ドリブラーについて、福西崇史が深堀り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする新連載『フカボリ・シンドローム』がスタート。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第5回目のテーマは、ドリブラー。11月シリーズのオマーン戦で日本代表の攻撃を活性化させた三笘薫のドリブル。福西崇史は三笘のようなドリブラーの存在こそ、今の日本代表に必要だと語る。

* * *

日本代表にとって大勝負が始まります。W杯カタール大会の出場権をかけたアジア最終予選は、1月27日(木)に中国代表と、2月1日(火)にグループ首位のサウジアラビア代表とホームで対戦します。

キャプテンでCBの吉田麻也(サンプドリア)がリーグ戦で負った故障の影響で欠場が決まりました。もうひとりのCB冨安健洋(アーセナル)も足に不安を抱えているといいます。想像したくはないですが、可能性としては守備の要を一度に2枚も欠いてW杯最終予選に臨むこともありえるわけです。

主力選手を故障で欠く事態はどんなときでも起こりうることです。ただ、今回の日本代表にとって痛手だったのは、新型コロナの第6波によって中国戦前に予定されたテストマッチのウズベキスタン代表が中止になったことでした。

この試合が実現していれば吉田麻也を欠いたCBの新布陣を試し、一定強度のある試合のなかでCB同士、CBとGK、CBとボランチといったコンビネーションの確認ができるはずでした。試合というのは練習で想定しないシーンが表れます。そこで選手たちが「いまのケースならこういう風に動こうなど」と意見交換をするわけですが、今回はそれができません。事前に不安要素を潰せないまま、ぶっつけで本番に臨む。決して楽観視できませんよね。

とはいえ、サッカーは失点しないことが大切ですが、失点しないだけでは勝てないスポーツです。勝利には得点が必須。今回のように守備陣に経験面での不安が残るなかでは、攻撃陣が奮起してくれることを期待しています。

その攻撃陣からも古橋亨梧(セルティック)と、三笘薫(サンジロワーズ)のW杯アジア最終予選の欠場が決まりましたが、代わって中島翔哉(ポルティモネンセ)が代表候補として名前があがっているそうです。

中島は森保(一)監督が代表を率いるようになった当初は、左サイドアタッカーのスタメンとして躍動したドリブラーです。代表復帰となれば2019年11月19日のベネズエラ戦以来、約2年2カ月ぶり。復帰が決まって試合に起用されたら、左サイドから自在にドリブルで仕掛けてもらいたいですよね。

日本代表の攻撃と守備を考えたときに、この左サイドアタッカーのポジションにドリブラーを起用することは大きな意味を持ちます。サイドを縦に突破したり、中央にカットインしてシュートを放つだけではない、ドリブラーを置く意義を今回は"フカボリ"します。

W杯アジア最終予選の6試合終了時点で日本代表が奪ったゴール数は5得点。これは同グループでは4得点のベトナムに次ぐ少なさで、最多はライバルのサウジアラビア代表、オーストラリア代表が9得点でした。

前半戦で日本代表が苦戦した要因はここにも表れていますが、昨年最後のW杯アジア最終予選となった11月シリーズのオマーン戦では光明を見出しました。オマーン戦の後半から左サイドアタッカーにドリブラーの三笘薫を起用したことが奏功し、伊東純也の決勝点が生まれました。

この試合で日本代表の攻撃を活性化させたのは、三笘薫のドリブルでしたよね。三笘は最初のボールタッチで縦へとドリブル突破をして、相手DFを警戒させました。その後も何度も何度もドリブル突破を仕掛けました。

でも、実はすべて成功しているわけではないんですね。相手にボールを奪取されるシーンも少なくなかった。にもかかわらず攻撃が活性化したのは、ドリブラーが高い位置から仕掛けると、後方からサポートする味方がボールを奪われた後に備えることができるからなんですね。

オマーン戦で言えば三笘のドリブルの仕掛けに対し、相手の守備陣はつねに2人以上の選手が三笘に気を配っていました。裏を返せば、相手はボールを奪ったとしても、その後に攻撃に転じる人数が不足しているわけです。

このため日本代表は三笘がボールを奪われても、ボールサイドにしっかりプレッシャーをかけて相手のパスコースを限定し、そこに出てきたボールを味方がカットする。だからこそ、オマーン戦後半ではアンカーの遠藤航のパスカットが増えたのです。

相手にしてみたら、これほどキツイことはありません。三笘からボールを奪って「さあ、攻撃だ」と前がかりになったところで、ふたたび高い位置でボールを奪われてしまう。これを繰り返すことで相手は疲弊し、集中力も散漫になり、ゴール前に隙が生まれるわけです。

能力の高いドリブラーを起用するメリットはここにあります。単にサイドを突破したり、中央にカットインしてシュートまで持ち込む。もちろん、それに優ることはありませんが、後方の味方と連携できていれば、仕掛けそのものに失敗しても高い位置でボールを再回収して、2次3次と厚みを持った攻撃ができる。

当然ながらこうした攻撃ができれば、得点機会が増えることはもちろん、守備をする時間が減りますよね。今回のW杯アジア最終予選のように守備に不安があるなかでは、守備とリンクした大事な部分とも言えるわけです。

ひとつ重要なポイントがあります。それはドリブラーは攻撃時に仕掛け切ること。サイドでボールを持ったドリブラーが、相手に囲まれたからと安易に中央の味方へ横パスを出すケースがあります。これは相手DFからすれば、絶好のパスカットの狙い目。前掛かりのダッシュでボールを奪えるので、そのまま一気にカウンターでゴール前に運ばれてピンチになってしまいます。だからこそ、ドリブルをするときは奪われてもいいので仕掛け切る。無理なら後方に下げてふたたび組み立てる。中途半端が一番ダメな選択肢なわけです。

いずれにしろ、攻守両面から考えると、今回の日本代表にはドリブルで優位に立てる選手が必要になると思います。三笘は招集できませんが、ドリブラーとして世界で通用する実績のある中島もいるし、故障から復帰してクラブで好調の久保建英(マジョルカ)もいる。

日本代表の右サイドアタッカーには伊東純也がいて、あの突破力をメンバーから外すのは難しいだけに、久保を左サイドで使う手があってもいいのかもしれませんね。

森保(一)監督は置かれた状況のなかで最善策を尽くすのに長けた指揮官なので、1月17日から始まった国内組による日本代表合宿の推移によって判断されると思います。中国戦、サウジアラビア戦とどういうDFラインで臨むのか。さらに左サイドのアタッカーを含めたメンバー構成はどうするのか。難しい状況の2試合ですが、最高の結果を手にしてくれることを期待しています。

■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★