ライターの堀江ガンツ(左)と芸人のエル上田がプロレス・格闘技のYouTubeを徹底解説!

惜しみなく裏話を開陳するサービス精神旺盛なレジェンドレスラーから、フレッシュなコラボで話題を集める現役トップファイターまで、プロレス・格闘技のYouTubeは百花繚乱の様相を呈している。その見どころ、ツッコミどころを芸人・エル上田とライター・堀江ガンツが徹底解説!

■朝倉兄弟のプロレス的感性

堀江 プロレス界、格闘技界のYouTuberといえば朝倉未来(みくる)。彼のチャンネル『朝倉未来 Mikuru Asakura』の登録者数はこのジャンルで断トツの194万人です。

上田 街のケンカ自慢をジムに誘い出してスパーリングをするのはほかの人もやっていますが、未来の発明じゃないですか。未来のチャンネルはメジャーになりすぎて、「佐々木(大[ひろ])くん」とかスタッフの名前まで覚えたくらい。しかも佐々木くんもプロ格闘家で、彼の試合もちゃんと流すから、つい応援しちゃう。

堀江 未来は格闘技ファン以外の人をRIZINに引っ張ってきて、本当に道をつくりましたね。一年中興行のあるプロレスと違って、格闘家は年に2、3試合しかできないから、常に話題をつなぐのは難しい。それがYouTubeでは毎週のように露出できますから。

上田 6月のRIZINでクレベル・コイケに三角絞めで絞め落とされたときは、「YouTubeなんかやってるから負けたんだよ」という批判もありましたが、いやいや、YouTubeのおかげでどれだけ格闘技の練習時間を確保できてるんだって話ですよ。プロとはいえ、格闘家の多くは別の仕事で収入を得てますから。

未来の弟、海のチャンネル『KAI Channel/朝倉海』も登録者数が100万人に達しましたが、この兄弟の動画は緊張感のあるものが多い。

オタクの格好をした海がたばこをポイ捨てする人に注意するやつがあるじゃないですか。殴りかかってきたらどうすんの?って思いますし、ヤラセと言われたほうが安心します。

堀江 ヤラセなのかガチなのか、見る人に想像させるのも彼らのうまいところです。「虚と実」の間を行き来する、ある意味でのプロレス的感性をよくわかっているというか。

上田 クレベルがYouTuber格闘家のシバターに絡まれて応戦している動画があるんですけど、悪い言い方をするとアングルが透けて見えてしまう。でも、朝倉兄弟にはそういう隙がない。

堀江 彼らはプロレスラーじゃないのになぜそれができるかというと、アウトサイダー出身なので前田日明(あきら)イズムな気がします。今の未来は、新生UWFで前田さんが大スターになったときとすごく似ている。ふたりとも、自分がどう見られていて、なぜ人気があるのかわかっている。

また、朝倉兄弟はバラエティ番組的なものをやる一方で、魔裟斗(まさと)らレジェンドファイターとコラボするときには、格闘家としての立場を前面に出して真摯(しんし)な態度で接する。そこらへんの使い分けも絶妙ですよね。

上田 確かに! 未来は魔裟斗にはちゃんと頭を下げてお辞儀してました。

堀江 海も、五味隆典とレスリングのスパーリングでコテンパンにやられた動画では、「やっぱPRIDEチャンピオンすげー」って、先輩に敬意を持って接していました。

■UWFレジェンドのマニアック動画

上田 前田さんは自身のチャンネル(『前田日明チャンネル』登録者数18.3万人)のダイエット企画で、レフェリーの和田良覚(りょうがく)さんが講師を務めるジムに行くんですが、和田さんのやる気の出させ方がすごい。

「20年運動してないのにこの筋肉量ありえないよ!」とか「前田さん、マジ怪物だよ!」とか。キックボクシングからプロレスまで多くの団体でレフェリーをやれる理由がわかりました(笑)。

ちなみに、前田さんが朝倉vsクレベルの戦前予想をしている動画をモノマネ芸人の神無月さんが自身のチャンネルで完全再現している動画も必見です。今回、前田さんにインタビューさせていただいたので、ご本人に直撃してみました。

「知り合いがみんな送ってくるけど、見てはいない。ただ、みんなが似ているっていうから、そうなんだろうね」とのことです!

堀江 前田さんは勝俣州和(かつまた・くにかず)さんとのコラボで、有名な「熊本旅館破壊事件」について話していますね。かつてUWF勢が新日本に出戻りしたとき、緊張関係にあった両陣営の親睦を深めるため、アントニオ猪木、坂口征二以下、新日本のレスラーたちとUWF勢が酒宴を開いて、みんな泥酔した挙句、大乱闘になり、旅館を破壊したという伝説です。

これは古館伊知郎さんとかいろんな人が話しているんですが、全員言うことが違うから、語れば語るほど真相から遠ざかっていくという(笑)。

上田 船木誠勝さんのチャンネル(『Masakatsu Funaki』/チャンネル登録者数 5.12万人)では、船木さんと前田さんがただひたすら外を歩くという謎動画があるんです。

前田さんが何か話しかけるたびに映像が途切れて、また歩いているシーンになる。船木さんがどういう意図でこの動画を上げたのか、ファンの間でいろんな臆測を呼んでます。

堀江 船木さんは大物レスラーの中ではかなり早く、2017年からYouTubeをやっていますね。

上田 ほかのレスラーと違って聞き手を立てず、基本ずっとひとり語りでやってます。未来がクレベルに絞め落とされた直後に上げた、『総合格闘技の試合における「タップ」について』という解説もよかったです。

