前回W杯の司令塔、田村はケガの影響で「セカンドチーム」に。出場機会を増やしていた松田もケガで離脱中のため、若手にとってはアピールのチャンスだ

2023年にフランスで開催されるラグビーワールドカップ(W杯)まで1年と3ヵ月余り。19年大会のベスト8以上を狙う〝ブレイブブロッサムズ〟ことラグビー日本代表は、6、7月に国内チャリティマッチ1試合、ウルグアイ代表、フランス代表とそれぞれ2試合ずつの計5試合を行なう。

特にW杯開催国で強化が進むフランス代表は、最新の世界ランキング(5月30日時点)で2位の強豪。日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は「(フランス代表は)自分たちを試せるベストなチーム」と意気込んでいる。

コロナ禍における日本代表は国際試合が少なく、強化面で他国から後れを取った。プロチームの「サンウルブズ」の存在がなくなり、代表選手や候補選手が経験を積むことができていない。

そこでジョセフHCは、日本代表候補68名を、自ら指導する日本代表と〝セカンドチーム〟と呼ぶ「NDS(ナショナル・ディベロップメント・スコッド)」のふたつに分けた。

2チーム体制で強化する意図については、「若い選手たち、ケガから戻ってきた選手たちがゲームタイムを確保し、(テストマッチの)タフな試合の中でどれだけできるか見たい。そしてW杯に向けて選手層を厚くしたい」と説明。

さらに、今回の代表活動に参加していないWTB(ウイング)/FB(フルバック)松島幸太朗(仏・クレルモン)、NOナンバー8エイト姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)ら実績がある約10名を含め、約80名を5連戦の後に「45~50名に絞る」と明言している。

なかでも「特に層を厚くしたい」と言及したのが、司令塔のSO(スタンドオフ)だ。19年のW杯では、コーチ陣の信頼厚かった田村 優(横浜キヤノンイーグルス)が5試合すべてで先発し、松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)が控えだった。そこから松田は安定感を増し、昨季の日本代表でも10番で出場する機会が増え、23年のW杯では中軸となると思われていた。

しかし松田は、今季のリーグ最終戦で左膝を負傷し、復帰までやや時間がかかる見込み。田村もシーズン途中でケガをして万全ではなかった。そのためジョセフHCは田村を日本代表に入れず、「現時点ではまず、プレーを見たい」とNDSで選出。6月18日のウルグアイ代表戦で先発させ、様子を見る予定だ。

一方で、「半年前までは田村と松田が代表に貢献していたが、今の私の頭の中には5人のSOがいる。みんな違ったスキルを持っていて全員にチャンスがある」とコメント。今回のテストマッチに招集された国際経験の浅い3人を、文字通り〝テスト〟する方針だという。

高校からラグビーを始め、3年時に将来性を買われて代表合宿に参加した埼玉の山沢。大学時代に左膝を手術するなどケガにも苦しんだが、本格開花なるか

とりわけ期待度が高いのは、リーグワンのプレーオフで松田に代わって10番を務め、ワイルドナイツの優勝に貢献した27歳の山沢拓也だ。

キック、パス、ランのスキルが高く〝ファンタジスタ〟と称され、ジョセフHCも「彼はここ4、5年、日本代表に出たり入ったりしているが、高いポテンシャルと能力を持っている。もう少し一緒に仕事をしてみたい」と期待を寄せる。

中学まではサッカーのクラブチームで活躍し、Jリーグのユースには合格できなかったが、地元・埼玉県の強豪校から複数の誘いがあった。しかし、兄がラグビーをしていたことや、監督からの熱心な誘いもあって深谷高校に進学し、本格的にラグビーの道へ。

すると1年時から〝花園〟の地を踏み、3年時には当時の日本代表HCエディー・ジョーンズ氏から「(視野が広く)ビジョンを持っている」と評価され、代表合宿に参加した逸材だ。

筑波大学時代はケガに泣かされながら、大学4年時から個人的な事情もあって〝飛び級〟でワイルドナイツに入団。17年に代表初キャップを獲得し、サンウルブズでもプレーしたが、日本代表に定着することはできなかった。

ワイルドナイツでも昨季と今季の途中まで控えに甘んじていたものの、前述のように今季のプレーオフ準決勝、決勝で見事に10番を担った。

本人いわく「何事もうまくやろうと思わず、自分でできること、自分らしいプレーをしよう」と試合に臨んだことが、いい結果に結びついたという。プレーオフ決勝では苦手としていたディフェンス面でも大きな成長を見せ、トライを防ぐタックルと、試合を決める「ジャッカル」を披露して勝利をたぐり寄せた。

試合後は涙を流しながら、「無意識にプレッシャーを感じていた。うれしかったというより、ホッとした感じ」と喜びを話した。W杯に向けては「メンバーに選ばれれば光栄ですけど、(ライバルたちと)助け合いながら、自分自身ラグビー選手として成長できればいい」と目の前の練習、試合に集中している。

鹿児島大でラグビー部主将を務めた東芝の中尾は、大学4年時に7人制ラグビーの日本代表にも選ばれるなど、ランでもチャンスメイクできる能力が高い

残るふたりは代表初招集だが、可能性は十分に感じさせる。リーグ4位・東芝ブレイブルーパス東京の中尾隼太(27歳)は今季、SO(スタンドオフ)とCTB(センター)の両方でゲームメイクを担った。

小・中・高の教員免許を持ち、英語も勉強して外国籍の選手とスムーズにコミュニケーションが取れるほど。リーダーシップも高く評価されている。

若き司令塔候補・李は大学を中退して神戸入りした異色の選手。兄も三重ホンダヒートでプレーしており、兄弟で世界と戦える選手を目指し進化を続ける

もうひとり、やはりCTBでもプレーするコベルコ神戸スティーラーズの李 承信(21歳)は、20歳前後の選手で編成された「ジュニア・ジャパン」の元共同主将。高みを目指して帝京大学2年で中退し、20年10月に地元の神戸製鋼(当時)に入団。今回の代表での経験が、さらなる成長を後押しするだろう。

新たな力はW杯に向けてどんなアピールをするのか。テストマッチの行方に注目だ。