海外でプレーできる「サバティカル制度」で今季はサントリーでプレーした、ニュージーランド代表のバレット。同様に来日した世界トップ選手も、シーズン終了後に母国に戻る

来年1月から新リーグが始まるため、現行のフォーマットでは最後となるラグビーのトップリーグ。4月17日から20チームによるプレーオフトーナメントが始まっており、5月に入ってから準々決勝、準決勝、そして23日に決勝が開催され、トップリーグ最後の王者が決まる。

今季は、2015年のW杯で活躍し、キック前のルーティンで世を席巻したFB(フルバック)五郎丸 歩(ヤマハ発動機)と、医師を目指して今年4月に順天堂大医学部に入学した"韋駄天(いだてん)"WTB(ウイング)福岡堅樹(パナソニック)の現役ラストシーズン。

医師を目指すために今季がラストシーズンになるパナソニックの福岡は、6試合に出場して7トライを挙げるなど快足を披露。プレーオフで有終の美を飾れるか

そのふたりにも注目が集まっているが、関係者の間では、03年に始まったトップリーグ史上「最もレベルが高いシーズン」とも言われている。19年のW杯でベスト8入りを果たした日本代表の27名が各チームに在籍するだけでなく、優勝を争う強豪チームにニュージーランド(NZ)、オーストラリア、南アフリカなどのスター選手がそろっているからだ。

その代表格が、現役の"オールブラックス(NZ代表)"の司令塔で、2度の世界最優秀選手賞に選ばれているSO(スタンドオフ)ボーデン・バレットだ。"ラグビー界のクリスティアーノ・ロナウド"との呼び声も高く、サントリーのカンファレンス全勝に貢献。6トライ&45回のプレースキックを決め、128得点を記録して得点王に輝いた。

ほかにも、最年少で世界年間最優秀選手賞を受賞したオールブラックスのLO(ロック)ブロディ・レタリックは、開幕から負けなしで連覇を狙う神戸製鋼のセットプレーを牽引(けんいん)。試合前に踊る「ハカ」のリーダーとして知られるSH(スクラムハーフ)のTJ・ペレナラ(NTTドコモ)も、中断した昨季、1勝5敗だったチームの先頭に立ち、4勝に寄与して順位をカンファレンス3位に押し上げた。

また、「ワラビーズ」ことオーストラリア代表の現役主将で、長い金髪がトレードマークのFL(フランカー)マイケル・フーパーは、初優勝を目指すトヨタ自動車でジャッカルを連発。南アフリカ代表として19年W杯で優勝に貢献したHO(フッカー)マルコム・マークスは、クボタFWの中軸になっている。

NZと豪州の4選手は、母国のラグビー協会と契約中だが、長年の貢献が認められて1年ないし2年、海外でプレーできる特権「サバティカル(直訳は長期休暇)」を許されて来日している。今季を最後に母国に戻り、23年W杯を目指す予定だ。

トップリーグは以前から世界のラグビーマーケットの一端を担っており、ベテランになった多くのスター選手が母国の代表を引退してから、「家族との時間を長く持ちたい」「フィジカル的にほかの国よりプレーしやすい」「試合数の割にサラリーがいい」などの理由で来日するケースがほとんどだった。

しかし今季「サバティカル」でプレーしている選手たちは現役バリバリで、当然パフォーマンスも高い。今後、ここまでの世界トップ選手たちのプレーを間近で見られる機会は、もう訪れない可能性もある。会場で観戦するファン、テレビで試合を見るファンにとっても必見だ。

一方で、「最も熾烈(しれつ)な新人賞争い」にも目を向けたい。リーグがシーズン終了後に決める新人賞は1年目のルーキーが対象だが、昨季がコロナ禍で中断してしまったことにより2年目の選手も対象に。

さらに今季はシーズンが年度をまたぐため、3月に大学を卒業して出場が解禁になった選手も対象になる。つまり通常1シーズンのところ、3シーズンにわたる選手に可能性があるのだ。

その新人賞候補の中で注目は、4月12日に発表された日本代表候補52名にも名を連ねた、"ポスト福岡"と目されるWTBの3人。筆頭は、19年度の大学選手権で早稲田大の優勝に貢献した、サントリーのルーキー中野将伍(なかの・しょうご)だ。

「ポスト福岡」の筆頭として期待されるサントリーのルーキー・中野。対象の選手が多く熾烈な新人賞争いを制し、日本代表での活動に弾みをつけたい

大学時代は縦に強いCTB(センター)としてトライを重ねたが、サントリーでは開幕から主にWTBとして起用されてきた。ライン際で力強いランを繰り返して4トライを挙げ、同じく新人賞候補のチームメイトのSH齋藤直人、NO8(ナンバーエイト)テビタ・タタフと共に日本代表候補に選ばれた。

さらに、19年W杯では試合に出場できなかったが、日本代表に選ばれていた神戸製鋼2年目のアタアタ・モエアキオラも高いパフォーマンスを発揮。チームでは主にCTBとしてプレーするが、U-20世代の世界大会でトライ王に輝き、NZのチーフスでもプレーした実績がある。突破力とスキルを兼ね備えており、23年W杯では中心選手として試合に出たいところだ。

もうひとりは、20年度の大学選手権で天理大の大学選手権初優勝に貢献したシオサイア・フィフィタ。近鉄ライナーズで、早速4月から先発出場している。

小学校時代にトンガの100mハードルの国内記録も持っていたスピードが武器で、大学時代にはサンウルブズでスーパーラグビーも経験。年々、周りの選手を生かすプレーも上達しているが、まずはスピードと突破力で日本代表定着を目指す。

惜しくも日本代表候補には選ばれなかったが、昨季からパナソニックで高い決定力が光る2年目のWTB竹山晃暉(たけやま・こうき)、トヨタ自動車で3度の「マン・オブ・ザ・マッチ」に選ばれた2年目のWTB髙橋汰地(たかはし・たいち)も期待が大きい選手。プレーオフで活躍して新人賞を獲得すれば、今後、日本代表入りする可能性は高まるだろう。

世界のトップ選手の華麗なプレーと、"ポスト福岡"を狙う新人賞争い。その2点に注目しながら、最後にして、史上最高のトップリーグを心ゆくまで楽しんでほしい。