堀江氏が設立した新球団の指揮官は、ロッテで活躍し、阪神、MLBでもプレーした西岡氏。選手兼任監督としてその手腕に注目が集まる

この夏、野球界がざわついた。"ホリエモン"こと堀江貴文氏が、プロ球団を設立すると発表したのだ。

堀江氏は、今から17年前の2004年、「球界再編騒動」の最中に消滅しそうになっていた大阪近鉄バファローズの買収に手を挙げ、その後「仙台ライブドアフェニックス」の設立計画をぶち上げた。しかし、球界の"お偉方"に受け入れられず、商売敵だった楽天に屈した苦い過去を持つ。

今回、堀江氏が設立した新球団・福岡北九州フェニックスが所属するのは、NPBではなく独立リーグである。NPBのドラフトにかからなかった選手たちが「夢よ、もう一度」とリベンジを期して集まるリーグだ。

日本にはいくつかの独立リーグがあるが、堀江氏が選んだのは、故郷・福岡がある九州で展開している「ヤマエ久野九州アジアリーグ」。今年スタートしたばかりの新リーグである。

堀江氏はこれまで、独立リーグの野球やバスケットボールなどスポーツ事業にも関わってきた。そのなかで共に仕事をした人物が、同リーグに所属する火の国サラマンダーズの代表になったことで、球団設立の話がトントン拍子に進んだという。

球団設立の経緯も、いかにもホリエモンらしい。堀江氏が主宰するオンラインサロンで賛同者を募り、30歳の元バックパッカーの青年を球団社長に指名(すでに退任)。もうひとりの賛同者がビジネスの拠点を置く、北九州市をホームタウンにした。

新球団設立といっても、選手はおろか、監督、コーチもいない。そもそもお金がなかった。独立リーグ球団の年間運営費は「およそ1億円」といわれているが、ビジネスとしてやる以上、堀江氏のポケットマネーから出すわけにもいかない。そんななかで今年4月に球団運営会社を立ち上げ、5月に新球団設立計画を発表。スポンサーを集め、9月にリーグへの正式加盟が認められると、スカウティングが本格化した。

最初に決まったのが投手コーチで、地元のNPB球団・福岡ソフトバンクホークスでもプレーした寺原隼人氏が就任することになった。 続けて2度にわたってトライアウトを実施。そのトライアウトに合格し、入団予定の選手を何人か紹介したい。

まず投手は、地元・九州の大学球界から左右の速球派を獲得。九州地区大学野球連盟屈指の左腕・大江海透(久留米工業大)は、大学時代に全国大会の出場経験はないものの、最速143キロのストレートとタテに鋭く変化するスライダーは一級品。独立リーグで制球力を磨けばNPBも狙える逸材である。

一方、右腕の豊村直大(北九州市立大)は、184cm、85kgの体(たいく)から繰り出される140キロ台後半のストレートが威力抜群。九州六大学ではリリーフ中心の登板で、守護神の有力候補だ。

野手のイチオシは、野元涼(関東学院大)。地元・福岡の折尾愛真高校出身で、高校時代は通算29本塁打を放ち、「ノモラ」の異名で名をはせたスラッガーだ。高校3年夏には北福岡大会で6本塁打を放ち、チームを初の甲子園へと導いた。大学では投手も務めたが、北九州フェニックスでは4番打者の期待がかかる。

また、経験豊富な29歳の中村道大郎にも注目したい。名門・日体大時代は2度の全国大会出場を果たし、四国アイランドリーグplus時代にはリーグ選抜チームの一員として「みやざきフェニックス・リーグ」にも参加した。ルートインBCリーグでプレーした今年も打率.311の好成績を残しており、独立リーグ6年目となる来季は内野のリーダーとしてチームを引っ張っていくだろう。

フェニックスを迎える九州アジアリーグだが、発足初年度の今年は火の国サラマンダーズと大分B-リングスのたった2球団でペナントレースを行ない、ソフトバンクの3軍や四国アイランドリーグplus、沖縄の独立球団・琉球ブルーオーシャンズとの交流戦を含めた数字を公式記録とした。

結果は、社会人野球の強豪・熊本ゴールデンラークスをプロ化した火の国サラマンダーズが、ゼロからスタートした大分B-リングスを圧倒し、23勝9敗で優勝。今年はコロナ禍の影響で各独立リーグの優勝チームによるグランドチャンピオンシップが中止になったが、サラマンダーズは「日本一」の有力候補だった。

このチャンピオンチームで19セーブ、防御率1.73の成績を残した石森大誠は、今秋のドラフトで中日から3位指名を受けている。

11月17日には、元メジャーリーガーにして侍ジャパン戦士でもあった西岡 剛氏がフェニックスの選手兼任監督に就任することが発表されて注目を集めた。トライアウトにも顔を出していたことから、その時点で話は決まっていたのかもしれない。ちなみに、このときに同行していたBCリーグ・茨城アストロプラネッツの前監督、ジョニー・セリス氏もコーチでの入閣が予定されている。

現在37歳の西岡氏だが、今シーズンは栃木ゴールデンブレーブスで、選手として43試合に出場して打率.327を記録。もちろん、来シーズンもフェニックスの一員としてプレーも披露するつもりだ。

堀江氏は新球団運営に当たって、「球場をエンタメ空間にしたい」と抱負を語っている。世間の目は"ビッグ・ボス"こと日本ハムの新監督・新庄剛志氏に向いているが、来シーズン、西岡監督は自ら采配を振り、フィールドを駆け回った後、きっとこう言うだろう。「これからはメジャーでもない、NPBでもない、独立リーグです」と。