その動画のサムネイルは自分がヒクソン・グレイシーに絞め落とされている写真で、どれだけ説得力あるんだって! UWF系では田村潔司(きよし)のチャンネル(『Kiyoshi Tamura田村潔司【一人UWF放送室】』/登録者数1万人)も面白いですよ。"赤いパンツの頑固者"らしく、絶対にカメラ目線でしゃべらないし、聞き手が質問しても全然答えない。

堀江 しかも、昔の『紙のプロレス』に掲載された自身のインタビュー記事を解説してたり、マニアックすぎますよね(笑)。初代タイガーマスクの佐山サトルさんはチャンネルを持ってませんが、累計で最も見られている格闘技関連の動画って、佐山さんの"シューティング鬼合宿"なんじゃないかと僕は思っていて。削除されるたびに必ず誰かが再アップするんですよ(笑)。

上田 「殺すぞ、この野郎!」と弟子たちをしごき倒す恐怖映像ですけど、全編を見れば、佐山さんはその必要性をちゃんと説明しているんです。でも、しごきのシーンだけがひとり歩きしているのは残念ですね。

■見届けるべき「最後の闘魂」

堀江 YouTubeの隆盛によって、プロレスの内幕をどこまで明かすか、その基準が変わりつつあります。昔は僕らライターや編集者が、「ここまで書いて業界的に大丈夫か」というのを慎重に判断しながらやっていたけど、今や当人たちがYouTubeでどんどんしゃべってますからね。

キラー・カーン(『キラーカーンチャンネル with m』/チャンネル登録者数 1.61万人)なんてチャンネル開設後すぐに上げた動画で、「ここではっきりしておきますよ。プロレスの試合は全部決まってます」とか断言しちゃうし。

上田 断トツで面白いんですけど、ちょっと心配ですよね。

堀江 YouTubeを始めた半年後には、経営していた飲み屋を閉店しちゃいました。以前はお店に行ったお客さんだけが、猪木、坂口、長州力の悪口というか、「ここだけの話」を聞けたんですけどね。

上田 いわばそれは、漫才師が劇場でしかできないネタだったわけじゃないですか。その持ちネタを簡単に出しちゃっていいのか。でも、必殺技のニードロップを解説している動画はすごい説得力でした。

ニードロップが相手の腹にモロに入ったけど、やられた選手は「大して痛くなかった」と。あんなにすごい技やって痛くないんならメイン張ってくれと言われて、WWFのトップレスラーに上り詰めたという話です。

堀江 カーンのニードロップは本当にすごいんですよ。片膝をつくニードロップは相手にかける体重を調整できますけど、カーンのは両膝で落ちるタイプなので。まさに一流のプロレスラーの技術です。動画ではその種明かしをしているわけですね。

上田 坂口さんに連れられて新日本に行くことになったけど、そのときジャイアント馬場さんにひと言電話を入れておけば自分は全日本に行けたんだと嘆いていた。74歳でまだ未練があるんだってびっくりしたんですけど。

堀江 年を取るとそういう部分が出てくるんでしょうね。

上田 勢いよくしゃべってたと思ったら、泣きそうになったり。あんなにメンタルがモロに出るYouTuberはほかにいないですよね。

堀江 恨み節がどんどん出てくるキラー・カーンに対して、その天敵・長州力は悠々自適です。『長州力【公式】RIKI CHANNEL』はプロレス界ではトップのチャンネル登録者数22.2万人を誇っている。

上田 しかも、ちゃんと面白いんですよね。武藤敬司とノープランでドライブしたり、娘婿や孫と絡んだり。

堀江 昔話をやってないのは長州だけです。そして、あれが素の長州なのかどうか、誰にもわからない。自分というキャラクターの種明かしを一切していないという意味では、いまだ"現役"のプロレスラーですね。

そして、種明かしをしないレジェンドがいる一方、すべてをさらけ出しているのがアントニオ猪木です(『アントニオ猪木「最後の闘魂」』/チャンネル登録者数 17.9万人)。

上田 病床から動画をアップして、「元気ですかー!!」がツッコミ待ちみたいになってます。

堀江 それが少しずつ元気になってきてますから。やはり、人前に出続けることが大事なんじゃないかと思いますね。プロレスラーはどんなに体がボロボロでも、テーマ曲が鳴ってリングに上がれば動けちゃう人たちなんで。

周囲が「猪木さんのこんな姿見せられない」となったら、一気に老け込んでダメになってしまうかもしれないけど、「1週間後にYouTubeを撮ります」って言ったら、猪木さんはそこに向けてなんとか人に見せられるように自分を上げていく。おそらく、そういうふうにやっているんじゃないですかね。だから僕らは、猪木さんの「最後の闘魂」をしっかり見届けるべきですよ!

●エル上田
1984年生まれ、神奈川県出身。お笑いコンビ「エル・カブキ」のツッコミ担当。趣味は格闘技本やタレント本の収集。柔術歴12年(白帯)

●堀江ガンツ
1973年生まれ、栃木県出身。プロレス・格闘技ライター。『KAMINOGE』(玄文社)ほかさまざまな媒体で執筆。WOWOWのUFC中継では解説を務める

*チャンネル登録者数・再生回数は9月27日時点のものです