環境が整わないまま見切り発車するのは、やっぱり無理があると語るセルジオ越後氏

春開幕で実施しているアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の大会方式が、2023年から欧州の主要リーグと同じ秋開幕へと変わることが発表された。この決定に伴い、Jリーグでも今後、春秋制から秋春制への変更についての議論が行なわれそうだ。

欧州とシーズンを合わせることのメリットは「有力選手を獲得しやすくなる」「日本代表のマッチメイクがしやすくなる」「欧州組と国内組が混在する日本代表のコンディションのバラつきが減る」といったもの。確かにそのとおりで、そうなれば素晴らしい。

とはいえ、現実的には難しいんじゃないかなというのが今の僕の意見だ。

Jリーグでは過去にも秋春制への移行が議論されてきた。それでも実現できなかったのは、結局のところ、北海道や東北・北陸など寒い地方のチームが抱える問題への解決方法を提示できなかったから。現状は降雪期の練習、試合および観戦の環境が整っていない。

J1札幌が本拠にしている札幌ドームみたいなスタジアムが各地にあればいいんだけどね。J2、J3にはドームどころか、専用の練習場すらないチームもある。お客さんだって大変だ。観客席に暖房設備どころか十分な屋根すらないスタジアムも多い。

果たして、そんな環境で雪が降ったときにサッカー観戦を楽しめるかな。また、雪に不慣れな首都圏であれば、一気に何試合も中止となるリスクもある。

秋春制に関して、よく引き合いに出されるドイツのブンデスリーガのように12月、1月と中断期間を設ければ大丈夫では、という意見もある。でも、日本は2月も雪が多いよね。

例えば、J2の山形と岩手は今季、開幕から4試合連続でアウェーという厳しいスケジュールだ。実際、岩手の秋田監督は「今年は雪が多くて、大きなハンデになっている」とコボしていたね。

昔はドイツのスタジアムもお粗末なものが多かったけど、2006年W杯開催決定を契機に、スタジアムへの設備投資を進めた。暖房や屋根のついた、冬でも快適なスタジアムも増えた。そういった積み重ねの上に今の盛り上がりがある。

残念ながら、今の日本にはサッカーのそうした部分に設備投資をするだけのパワーも世間の理解もない。秋春制に関して、ファンやメディアの議論が盛り上がっているとも思えない。

そもそも、今のACLに無理して合わせる必要があるのかな。本家の欧州チャンピオンズリーグとはレベルもステイタスも何もかも違う。大会自体の魅力に乏しい上、過酷なスケジュールを強いられるので、Jリーグ勢にとっては一種の罰ゲームみたいな感じになっているよね。動機としては弱いし、J2、J3のチームからすれば「自分たちには関係のない話」だ。

もちろん、先に述べたように秋春制ならではのメリットはある。特に日本代表強化の観点だけでいえば、実現するに越したことはない。ただ、環境が整わないまま見切り発車するのは、やっぱり無理がある。

それよりも、増えすぎたJ1のチーム数(Jリーグ創設時10、現在は18)を減らして競争を厳しくするとか、レベルを上げるためにできる改革はほかにもあるんじゃないかな。

今月15日就任の野々村新チェアマンにとってはいきなり悩ましい問題だと思うけど、ぜひ思い切ったアイデアを打ち出してほしいね。

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