東京六大学で注目される法政大4年の山下。楽天のドラ1ルーキー左腕、早川は高校のひとつ上の先輩。肘の故障を乗り越え、今年に本格開花が期待される

今春、甲子園球場で選抜高校野球大会が開催された。観客1万人の入場制限はあったが、2年ぶりに開催された春の祭典は異様な熱気に包まれ、東海大相模が10年ぶりの優勝を遂げた。

プロ野球スカウト陣の熱視線を浴びたのは、小園健太(こぞの・けんた/市和歌山)、達 孝太(たつ・こうた/天理)、畔柳亨丞(くろやなぎ・きょうすけ/中京大中京)、石田隼都(いした・はやと/東海大相模)といった逸材たち。春の訪れとともに、ドラフト戦線も本格化している。

現時点では、昨年の佐藤輝明(近畿大→阪神)や早川隆久(早稲田大→楽天)のような明確な"目玉"はおらず、新星が本命に出世する可能性もある。

今回は、3月から試合が始まっている社会人野球、4月3日に開幕したルートインBCリーグ、同10日に春季リーグが開幕した東京六大学野球から話題性に富んだドラフト候補を紹介する。

大学球界で動向を注視したいのは、まだ実績がほとんどない山下 輝(やました・ひかる/法政大)。東京六大学リーグで通算11イニングしか投げていないこの左腕は、今秋のドラフトで1位指名される可能性すら秘めている。

身長188cm、体重95kgの巨体で、ふてぶてしいマウンドさばきからは大物感がにじみ出る。木更津総合高時代は早川の1学年後輩で、侍ジャパンU-18代表に選出された経験もある。当時、プロ志望届を提出していれば「ドラフト上位指名は堅い」と言われた有望株だった。

ところが、ステップアップのために進学した法政大で、早々に左肘を痛めてしまう。回復の経過が思わしくなく、1年冬には治癒に時間がかかるとされるトミー・ジョン手術を受けた。全身麻酔から覚めた山下は、動かない左肘を見てあらためて事の重大さを認識したという。

術後3ヵ月は走ることすらできず、再びボールを握れるようになったのは術後7ヵ月後。山下の大学2年目は、気の遠くなるようなリハビリの時間に充てられた。

3年生になった昨年に戦線復帰し、短いイニングのみの"試運転"ながら2勝をマーク。自己最速の151キロを計測するなどパワーアップした姿を見せた。破壊力のある速球とスライダーに加え、右打者には沈むツーシームも駆使する。

なお、スライダーとツーシームの握りは、高校時代に早川から教わったとおり投げ続けている。

中学時代は部員わずか7人の軟式野球部に所属し、バスケットボール部と音楽部の助っ人(しかも音楽部員は女子)を呼んで試合に出場していた。山下は助っ人に負担をかけないよう「常に三振を狙っていた」と振り返る。何事にも動じないマウンド姿は、弱小チームに所属したジュニア期に培われたようだ。

同じ左腕の大スターであるアロルディス・チャップマン(ヤンキース)のトレーニング動画に刺激を受けて以来、ウエートトレーニングに励むようになった。本人も「MLBに興味があります」とメジャー志向を隠さない。体重95kgとはいえ身のこなしに鈍重さはなく、山下は「あと2、3kg増やしたい」と意気込む。

大学最終学年の今季、体調万全で結果を残せれば、先輩の早川と同様にドラフト戦線の主役になれるはずだ。

社会人球界にもユニークなドラフト候補がいる。ひと際目を引く変則フォームの鈴木大貴(すずき・ひろき/TDK)だ。

両腕を高々と上げるワインドアップなのだが、見ているこちらが「行きすぎ」と心配になるほど上体を反り、大きな反動をつけて左足を上げ、サイドスローの角度から猛烈な勢いで右腕を振る。独特なリズムとモーションから放たれる剛速球は、最速154キロをマークする。

速球の軌道から曲がるスライダーなど変化球の水準も高く、プロで成功できるだけの要素は十分。だが、一方で今の鈴木には大きな弱点がある。ランナーが出塁すると変則投法で反動がつけられないため、球速が一気に落ちてしまうのだ。

鈴木は「股関節に重心をスムーズに乗せるトレーニングを重ねて、セットポジションからでもいいボールが投げられるようにしたい」と課題克服を目指している。鈴木が無事プロ入りできれば、その変則フォームは間違いなくSNSなどで話題になるだろう。

なお、昨年までは振りかぶってからグラブを頭の後ろで2回上下する動作を入れていたが、審判団から「あれはボークだからもうやらないように」と物言いがついた。今春からは、頭の後ろでのグラブの上下動を1回に収めて投げるように努めている。

大学の草野球で150キロを投げる投手になった、BCリーグ・神奈川の杉浦。高校はバドミントン部に所属した右腕が異例のNPB入りを目指す

最後に紹介するのは、奇妙なキャリアを歩む、独立リーグの速球派右腕。神奈川フューチャードリームスに所属する杉浦健二郎は、高校時代はバドミントン部、大学では軟式野球サークルでプレーする草野球選手だった。

だが、動画サイトなどを参考に独学で技術を追究したところ、急激にスピードが向上。大学在学中に独立リーグのトライアウトを受け、最速150キロの快速球を投げて合格をもぎ取ってしまう。

本格的な野球歴が始まったばかりで、入団1年目の昨季は12試合の登板で防御率7.24と結果を残せなかった。それでも潜在能力は高いだけに、いつ開花のきっかけをつかむかはわからない。

中央大法学部に在学中のエリートでもあり、長期間の独立リーグ挑戦は考えにくい。勝負をかける今季、ロマンあふれる杉浦の野球人生が続くのか目が離せない。

2021年のドラフト会議は10月11日に開催される。プロ野球への扉をこじ開けようともがく男たちの激しい闘いは、秋まで続いていく。