えば、大迫(ブレーメン)や平山(元FC東京など)みたいな強烈なFWがいれば、ロングスローがここまで話題になることもなかったはず。

確かに、昔に比べて選手の平均レベルは格段に上がった。プロのクラブのように監督以外にもコーチ、スタッフが何人もいるチームも珍しくなく、選手をしっかり管理していて、誰が出ても同じようなプレーができる。それを否定するつもりはないし、実際、勝利への近道だと思う。

ただ、全体的に小粒な印象を受けるのも事実。高卒1年目からJ1で大活躍するような選手が減ったのは偶然ではないだろう。

すべての選手がこの世代で完成するわけじゃない。その前提を踏まえて、ほかの選手と同じことができなくてもその個性を評価し、目先の結果にとらわれすぎずにトライさせてあげること。型にはまらない野性味を持った選手の育成は、今後の日本サッカーの大きな課題だ。

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