不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本のサッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史さん。

そんな福西さんに東京五輪の印象や、これから行われW杯アジア最終予選についてを伺うインタビュー第3回。今回は、W杯アジア最終予選でキーマンになる存在について語った。

――日本代表はW杯アジア最終予選でオーストラリア、サウジアラビア、中国、オマーン、ベトナムとホーム&アウェイで戦い、グループ2位以内なら出場権獲得(3位ならプレーオフにまわる)。9月2日はホームにオマーンを迎え、9月7日の中国戦は本来ならアウェイでの試合でしたが、ドーハで行われることになりました。

福西 日本代表のW杯カタール大会での目標はベスト8以上の成績で、そのためには、まずはW杯最終予選を勝たないといけない。どこの国も日本代表への対策を練ってくる難しさがあります。

――半年におよぶW杯アジア最終予選でキーマンになるのは誰でしょうか。

福西 ボクは東京五輪代表になったU-24世代の選手たちが、W杯アジア最終予選で日本代表にどこまで食い込めるかだと思っています。久保建英が日本代表でもエースになれるのか。もしそうなれば鎌田大地も南野拓実も黙っていられない。三笘薫(みとま・かおる)にしろ、堂安律にしろ、田中碧にしろ、ほかの選手たちもそうですが、これまでの日本代表メンバーの尻に火をつける状況を生み出せるかがカギですね。

――東京五輪のスペインU-24代表は、オーバーエイジ以外にすでにフル代表に名を連ね、EURO2020にも出場した選手が6人もいました。日本代表も堂安や久保などフル代表経験者はいましたが、フル代表の主力となると冨安健洋(たけひろ)と堂安くらい。

福西 日本では五輪世代は若手のように思われていますが、世界を見れば五輪世代であってもすでにフル代表に選ばれていても不思議ではないんです。

スペイン五輪代表で言えば、MFペドリ(バルセロナ)、MFダニ・オルモ(ライプツィヒ/ドイツ)、GKウナイ・シモン(ビルバオ)、DFエリック・ガルシア(バルセロナ)、DFパウ・トーレス(ビジャレアル)、FWミケル・オヤサバル(レアル・ソシエダ)がすでにフル代表。さすがに18歳でスペイン代表の主力になっているペドリは規格外ですけど(笑)。

メキシコも10番を背負ったテクニシャンのディエゴ・ライネス(ベティス/スペイン)や、3位決定戦でPKを決めた17番のセバスティアン・コルドバ(クラブ・アメリカ)、3位決定戦は途中出場したスピードが魅力的だった15番のウリエル・アントゥナ(グアダラハラ)などもすでにフル代表でも戦っています。だからこそ、日本代表も東京五輪世代が突き上げながらレベルアップしていってもらいたいですね。

――現時点で福西さんの考えるベストメンバーは誰になりますか?

福西 基本はこれまでの日本代表ですよね。1トップは大迫勇也でしょうね。その座を狙う選手にはオナイウ阿道(あど)、鈴木武蔵などがいますが、ボクは上田綺世(あやせ)に期待しています。

――今回はFWで古橋亨梧(きょうご)が招集されました。今夏にスコットランドリーグのセルティックに移籍して公式戦8試合で7ゴールと好調です。

福西 普通は新しく海外移籍した選手を招集するのは難しさがあるのですが、彼の場合はセルティックの監督が6月まで横浜F.マリノスを率いたアンジェ・ポステコグルーさんなのも大きいでしょうね。

森保監督が彼をどこで使うか興味深いですよ。1トップなのか、2トップにするのか、トップ下なのか、右サイドで使うのか。スピードがあるしゴールにも貪欲なので日本代表に新しい攻撃の形をもたらすと思います。

古橋は26歳で、世代で言うと南野拓実などと同じリオ五輪世代。リオ五輪には縁遠い存在だったのが、ここまで這い上がってきた。彼にしたら、ここで東京五輪世代に飲み込まれてしまったら、自分のキャリアにおいてW杯は無縁なものになる可能性がある。W杯アジア最終予選は古橋にとってもアピールの場なだけに、注目したいです。

――その古橋が右MFに入るかもしれない4-2-3-1の3の2列目はどうですか?

福西 トップ下が鎌田、左MFが南野で、右MFは伊東純也ですね。伊藤は使い方次第ではもっと日本代表の武器になると思います。彼のサイド突破からのクロスは、日本代表の中央にロベルト・レヴァンドフスキがいたら何点でも取れるのになあと思っちゃいますよ(笑)。

――久保や堂安はどうなんでしょう?

福西 久保はスタメンでとなると、まだ難しいのかなと感じます。堂安は相手によって通じたり通じなかったりの波があるので、そこが伊東との差ですよね。

――堂安や久保が日本代表の主軸になるには、個の力をもっと伸ばす必要があるのでしょうか?

福西 もちろん、それはあります。ですが、サッカーはひとりでやるものではないので、まわりとのコンビネーションをどこまで高められるかが重要ですよね。東京五輪では右MFに堂安、トップ下に久保が入って、ふたりがポジションを入れ替えながらコンビの力で攻撃をつくりました。そこに1トップに大迫勇也が入ってきて、堂安と久保のトリオでの攻撃力は、はたして大迫-鎌田-南野の攻撃力を上回れるのかということ。現状の力で比べれば、日本代表の攻撃の基盤は鎌田-南野のコンビを軸に組み立てた方がいい。そういうことです。

――三笘はどうでしょう?

福西 ポテンシャルは日本代表の左MFのファーストチョイスになれるものを持っています。ドリブルという大きな武器があるので、日本代表ではスーパーサブという切り札としても使えます。だからこそ、まずは新たに移籍したベルギーリーグでのアピールが大事になりますよね。そこで結果を残して、チームでポジションを確固たるもにする。日本代表に招集されるのはそこからでしょうね。

――彼がいつ日本代表に名を連ねるのかも楽しみです。

福西 そうですね。三笘だけではなく、東京五輪世代の選手はここから急成長する可能性はありますからね。ここから来年3月までのW杯アジア最終予選では、メンバー選考から日本代表の成長具合が見えてくるので、しっかり追ってもらいたいですね。

今回のW杯アジア最終予選メンバーに入れた選手もいるし、入らなかった選手もいますけど、彼らが日本代表の主力になれるかは、ここからが勝負。

●第4回 福西崇史が感じたW杯アジア最終予選とワールドカップの違い「アジアでの戦いは攻撃の練習、W杯での戦いは守備の練習の成果が試される」

■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している。