サッカー観戦の楽しみ方について、福西崇史が深堀り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第14回目のテーマは、サッカーの試合のより深い楽しみ方。代表戦からリーグ戦やカップ戦まで、日頃から多くのサッカーの試合が行われているが、そんな試合をより深く楽しむためにはどうしたらいいのか? 福西崇史がそのコツを解説する。

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サッカー観戦をもっと楽しむためには、どこを見たらいいのかとよく聞かれます。その時は「ボールを持っていなくても中盤の選手がどう動くかを追いかけていると、次第にサッカーの奥深さが見えてきますよ」と答えています。

それは、もちろんボクが現役時代は中盤の選手だったのもあります。ですが、それだけではなくて攻守両面において試合を支配するのが中盤の選手の仕事だからです。攻撃と守備の両方に関わる中盤の選手の動きから、チームがどう戦おうとしているかが見えてきます。

サッカーでは相手ゴールに近い場所にいるFWに、どうやってボールを繋げるかが大切です。いまの世界のサッカーで主流になっているのが、攻撃時にDFラインからパスを繋いでいき、ボールを保持しながら相手陣に押し込む方法。これには相手を自陣ゴールから遠ざけて、守備のリスクを減らそうとする狙いも含まれています。

このときボールを繋いでいくうえで重要になるのが中盤の選手です。ピッチの起点がどこになるかで説明が変わるので、ここではDFラインからボールを繋いでいく場合を想定して説明しますね。

4バックならCB2枚と両サイドバックとGK。そしてボランチが加わって、前線へとボールを運ぼうとします。この時に一番最初に意識するのは、相手ゴール前にいるFWに一発でパスを通すこと。ですが、相手もそこはケアしているので、そう簡単にはいきません。

次はセンターサークル付近にいるボランチにボールをあずけて、それを受けたボランチがターンをして前を向くことです。ここで前を向ければ、前線に縦パスを入れたり、サイドにボールを振ったりしながら、相手を揺さぶっていけます。

でも、相手もボランチのところにパスを入れられるのを警戒します。ボランチの背後には常に相手選手が張り付き、パスは受けられはしても、なかなか前を向かせてはもらえません。

こうした状況になったときこそ、中盤の選手たちをしっかり観察してください。彼らがどう連携しながら動くのか。ここを見ていると、それぞれのチームの戦い方や選手の能力などが、わかるようになっていきます。

ボクは現役時代、中盤の選手でボランチをつとめました。ボランチという言い方以外にも、いまは守備的MFやセントラルMF、インテリオール、アンカーなど、フォーメーションなどによって、さまざまな呼び方が使われます。

では、どのようにその呼び名を分けているのかというと、攻撃と守備の割合をどう取るかによってポジションの呼び名が変わるだけだと思います。守備の比重が大きければアンカーになるし、攻撃に偏れば1列前のシャドーといった具合です。ただし、それは役割が少し変わるだけのことで、結局のところ"攻守の要"であることに違いはありません。

ボクは攻撃が好きだったので、守備7:攻撃3くらいの割合でプレーしました。もちろん試合状況やチームによって比率は変えましたが、ボクの場合は基本はそういう意識でしたね。

ボクの場合という表現をしたのは、同じボランチというポジションであっても選手によってその比率が変わるからです。たとえば、ヤット(遠藤保仁)は、攻撃6:守備4くらい。ヤットは、一見あまり守備をしている印象はないかもしれませんが、それは味方を上手に使って守備をするタイプだから。実はかなり守備にも貢献しているといえます。

リーグや所属チームに合わせてその割合を変えていった選手もいますね。ボクの目から見ると、柴崎岳はJリーグでプレーしていた頃は攻撃7:守備3くらいの割合でしたが、海外に行ってからは攻撃5:守備5くらいに変わったイメージです。

ボランチの守備の仕方も選手それぞれで異なります。先ほど挙げたヤットのようにボールホルダーを味方に追わせて、自分のところに追い込ませて奪うタイプもいれば、自分が追いかけていって味方に奪わせるタイプ、豊富な運動量で追い切って自分で奪うタイプもいます。

この中で難しいのが、ヤットのようなタイプです。まわりの味方を使って守備をするのは、ボールを奪うポイントに相手を誘い込むさじ加減が難しい。牽制の動きをしながら相手の進むコースを限定して味方の待ち構える方に導くのですが、追いかけ過ぎるとそこでの勝負になってしまいます。また、ボールを奪おうと追いかけたのに相手にボールを展開されると、また自分のポジションに戻らないといけなくなるので、体力がすり減っていきます。
 
ボクは基本的に動かないボランチでしたね(笑)。体力があるタイプではなかったので、自分の仕事場から出ての守備はほとんどしませんでした。攻撃してくる相手は最終的にペナルティーエリア付近に来るので、そこで待ち構える。そして相手がボクの仕事場に来たらガッツリ行くようにしていました。

一概にボランチといっても、ボールの奪い方ひとつから選手の個性でプレーの仕方は大きく変わります。ボールホルダーを追いかける狙いがどこにあるのか。自分で奪い切るのか、味方に奪わせようとしているのか。そういう違いが見えてくると、サッカーが格段におもしろくなっていきます。

明日、3月24日(木)には、日本代表にとっての大一番ともいえる、W杯アジア最終予選のオーストラリア戦が控えていますが、こういった点にも注目してみると、より試合を深く楽しむことができるかもしれませんね。