川崎フロンターレを、福西崇史が深堀り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第20回目のテーマは、川崎フロンターレ。一昨年、昨年の圧倒的な強さと比較すると、今シーズンの現時点ではそこまでのパフォーマンスは発揮できていない印象が。そんな川崎FがJ1リーグ3連覇を果たすために必要なこととは? 福西崇史が語る。

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川崎Fが、今年もACL(アジア・チャンピオンズリーグ)の壁を超えることができませんでした。グループリーグ最終戦の勝利で3勝2分け1敗となって、ライバルチームの結果次第ではグループ1位になる芽があったものの、最終的にグループ2位。グループ2位でも他グループの2位との成績で上位3チームに入れば決勝トーナメント進出できたのですが、その条件は満たせずにグループリーグ敗退となりました。

川崎Fにとって痛かったのは、蔚山(ウルサン)戦の負けだったと思います。蔚山は昨シーズンのACL決勝トーナメント1回戦で対戦し、PK戦の末に敗れた相手。今季のACLでは同じグループリーグに入り、第1節では引き分け、第5節では2-3で敗戦しました。手強い相手なのは間違いありませんが、今年のACLでの蔚山の最終順位はグループ3位ですからね。敗れた試合はミスから失点を重ね、得点機を数多くつくりながらも決めきれない内容だったので、惜しい気がしてしまうんですよね。

いずれにしろ川崎Fの悲願であるACL制覇は、来季以降への宿題として持ち越すことになりました。ただ、川崎Fのリーグ戦を振り返ると、この結果になる予兆はあったなと感じています。

J1リーグは4月9日の柏レイソル戦に1対0で勝利したのを最後に、ACLのために一時離脱していましたが、そこまでの10試合では6勝2分け2敗で、総得点15、総失点12。順位は鹿島アントラーズに次ぐ2位につけています。悪くはないですが、開幕からの戦いぶりを振り返ると、正直なところ3連覇に向けては物足りなさはありましたよね。

一昨年、昨年とJ1リーグでの川崎Fは、圧倒的な強さを誇りました。その大きな要因になったのが、ギリギリの戦いを制することができたから。試合展開的には負けていても不思議ではないゲームもあったのですが、そうした試合も終盤での勝負強さで勝ち点3を積み上げることができました。

でも、それが今季はあまり見られない。相手に研究されていることや、守備の大黒柱のCBジェジエウを故障で欠いている影響もあるでしょうが、もっとも大きいのは選手の移籍などでメンバー構成に変更が生じたことですよね。

逆を言えば、昨季終了後にセルティックに移籍した旗手怜央はもちろん、昨季途中に海外移籍でチームを離れた三笘薫(サンジロワーズ)と田中碧(デュッセルドルフ)、昨季開幕前に海外移籍した守田英正(サンタクララ)という選手たちがチームに残っていたら、川崎Fがどんな進化を遂げていたのか興味深いですよね。

きっとACL制覇も達成できていたんだろうなと思ってしまいます。ただ、それができない難しさがあるなかで、川崎FはACL制覇やリーグ3連覇にチャレンジしている。このことも理解しなければいけないでしょうね。

新たに獲得した選手がチーム戦術にフィットするのに予想よりも時間がかかったことで、もっとも顕著に影響が見られるのは攻撃面ですよね。

J1リーグでの戦いから通して見ると、大量失点を喫した試合があるので守備面の課題に目が行きがちです。でも、川崎Fは守り勝つチームではないですからね。その攻撃力で相手を圧倒するスタイルなのに、それが機能せずに逆襲を喰らって失点を重ねる。ACLでも得点が奪えずに引き分けた試合がありましたが、昨年よりも攻撃面での迫力不足は否めませんよね。

もっとも気になるのは、攻撃でのパスのテンポが昨年までのチームと比較して遅いこと。ひとつひつつのプレーをみれば微妙な違いですが、それが積み重なってゴール前にボールが運ばれてきた時には大きな違いになっている。相手を崩し切れずに得点に至らないこともありましたよね。

1トップのレアンドロ・ダミアンが開幕当初はチームワークのなかで存在感を発揮できていたのに、その後は少し自分勝手なプレーをすることも増えた気がするのは、こうした所での影響があるのかなと感じますね。

テンポが遅くても、中盤にゲームをコントロールできれば違うのでしょうが、その役割をできる選手がいないのも苦しさの要因でしょうね。一昨年までは中村憲剛がいて、守田英正もいた。昨季は田中碧や旗手が中盤にいたし、なにより左サイドには三苫がいましたからね。彼がいたことで、ボールを預けてしまえば攻撃の起点になってくれました。

今年も右サイドには家長昭博がいて、彼のところで試合のリズムをコントロールできます。でも、左サイドに三笘がいない影響はあるわけで、やっぱり中盤のところで試合をつくっていかないと難しくなってしまうわけです。

本来ならゲームコントロールは大島僚太が担うのがベストなのでしょうが、コンディションがなかなか万全にならない。脇坂泰斗はいい時はいいのですが、消えてしまう時間帯もあるんですよね。そこが彼が今後、日本代表に入っていくために解消しなければいけない課題でもあると思います。橘田健人は守備力が高くてボールのさばきもいいのですが、アンカーのポジションでゲームメイクというのは少し難しいんですよね。日本代表での守田英正のように、もう1列前でプレーするようになってくれば、彼がゲームメイクを担う可能性もあるでしょうね。

加えて、チャナティップがさらにチームにフィットできるかも今後の川崎Fには重要なことでしょうね。インサイドハーフとして起用されていますが、彼の実力がチームと噛み合っているかと言えば、そうは感じられないんですよね。ACLの最終節で受けた負傷がどの程度かわからないのですが、ACLを含めて試合数をこなすことができたことが、今後のリーグ戦でポジティブに働いてくれば、川崎Fの物足りなさは少し解消されるのかなと思いますね。

川崎Fは、右アウトサイドに家長昭博がいる限りは大崩れはしないと思います。彼がボールを持つことで、パスのまわるリズムだったり、味方の動き出しだったりが変わりますからね。でも、それだけで3連覇はやっぱり厳しいですから、先に挙げたゲームをコントロールできる選手だったり、新戦力のチームへの適応だったりが、ACLを経たことでどう変化していくのかは興味深いですよね。

その川崎Fは、5月7日の清水エスパルス戦からJ1リーグに復帰します。選手たちがACLグループリーグ敗退から気持ちをしっかり切り替えることは大事ですし、今季のチームで浮き彫りになっている課題を鬼木達監督がどう解消するのか。そうしたところに注目していきたいですね。

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