EURO2020について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第206回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、いよいよ決勝トーナメントが始まったEURO2020について。グループリーグを終えた段階での今大会の印象を宮澤ミシェルが語った。

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あっという間だね。ようやくEURO2020が始まったと思ったら、もうグループリーグが終わって、決勝トーナメントの1回戦に突入だもの。

タイトルを賭けた戦いはこれからが佳境を迎えるとわかってはいるけど、残っている試合数が指折り数えられるっていうのは寂しくもあるんだよね。

それにしてもEUROってのは、やっぱりドラマチックな大会だね。

デンマーク代表のクリスティアン・エリクセンが、グループリーグ初戦のフィンランドとの試合中に心肺停止。これには驚いたし、一命を取りとめてくれて心から嬉しかったよ。

チームでもっとも驚かされたのは、イタリア代表だね。初戦でトルコ代表を3-0で下すと、2戦目のスイス代表にも3-0で勝利。決勝トーナメント進出を決めた3戦目のウェールズ戦は、スイス戦からメンバーを8人を入れ替えて1-0で勝った。

決勝トーナメント1回戦のオーストリア戦は、延長戦にもつれる苦しい展開になったけれど、2-1で勝利して4大会連続でベスト8進出。勢いもついたんじゃないかな。

3トップのインモービレ、インシーニェ、ベラルディは強烈だし、交代出場するフェデリコ・キエーザもいい味を出しているよね。我々の世代はキエーザというと親父のエンリコが思い浮かぶけど、息子はまだ23歳。今後さらに凄いFWになっていくんじゃないかな。

中盤も実力者が揃っていて、ジョルジーニョ、ロカテッリ、バレッラが効いているよね。CBのキエッリーニが万全な状態じゃなくても、ボヌッチがいて、キエッリーニの代役のアルチェルビが頑張っている。守備は相変わらず固いよな。

イタリア代表といえばカテナチオで守り勝つのが伝統だったけど、「ほかの国では?」と見違えるほどの攻撃的なサッカーを繰り広げている。2018年W杯ロシア大会は欧州予選敗退の憂き目を見て、時代の変化に合わせるように変革の道を歩んできたってことだよな。

オランダ代表は決勝トーナメント1回戦のチェコ戦では、ハンドでの退場という不運もあったけど、暑さの中で体力気力の継続が出来なく、序盤のチャンスを決めきれずに0-2で敗退した。チェコの気力走力の充実度は見事なものだったよ。

でも、オランダはグループリーグでは、ひさしぶりに元気な姿を見せてくれたね。

司令塔のワイナルドゥムの存在が効いていたよ。彼がいることで前線のデパイが孤立しないし、なによりクラブでは見られないほどゴールに貪欲なプレーをしている。昨季まで所属したリヴァプールではリンクマンに徹していただけで、いざとなればゴールを奪う能力はあるってことだよな。

オランダは2018年は予選で敗退したけど、来年のW杯でワイナルドゥムはもちろん、チームとしてもぜひ見たいよな。

そのオランダとグループリーグ同組だったウクライナもおもしろいサッカーをするよな。ビッグクラブでプレーするような選手はいないんだけど、国内組が多いからほかの代表チームよりも組織だったプレーをする。アグレッシブに攻め込んでいく彼らが、勢いに乗ってどこまで勝ち上がるのか興味深いよ。

ラウンド16の最大の見どころはドイツvsイングランドで間違いないね。この記事が公開された日の深夜1時にキックオフされるけど、どちらが勝っても不思議はない。両チームのストライカーに注目して見るとおもしろいんじゃないかな。

イングランド代表はグループリーグで不発だったFWハリー・ケインがどうなるかだね。代表とクラブで同じように結果を残せるストライカーは少ないのが当たり前で、ケインがいるから他の選手がシュートを打つ時間とスペースが生まれているんだけど、そこをなかなか理解されないから辛いよな。

逆にドイツ代表には、ハリー・ケインのような生粋のセンターフォワード・タイプがいないことで、攻撃の軸がなくてもたついている印象を受けるよ。

1トップで起用されているセルジュ・ニャブリは凄い選手なんだけど、彼の適正はやっぱりバイエルンでプレーするアタッカーのポジション。スピードを生かした突破力が魅力なのに、1トップだとそこが発揮できないんだ。

ただ、このポジションに人材がいないのは、ドイツ代表だけの問題ではなくて、ブンデスリーガの課題でもある。勝負を決める重要なポジションを外国籍ストライカーが担っているのもあって、ドイツ代表に優れたストライカーが現れないんだよ。

ブンデスリーガには、ロベルト・レバンドフスキ(バイエルン/ポーランド代表)にしろ、アーリング・ハーランド(ドルトムント/ノルウェー代表)にしろ、世界中が欲しがる強烈なストライカーがいる。だけど、彼らはドイツ籍ではないんだよな。

ふたりのどちらかがドイツ国籍だったら、世界中の人が優勝候補をドイツにしていたくらいだよ。いずれにしろイングランドvsドイツは、意地を見せたストライカーのいる方が勝つんじゃないかな。

準々決勝は7月3日・4日。準決勝は7月7日・8日。そしてファイナルは7月12日。ここからの戦いは1試合たりとも見逃せなからね。EURO2020をしっかり堪能しつくしましょう!

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