クラブW杯について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第189回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、クラブW杯について。バイエルン・ミュンヘンが圧倒的な力を見せつけ王者に輝いたクラブW杯。年々、欧州とそれ以外で力の差が開き、以前と比べると盛り上がりにかけつつある印象の本大会だが、その存在意義を宮澤ミシェルが改めて語る。

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バイエルンはやっぱり強かった。2月にあったFIFAクラブワールドカップ決勝でティグレス(メキシコ)を1-0で下して優勝。結果だけ見れば1点差だから接戦のように思えるけど、内容はバイエルンが圧倒し、危なげなく1-0で試合を終わらせた感じだったよ。

そのバイエルンの強さが際立ったのは、準決勝のアル・アハリ戦だった。ブンデスリーグ戦から中2日で迎えたバイエルンは、アル・アハリの攻撃を受けることもあったんだけど、そこでの対応がやっぱり全然違ったね。

アル・アハリの仕掛ける速攻も鋭さがあるんだけど、バイエルンの選手たちは完全に読み切ったように封じていた。自分たちがボールをポゼッションできなくても、勝ち方を知っている。戦い方の引き出しの多さとクオリティーの高さが、他とはレベルが違うんだよな。

逆にアル・アハリは速攻だけの一本調子になったのが残念だったね。格上相手に自分たちの最大の武器で挑む気持ちは理解できるけど、それが逆にバイエルンの思うツボだった。

クラブワールドカップは一応、5大陸のクラブ王者が対決する舞台だけど、実際はヨーロッパ王者にどこが挑戦するかの構図になっている。

我々の若い頃はトヨタカップで南米王者が欧州王者としのぎを削って追い落とすこともあったけど、いまは若い有望選手がどんどん欧州に引き抜かれていることもあって、ほかの大陸王者に足元をすくわれて決勝にたどり着けないことも増えた。

ヨーロッパ勢にしたら、格下相手ばかりのこの大会に出場する意義は名誉しか見当たらないものになっているよね。そういうこともあって、最近はまたヨーロッパの16のビッグクラブが『欧州スーパーリーグ構想』を画策していて、それに対してFIFAやUEFAなどが「承認しない」と牽制している。

サッカーの世界的発展という見地に立てば、やっぱり反対だよ。確かに世界のトップレベルにある16のクラブによるリーグ戦は魅力的だよ。でも、それが誕生したら、そこは潤うけど、ほかの国やリーグは選手を供給するだけになってしまって、発展しなくなる可能性が高いからね。

確かにクラブワールドカップは欧州勢にとっては日程面で選手に過酷を強いるだけのもの。だけど、欧州以外の大陸王者にとっては、バイエルンだ、レアル・マドリードだ、バルセロナだ、リヴァプールだといった世界有数のクラブと対決できる唯一の舞台で、それによって各大陸のレベルは間違いなく高まっている。

日本にとってもACLを勝ち抜いて、クラブワールドカップに出場して、欧州王者と戦うのは大きなモチベーションになっている。

2016年に鹿島アントラーズが決勝に進出してレアル・マドリードと延長戦にまでもつれ込む熱戦を繰り広げたし、2007年には浦和レッズが準決勝でACミランを0-1と苦しめ、翌年にはガンバ大阪が準決勝でマンチェスター・ユナイテッドに、敗れはしたけれど3-5の打ち合いを挑んだのは、くっきりと脳裏に焼き付いているもんな。

今回のクラブワールドカップはカタールで開催されたり、新型コロナの影響があったりして、国内での注目度は低かったけど、今年は12月に2016年以来の久しぶりに日本で開催される。開催国枠のJリーグ優勝クラブのほかに、ACLで優勝すれば日本からは最大2チームが出場できるからね。これは楽しみだよ。Jリーグ勢が世界を「あっ!」と驚かせることを、いまから期待しているんだ。

それにしても、バイエルンはクラブワールドカップのタイトル獲得で、昨季のブンデスリーガ、DFBカップ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)と、今季のUEFAのスーパーカップ、DFLスーパーカップと合わせて6冠。今季のリーグ戦も優勝が見えているからね。CLは決勝トーナメントが始まったけど、バイエルンがどれくらいタイトルを独占するのか興味は尽きないね。

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