開催が4ヵ月後に迫る東京五輪。SNSやメディアでは「中止すべし」の声が相次ぐなか、サッカー日本代表の堂安律(どうあん・りつ)がひとりのアスリートとして思いの丈を打ち明ける――。

■なんの信念もなく、「中止でいいだろ」と言われても納得できない

海外で生活しているので、東京五輪に関する日本の温度感はあまり感じ取れていないんですけど、「東京五輪は中止でいい」という意見が日本で根強いことはもちろん知っています。ただ、ひとりのアスリートとして、あえてこれだけは言わせてください。

絶対に東京五輪を開催してほしい――。

コロナで延期になっても、この気持ちがブレることは一度もなかったし、どうしても譲れない俺の本音です。中3の頃から憧れ続けた夢の舞台だし、そこで活躍するために必死でサッカーがうまくなるようにがんばってるんで。どれだけ世間にバッシングされても、「東京五輪に出たい」と俺はハッキリ言い続けますよ。

まだまだコロナは終息しないし、世間の風当たりが厳しいのもわかっています。でも、東京五輪に出ることを本気でイメージし、準備万端でその日が来るのを今か今かと待ち続けている選手がいることを忘れてほしくないんです。

日本人選手が自国開催の東京五輪にかける気持ちはどれほどのものなのか。どれほど一生懸命なのか。そういう思いが世間に伝わっていないのはすごくもどかしい。

誰も声を上げないなら、俺が言いますよ。「東京五輪めちゃくちゃやりたいです。やらせてください」って。別に世間にケンカを売っているわけじゃないですよ。コロナの状況もわかっていますから。でも、どうしてもこの気持ちは抑えられないんです。

あと4ヵ月でコロナを終息させることは不可能だけど、こういう状況でもなんとか開催するために最善を尽くしている人たちもいます。俺もできることはなんでもやりたいけど、選手としてはやっぱり、本番でいいパフォーマンスを見せることに尽きると思う。

オリンピックは単なるスポーツのイベントじゃない。プロアスリートとして、そのエネルギーや影響力を痛感するからこそ、「東京五輪なんか中止でいいだろ」となんの信念もなく言われるのは納得できないです。

■トップアスリートは意見をハッキリと表明する責任がある

SNSが発達しすぎて誰もが意見を言える時代だからこそ、世間の目を気にするのもわかるけど、アスリートはもっとストレートに自分の意見を言うべきだと思います。

自分の気持ちを表明しないで、お茶を濁した発言ばかりなのはおかしい。当事者のアスリートが本音を言わないと何も始まらないですよ。

もちろん日本で活動しているアスリートはしがらみも多いだろうし、彼らには彼らの立場や意見もあると思う。でも、オリンピックに出るようなトップアスリートは自分の気持ちをうやむやにせず、ハッキリと表明する責任があると思うんです。

本音と建前の、建前ばかり言う人が多くてすごくもどかしいんですよ。世論に同調するようなことを言ってバッシングを避けている人が多いけど、本音はどうなんだと。「東京五輪を開催してほしい」という気持ちがあるなら、それを表明すればいいのに。

もし中止すべきだと思っていたり、開催することに対して葛藤があったりするなら、その意見をそのまま表明すべきだし、貫き通すべきです。

中途半端なことしか言わない人はどこかで保険をかけているし、世論に負けてしまっていると思う。「それってプロフェッショナルとして本当に正しいのか?」ということを問いたいです。

撮影/中島大介

■同じアスリートでも立場によって反応が違う

そうはいっても、「絶対に東京五輪を開催してくれ」と表明する選手が出てこないのも仕方がないかもしれない、とも思っていますよ。

だって、東京五輪に出場する可能性のあるアスリートはほんのひと握りなので。むしろ、出たくても出られない選手のほうが圧倒的に多い。だから、アスリートが全員、ポジティブなわけでもないんですよね。

これ、東京五輪出場が内定しているかどうかで意見が変わってくる可能性もあると思います。

内定をもらっていたり、出場が濃厚だったりする選手は「全然開催できるでしょ」と反応するけど、内定をもらっていなかったり、当落線上だったりする選手は「絶対に無理でしょ」と反応することもある。同じアスリートでも、置かれた立場によってここまで反応が違うんです。

でも、冷静に考えてみれば、出場できる可能性が低い選手が「東京五輪なんかやらなくていい」と批判的になる気持ちも理解できます。自分がそういう立場だったら、もしかしたら同じような反応をするかもしれない。

結局、「東京五輪を開催してほしい」と願う当事者はどうしたって少なくなるんですよ。それが今の世論にも反映されているんじゃないですかね。何事も反対意見のほうが圧倒的に強くなる時代だし、アスリートにしろ、世間の声にしろ、根本的に「1対9」という構図は一緒なんだと思います。

でも......だからこそ、俺は声を大にして、「東京五輪を開催してほしい」と訴えたいんですよ。アスリートが本音を明かすことに意味があると信じているので。

もちろん、現段階で俺は東京五輪出場が確定しているわけではないですよ。でも、出る気満々です! だって、自国開催のオリンピックに出られるチャンスが目の前にあるんですよ? 

ネガティブな意見が根強いことはわかっています。でも、東京五輪は感動が生まれる夢の舞台なんですよ。ひとりでも多くの人にオリンピックの可能性を信じてもらいたいし、ひとりのアスリートとして、絶対に信じさせてみせます。

■聖火ランナーの辞退者が多いなら俺がひとりで走りますよ

個人的な意見を言わせてもらうと、やるからには会場にお客さんを入れてほしい。今、Jリーグでもプロ野球でも、スタジアムの収容率に応じて数千人の観客を入れて開催していますよね?

世界の流れを見ても、5月末のチャンピオンズリーグ決勝では3万人以上の観客を入れる予定だし、これで東京五輪は無観客というのも納得できない。何かしらの制限を設けてでも、観客は入れてほしいと思います。

1年延期になりましたけど、東京五輪が無事に開催されれば、多くのドラマが生まれますよ。世界中が注目するし、2021年の東京五輪は忘れられない大会になる。ピンチはチャンスってこのことですよね。もちろん延期に伴って、日本が背負うコストはかさんでいるけど、オリンピックはほかのスポーツイベントとは重みが違いますから。

最近、スケジュールが合わないことを理由に聖火ランナーを辞退する人が増えていますけど、もし枠が空いていたら、ぜひ俺を指名してほしいですね。

聖火ランナーですよ? こんな名誉なことはないでしょ。東京五輪を少しでも盛り上げたいので、もし辞退する人が多いんだったら、600mでも800mでも俺がひとりで走りますよ!

●堂安律(どうあん・りつ)
1998年6月16日生まれ、兵庫県尼崎市出身。ガンバ大阪、FCフローニンゲン(エールディビジ)を経て、2019年8月にPSVアイントホーフェン(同)へ完全移籍。2020年9月、アルミニア・ビーレフェルト(ブンデスリーガ)へ期限付き移籍。2018年9月に満を持して日本代表デビュー

■『週刊プレイボーイ』でコラム「堂安律の最深部」隔週連載中