W杯アジア最終予選での日本代表の戦いぶりを深掘り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする新連載『フカボリ・シンドローム』がスタート。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第1回目のテーマは、W杯アジア最終予選での日本代表の戦いぶり。いったいなぜ日本代表はここまで苦しむ羽目になったのか?

* * *

これまで週プレNEWSでは年明けや東京五輪後のタイミングでサッカーを語ってきましたが、今回からは、新たに連載としてスタートすることになりました。

コンスタントに発信する場があるのは、いろんな角度からサッカーを取り上げられるので伝える側としても楽しみですね。ボクが今までのサッカー人生で培ってきた知見が、みなさんがサッカー観戦を楽しむ際のちょっとしたスパイスになったらうれしいです。

時にはひとつのプレーを深掘りしながら、目からウロコがボロっと落ちるようなものを提供できたらなと思います。勝った負けたという結果だけにとらわれずに、「なぜ?」の部分にもしっかりフォーカスして伝えていきたいですね。

さて、サッカー界は来年11月にW杯カタール大会が控えています。そのW杯カタール大会の出場に向けたアジア最終予選での日本代表の戦いぶりを振り返ると、真っ先に疑問として思い浮かぶことがあると思います。

「なぜ日本代表は苦しむ羽目になったのか」と。 

やっぱりコロナ禍の影響は否めないでしょうね。日本代表は森保(一)監督のもとで東京五輪代表と"1チーム2カテゴリー"という形で長い時間をかけてつくられ、今年6月のW杯アジア2次予選までは順調に推移してきました。

それが東京五輪後から最終予選が始まるまでの間に親善試合は行えませんでした。そのため選手のいろんな組み合わせを試せなかった。これがアジア最終予選で苦しい状況に置かれたときでも、見慣れたメンバー構成に陥りがちになった要因なのかなと思います。

W杯2次予選でいろんな選手の組み合わせや戦い方を試しておけばよかったという意見があります。ですが、ボクはそうは思いません。どれだけ格下相手であっても何が起きるかわからないのがサッカーであり、公式戦の難しさ。ましてやW杯予選ですから、万が一のことが起きない手を打つのは当然のことでしょう。

最終予選で森保監督はなかなか新しい選手を起用しませんでした。それによって批判も集めたし、もっと大胆に新しい選手を起用すべきだという考えも当然のことです。

でも、新しい選手の起用は大いなる可能性を秘めている反面、ぶっつけ本番でやるリスクも考えなければいけません。そこをどう取るか。これが代表監督の難しさでもありますよね。

森保監督のマネージメントでいえば、11月のW杯最終予選2試合に向けて前田大然や旗手怜央などの東京五輪世代の選手を日本代表に招集しました。ただ、2試合ともベンチ外だったことで「なんのために呼んだんだ」「無意味」という声が出ました。

これは先々の日本代表活動を見据えたときには、いい手だったと受け止めています。日本代表経験のない人にはなかなか想像できないでしょうが、代表経験の浅い選手にとっては試合に出られなくても選出されるのも重要なのが日本代表というものです。

コンディションもメンタルもいい状態だからといって、日本代表でいきなり試合で存分に実力を発揮できるかといえば、それは難しいことです。だからこそ、日本代表の環境に慣れさせる。そうしたステップを踏むのも大事なことなのです。

それでも初招集だった三笘薫は、ベトナム戦はベンチ入りし、オマーン戦では後半から出場して起爆剤となりました。

11月の2試合は2連勝の勝ち点6が必須だったことや、三笘のポジションがチームメートとの連携力があまり必要のないサイドだったことも理由にはあるのでしょう。もしかするとオマーン戦に秘密兵器として使うために、ベトナム戦はベンチで雰囲気になれさせたのかもしれなせん。こればかりは森保監督にしか真意はわからないことですね(笑)

いずれにしろ三笘をオマーン戦で起用したことでチームの停滞感が払拭されました。あわせて日本代表の課題も浮き彫りになりましたよね。

日本代表はW杯アジア最終予選の前半戦6試合を終えて5得点。攻撃の物足りなさが目立ちました。ただ、これはFWだけの責任ではなく、チーム全体で得点チャンスをどれだけつくり出せたかも精査しなければいけないと思います。

アウェーでのオマーン戦の前半は、日本代表の課題がよく表れていたと感じました。前半は3人の中盤の距離感が遠く、ボールポゼッション時に選手の位置がワイドに開くために、中央に選手がいなくなる。これでは相手DFの前でボールを回すだけになってしまうのも仕方のないことです。

戦い方というのは相手の出方に合わせて変えなければいけないのですが、日本代表の問題点は選手たちがピッチの上で柔軟に対応できていないことでしょう。

代表選手のほとんどは海外クラブでさまざまな戦い方を経験しているので修正能力はあります。でも、それが選手それぞれの考えによる単発で、全体として意思の疎通が見られない。

たとえばオマーン戦では相手の守備陣形を動かそうとして、田中碧が最前線に飛び出したり、柴崎岳が前に突っ込んでいったりしましたが、それに続く動きがなかった。二の矢、三の矢がなければ効果は上がらないんですね。

オマーン戦は選手だけでは修正できなかったことで、森保監督は後半から三笘を投入し、彼のドリブルでの仕掛けによって相手の守備陣形を崩すことができた。でも、先発起用の選手たちだって、もっとできるクオリティーは持っています。

それができなかった理由は、W杯アジア最終予選の経験者が少なかったり、序盤戦で2敗を喫したことの影響もあるでしょうし、もしかすると真面目過ぎるのかもしれませんね(笑)。事前のミーティング通りにやろうとしてしまうとかね。

結果オーライの部分はあるにせよ、日本代表はW杯アジア最終予選の前半6試合を終えて、どうにかスタートラインに戻ることができた。序盤に2敗を喫したときはどうなってしまうかと心配でしたけど、年明けの試合次第では自力突破できます。

アジアのレベルが上がっているのは間違いないことですが、ここまで苦労するとは予想だにしませんでした。でも、それによってポジティブに考えれば人材発掘はできた。ただ、チーム力は上がっているようには感じられません。

W杯の出場権を取ることは大きなミッションです。でも、日本代表の目指すところはその先にあります。年明けからの日本代表にはW杯カタール大会に向けて、チーム力を高めるような戦いをしながら、結果を積み上げていってくれることを期待したいと思います。

■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★