日本代表の強化試合をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第24回目のテーマは、日本代表の強化試合について。明日より始まる日本代表の強化試合で福西崇史が注目しているポイントを語を語る。

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日本代表は11月にあるW杯カタール大会に向けた強化試合として、6月2日(木)にパラグアイ戦、6月6日(月)にブラジル戦、6月10日(金)にガーナ戦、そして6月14日(火)にチリかチュニジアと対戦します。

今回の日本代表メンバーには、シュツットガルトの伊藤洋輝が新たに招集され、フランクルフルトの鎌田大地やPSVの堂安律も久しぶりに名を連ねました。

まず伊藤については、ぜひゲームのなかで試してもらいたいですよね。冨安健洋(アーセナル)は今回の強化試合に招集されましたが、足の状態を考えれば無理をさせる時期ではないですよね。それでも森保監督が試合に使わない可能性のある冨安を招集した意図は、彼が日本代表の守備の大黒柱だからです。

代表活動は試合はもちろんですが、それ以外の時間もメンバーが共有することに意義があります。練習からコミュニケーションを取ってチームとしての方向性を冨安も理解しておく。これが重要だと森保監督は考えているからこそのマネージメントでしょうね。

そこで注目されるのが、伊藤ですよね。昨夏にジュビロ磐田からシュツットガルトに移籍すると、あれよあれよという間に地位を高めて29試合に出場しました。主にCBとしてプレーしましたが、個人的な思いを言えば、ボランチとしてプレーしてほしかったというのはありますね。

それは、ボランチからCBへ代わることは、年齢を重ねてからでも対応できるからです。長谷部誠を見たらわかりますよね。でも、逆にCBからボランチへとなると、ハードルは高くなります。体力、走力的な部分はもちろんですし、なによりプレーの視野がCBの場合は180度くらいですが、ボランチは360度が必要になるからです。

その点を踏まえると、伊藤にはもっとボランチにこだわって欲しい思いはあるのですが、若い選手にとっては出番のあるところで一生懸命にプレーすることも大事ですからね。将来的にはやっぱりボランチとして輝いてもらいたいなと思っています。今回の日本代表で伊藤がCBとボランチのどちらでプレーするかはわかりませんが、両方での可能性を探られるんだと思います。

ボランチとしては遠藤航のバックアップになる選手が足りていませんから、そこでも起用される可能性はありますね。CBとして伊藤が使える目処が立てば、日本代表の守備陣の構成は一気に幅を持つことになりますからね。

冨安に万が一の事態があった際の代替選手としてはもちろんですが、冨安がプレーできる状況でも、コンディションに不安のある酒井宏樹次第では、冨安を右サイドバックに置いて伊藤をCBに使う選択肢も持てますし、3バックを導入する可能性も生まれますから。

188cmある伊藤は、日常的にドイツのブンデスリーガで大柄な選手たちとフィジカルコンタクトを経験していることが強みですよね。W杯グループリーグで戦うドイツ代表選手とレベルの違いはあるにせよ、デカくて強い選手への対応力は備わっているはずです。

加えて、キック精度の高さも期待したくなる理由です。ボクはジュビロ時代の伊藤を知っていますが、左足からのキック精度はその頃から見るものがありましたね。押し込まれる展開が予想されるW杯グループリーグでの戦いでは、DFラインからのパス1本で一気にチャンスをつくり出す可能性も探していかなければなりません。それに応えるだけのキック精度を伊藤は持っているので、そこでのアピールもしてもらいたいですね。

攻撃陣では、大迫勇也がメンバー外になりました。経験も実績もある選手ですから、いまはコンディションを取り戻すことを最優先してほしいなと思いますね。そして、今回のテーマになるのが、大迫を欠いたときの攻撃のオプションをどれだけ増やせるかになるでしょうね。

メンバー構成を見ると、最前線に古橋亨梧、浅野拓磨、前田大然とスピードのある選手を揃えました。ポストプレーもできる上田綺世も裏のスペースを狙える選手ですからね。右の伊東純也と、彼らの特長から考えれば、森保監督はカウンターの攻撃から、一気にゴールに迫りたいという狙いが伝わってきますよね。どの選手をスタメンで起用するのか、それともゲームチェンジャーとして使うのか。どういう組み合わせを試すのか楽しみなところです。

ゲームチェンジャーで言えば、三笘薫や堂安律の起用方法も気になりますよね。スタメンで見たい選手ではありますが、これまでのW杯予選などでのプレーを振り返ると、まずはベンチスタートで勝負所での切り札として使った方が、いい結果を残している印象があります。各選手の持ち味を存分に発揮できる起用の仕方を考える森保監督ですから、今回の4試合で彼らに期待されている役割が見えてくるかもしれませんよね。

起用方法でもっとも気になる選手で言えば、鎌田大地ですよね。今シーズンはフランクフルトをヨーロッパリーグ優勝に導く活躍をしました。これは海外組の多い日本代表のなかで、もっともハイレベルなところで結果を残した選手と言っていいものです。その鎌田を生かすポジションを、日本代表のなかに見つけ出せるのかは最大のテーマかもしれませんよね。

4-2-3-1のトップ下のようなポジションがあれば鎌田の特長を生かせるのですが、現状の日本代表は4-3-3の布陣を敷きます。アンカーに遠藤航、インサイドハーフには田中碧と守田英正が入ってきましたが、このシステムのまま果たして鎌田は生きるポジションがあるのか。

鎌田ほどのレベルにある選手ならインサイドハーフでもプレーはできるはずです。でも、それによって鎌田を起用するメリットを失うのなら、ほかに特長を持つ選手を使ったほうがいいわけでもあります。ここがメンバー構成の化学式の難しさでもありますよね。

さらに言えば、ドイツ代表とスペイン代表、コスタリカ代表かニュージーランド代表との対戦が決まっているW杯グループリーグを見据えた場合、森保監督が全試合に4-3-3で臨むとは限らないですからね。そこも含めて、森保監督がW杯に向けてどういうビジョンを描いているかも、この4試合の強化試合から見えてくるでしょうね。

理想を言えば、この時期の強化試合はメンバーを固めてチームとしての成熟をはかっていくべきタイミングです。でも、日本代表は新型コロナ禍のためにW杯最終予選のなかで強化試合を組めなかったため、新たに頭角を示した選手たちをチームに取り込んで力に変えることが十分にはできていませんでした。メンバー的には変わり映えはあまりしませんが、今回の4試合では、そうした選手たちを生かす道を探すこともテーマになると思っています。

勝負は結果にこだわることが必要ですが、ここでの4試合すべては11月の本番のためにあります。内容の伴わない好結果よりも、負けたとしても課題と収穫が明確になる内容のある試合を見せてもらいたいと思います。

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