Jリーグと海外クラブの差について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第231回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、Jリーグと海外クラブの差について。もはやめずらしいものとは言えなくなった、日本人選手の海外移籍。では、海外リーグはJリーグよりも上なのか? 宮澤ミシェルは、「リーグではなく、選手個々をちゃんと評価すべき」と語る。

*****

選手の評価は難しいものだけど、Jリーグ組は本当に海外組より力が落ちるのかな? 

日本代表で海外組が多数派になったのは2010年のW杯南アフリカ大会後くらいからでしょ。個を伸ばそうってことで海外移籍する選手が増えてさ。

それ以前にも中田英寿を筆頭に海外組は何人かいたけれど、代表のなかでもトップクラスの選手だけができるのが海外移籍だった。

それが2010年代に海外組が増えていって、言い方は悪いけど誰でもできる時代になった。ハリルホジッチ元監督の頃には海外組でなければ代表に呼ばないくらいになってさ。

海外でプレーしていれば、自分よりも大きくてパワーも強く、足のリーチだって長い選手と対峙する。日常的に練習からそういう相手に慣れるから国際試合で役立つ。これは間違いないことだけど、本当に代表レベルの実力なのか疑問に感じる選手も呼ばれたりしたよね。

逆の見方をすれば、Jリーグで得られないのはその部分の経験値くらいでしょ。GKやCBはその経験値を高める必要が絶対だけれど、ほかのポジションは絶対じゃないよな。むしろアジリティや規律性の高さはJリーグの方が磨けるからね。

森保監督になってからはJリーグ組も日本代表に招集されるようになったけど、試合に使われるケースは多くはないよな。調子がいいのであれば、もっとJリーグ組を日本代表でガンガン使ってもいいんじゃないかと思うよ。

古橋亨梧の活躍を見ているとそう思うんだよ。移籍したセルティックでスコットランドリーグやヨーロッパリーグで得点を多く決めて大活躍している。

セルティックの監督がアンジェ・ポステコグルーさんで、横浜F・マリノス監督の時から対戦相手として古橋を見ていてから、その持ち味を生かす使い方をしてくれてるってのはあるにせよ、古橋はついこの間までJリーグでプレーしていたわけだよ。

古橋だけじゃなく、三笘薫(サン=ジロワーズ)にしてもベルギーリーグに慣れ始めたら本領発揮しているし、田中碧(デュッセルドルフ/ドイツ2部)だってそうでしょ。

移籍してすぐに通用しているのは、基本的にはJリーグでプレーしていた頃から個の部分がしっかりしていたからだよね。もちろん適応力を発揮してもいるんだけど。

古橋や三笘を見ているとポジションやプレーの特長によっては、もちろん海外経験はある方がいいんだけれど、それがなくても通用しちゃうんだよ。だったら、Jリーグで圧倒的なスピードだとか足元のテクニックだとかを武器にして目立った活躍してる選手を日本代表で使ちゃえばいいのにと思うんだ。

そもそも海外移籍といっても、レベルの高いリーグの上位クラブでプレーしている選手はひと握りしかいないんだよね。南野拓実(リヴァプール)と冨安健洋(アーセナル)くらいでしょ。ブンデスリーガにはたくさんいるけど、CLのベスト16に残るようなクラブでやっている選手はいない。

ベルギーリーグもストコットランドリーグも海外ではあるけれど、そのレベルはどうなのってことよ。すごいよ。だけどさ、Jリーグより格段にレベルが上かと言ったら、そうじゃないよね。

だったら、選手そのものの力をしっかり見て評価すべきなんだよね。海外クラブにいるから起用するっていうのは、ある意味で選手の評価を他人任せにしているようなもんだぜ。

前田大然や旗手怜央あたりは、この冬の海外移籍が噂されている。現時点で日本代表で何度も出場チャンスをもらっていて不思議じゃないレベルだけど、あまり起用されなかった。これで移籍が実現してチームで結果を残したら、きっと使われるんじゃないかな。

今夏にシュツットガルトに移籍した22歳の伊藤洋輝だってそうでしょ。ジュビロ磐田時代で試合に使われていたけど、東京五輪代表にはかすりもしなかった。それがドイツに渡った途端に、最初はU-23でプレーさせてというチーム方針を転換させるくらいの力を発揮している。J2でプレーしていた選手が、だぜ。

結局のところ、選手のどこを見て評価するかっていう部分が、日本ではまだ確立されていないんだよな。子どもの頃から図抜けた能力を持つ誰が見たっていい選手を評価するなんてのは当たり前で、その下のレベルの選手の潜在能力を見抜けるかどうかなんだと思うよ。

若くて能力のある有望株はどんどん海外に引き抜かれちゃってるけど、それは青田買いと一緒で、買う側には化けてくれたらラッキーくらいの考えも間違いなくある。

所属クラブがどこかなんてのは、あてになるようでならないんだよ。選手評価の根拠にしていいのは、CLベスト16に残るクラブでスタメンを張っていた場合だけだね。

海外組とJリーグ組のメリットとデメリット、その上で選手それぞれの特徴がどこにあるか。そこをしっかり評価できれば、日本代表も日本サッカーももっと強くなっていくと思うよ。Jリーグ組と海外組にフィルターをかけるのはナンセンスだってなってもらいたいね。
 

★『宮澤ミシェル フットボールグルマン』は毎週火曜日更新!★