遠藤航について、福西崇史が深堀り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする新連載『フカボリ・シンドローム』がスタート。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第3回目のテーマは、遠藤航。日本代表が『世界』と戦う際のキーマンのひとりになるのは遠藤航だと福西崇史は語る。

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明けましておめでとうございます。

日本サッカー界にとって大事な一年が始まりました。今年は11月にW杯カタール大会が控えていますが、この舞台に立てるかどうか、出場したらどんな成績を残すかによって、その後の国内のサッカーへの注目度は変わっていきます。

日本代表が前回2018年大会で超えられなかったベスト16の壁を突き破り、国内のサッカー熱が盛り上がるようにしっかり後押ししていきたいですね。

W杯アジア最終予選は1月27日の中国戦から再開します。アジアでの戦いにすごく苦労しているのに、世界の強豪国と対戦するW杯でベスト8以上の成績を残せるわけがない、と感じている人は少なくないことでしょう。

でも、ボクは森保(一)監督のつくってきた日本代表なら、その可能性はあると踏んでいます。

アジアのレベルが上がったと言われています。確かに力を伸ばしているのは間違いないことですが、世界に比べたらまだまだ。それなら日本代表は勝ち星をもっと積み上げていなければと思われるでしょうが、ここが日本代表の置かれた難しさでもあります。

『ダブルスタンダード』が言われるようになってだいぶ経ちますが、今回のW杯アジア最終予選で日本代表が苦戦しているのは、まさにこのためです。

森保監督のもとで進められたチームづくりは、W杯での強豪国との対戦を想定したものがベースになっています。チームコンセプトである『堅守速攻』や『数的優位』は、アジアでの戦いではほとんど発揮できません。なぜなら日本代表がボールを保持する時間が長く、相手を押し込んでしまうからですね。

でも、W杯での強豪国との戦いでは日本代表の立場はひっくり返って、相手にボールを保持されて押し込まれる。そのなかで勝利への活路を見出すために必要になるのが、堅守速攻であり、数的優位なのです。

『アジアはアジア』、『強豪国は強豪国』と、戦い方を日本代表が変えられればいいのですが、残念なことに日本サッカーはまだそれを実践できるほど成熟していないんですね。だから、森保監督はW杯での強豪国との対戦を見据えたチームでアジアも戦っている。そして、それが苦戦の要因にもなったわけです。

ただ、2つのコンセプトがハマりやすい相手と戦えるW杯カタール大会は、きっと多くの人たちが「予選であんなに苦しんだのに、日本代表ってやるじゃん!」と思う試合を見せてくれると思っています。

日本代表が強豪国よりも上回っているものは規律性と連携力です。それを生かして数的優位をつくり、日本選手が分の悪い1対1の守備の局面を極力減らしていく。でも、それだけでは強豪国から勝利できるわけではありません。

2人がかりでボールを奪うということは、奪った後のボールの預けどころは限られるし、その分だけ攻撃に割ける人数が減ります。結果的に攻撃に転じる圧力が弱まることも少なくないんですね。

そのため勝利するにはプラスαの部分が重要になります。それを担える選手が、遠藤航です。彼のボール奪取能力は数的優位をつくる必要がなく、1対1で相手からボールを刈り取る。遠藤がひとりで奪い切って、そこから攻撃に転じることでチャンスは広がっていきます。

ただし、彼のボール奪取能力が生きるのは、比較的自由にプレーできる場合です。彼がまわりの選手の立ち位置などを気にしながらになると、ボール奪取の本領を発揮できないことも少なくありません。

遠藤航が自由に動くということは、遠藤がボールを奪いに出て空いたスペースを相手に使われる可能性があるということ。まわりの選手がサポートして空いたスペースを消す動きをしたり、奪ったボールをすぐに預けられるように近い距離感に味方がいる必要もあります。

この遠藤を攻守の中核に置くメリットとデメリットを考えた場合、ボクならフォーメーションは4-4-2にします。4-3-3のアンカーだと遠藤が自由に動くには、インサイドハーフとの連動性が必要なので、ほかの中盤の選手が入れ替わると遠藤の良さも消える危険性があるんですね。

4-2-3-1でもいいですが、ボール奪取後の攻撃をイメージすると、流動的な4-4-2の方がいまの日本代表メンバーを生かしやすいでしょうね。2トップが縦関係に並べば4-2-3-1のようにもなれますので。

もちろん、4-4-2はマンチェスター・シティを率いるペップ・グアルディオラ監督の可変的3-2-5によって簡単に封じることができるのですが、強豪国といえどもマンチェスター・Cのようなサッカーはなかなかできません。できる国があれば、間違いなくその国がW杯で優勝です(笑)。

いずれにしろ強豪国との対戦でのポイントは『どうやって』、『どの位置で』、ボールを奪うかになります。

高い位置で奪えれば、相手ゴールに近いので攻撃に割ける人数は増える。自陣の低い位置で奪った場合なら味方が攻め上がるための時間をつくるポストプレーだったり、相手陣に広がるスペースに飛び出せるスピードだったりも必要になります。

W杯では日本代表が攻め込む回数は限られるなかで、いい形で攻撃に転じるボールの奪い方をするには、やはり遠藤航がキーマンのひとりなのは間違いないことです。

攻撃と守備を繋ぐチームの核となる選手には、いまの日本代表が何をテーマに取り組もうとしているかがよく表れます。再開されるW杯アジア最終予選から11月のW杯カタール大会にかけて、試合結果やボールのあるところだけではなく、遠藤航を追いかけて彼のプレーをしっかり観てもらいたいと思います。

■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

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