松木玖生について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第251回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、松木玖生について。FC東京に所属する高校生ルーキー・松木がついにJ1リーグ初ゴール。彼のすごさとはいったい何なのか? 宮澤ミシェルが語った。

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松木がついにJ1リーグで初ゴールを決めたね。5月3日のアビスパ福岡戦で高い位置で相手ボールホルダーにプレスをかけてバックパスのボールをかっさらうと、そのままGKとの1対1に持ち込んで冷静に右足でゴールに流し込んだ。見事だったよ。

いずれ得点を決めるだろうとは思っていたけど、ゴールの奪い方はこれまでの10代の選手にはなかったものだったんじゃないかな。それができたのもフィジカル的にJ1レベルで見劣りしない強さがあるからだよな。

私はもともと10代の選手をJ1での試合にスタメンで使うことは、どうかと思っているんだよね。よくあるのが、ボールテクニックが高いことを理由にした起用ケースだけど、フィジカル的にプロレベルに達していない選手への負荷は大きいんだよ。

高いレベルを経験することが、将来的なフィジカル強度を高めるキッカケになるという考え方は、もちろん理解できる。でも、「経験のため」と言うのは簡単で、大切なのは経験をどう積ませていくか。「さあ、経験しろ!」と闇雲に試合に使うことではないと思うんだよ。

ヨーロッパのクラブでは、10代の若い選手を試合に使う時に、終盤の短い時間で出場させながら経験を積ませていく手段がよく使われるんだよね。だって、フィジカルがまだできていない選手をいきなり高負荷の中に放り込んだら、やっぱりケガをするリスクが高まっちゃうからね。

J1リーグだって、大柄な男たちがしのぎを削り合う欧州リーグほどではないにしろ、フィジカル強度は低くないよ。スタメン出場して、元気バリバリの状態のときは問題なくやれてもさ、疲労が蓄積される試合後半での激しい体のぶつけ合いのなかでケガをする可能性はあるわけ。そういう面を考えると、10代の選手をスタメンで連続して起用するのは慎重になるべきだなと考えていてさ。

それがだぜ! 松木はついこの間まで高校生だったとは思えないようなフィジカル強度を持っている。青森山田高時代から体つきからして高校生離れしたフィジカル強度だったけど、それでも同年代の中だから強さが際立っていた部分もあるのかなと感じていたんだよ。J1での戦いだと、バテるのも早まるだろう、と。

でも、そんなことはまったくなかったね。今季の開幕戦でスタメンを張って、そこからレッドカードでの出場停止処分だった1試合をのぞいた全試合にスタメン出場。フィジカル的に、しっかりJ1レベルで遜色なく戦えているんだよな。まずはそこが素晴らしいし、こんな10代選手が日本にも登場する時代になったんだなと思ったよね。

プレー面は基本ベースが高いよ。とくに守備がしっかりできるから、監督としては使いやすいよな。松木の守備から攻守が切り替わって、得点になったシーンもあるからね。

課題を探すなら攻撃のところだよな。インサイドハーフで使われているから、もっと得点に絡むプレーをしてもらいたいよね。福岡戦では前線での守備から得点に繋げたけど、流れの中でもっとゴール前に飛び込むプレーが増えていくと、もっともっとゲームを動かせる選手になっていけるはずだよ。

スターになる選手ってのは、不思議な巡り合わせがあるでしょ。たとえばプロ野球で、満塁だとかチャンスだとかで打席がよくまわってくるバッターがいて、そこで期待に応えるから誰からも頼られる選手になっていく。

松木にもその雰囲気はあるんだよな。鳴り物入りのルーキーとはいえ、開幕戦からスタメン起用された背景には、FC東京の主力選手が開幕戦前に新型コロナ感染が出たこともあったわけじゃない。そこで松木にチャンスがまわってきて、しっかり結果を出したから、それ以降も起用されている。プロで成功するには、才能や努力だけではなくて、見えない力が影響することもあるからね。松木はそういう星を持っている気がするよね。

6月にはパリ五輪世代で挑むアジアカップがあるけれど、そのU-21日本代表候補に松木も選ばれているからね。まずはここでしっかり活躍して強烈なアピールをしてほしいよね。この世代からひとり、ふたりの選手が突き上げてくると、11月のW杯カタール大会への楽しみも増すってものだからさ。期待していますよ!

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