日本代表の守備の要・板倉 滉選手(右)を中川絵美里が直撃!

ドイツやスペインが待ち受ける、サッカーW杯本大会開幕まで4ヵ月弱。日本代表の守備の要として欠かせない存在になりつつあるのが、板倉 滉(いたくら・こう サッカー日本代表DF/ボルシアMG所属)だ。

プレミアリーグの超名門マンチェスター・シティに移籍するも、すぐさまレンタルでオランダへ。言葉の壁や、試合に出られぬ不遇の日々も経験した。その屈託のない笑顔の裏に隠された、汗と涙の物語。スポーツキャスター・中川絵美里が聞いた。

■最終予選の大一番、中国戦は緊張で......

中川 いよいよW杯カタール大会が近づき、板倉選手ご自身も新たな所属先が決まるなどして、だいぶ気持ちも高ぶっていると思います。

板倉 そうですね。常に日本代表のことは意識してますし、もちろんW杯のピッチに立ちたいという気持ちも大いにあります。でも、まずは自分が所属するクラブで試合に出て、しっかり活躍することが代表への近道なので。今までもずっとそういうスタンスでやってきましたから、新しく入った(ドイツの)ボルシアMGでも貫きたいです。

中川 では、板倉選手の日本代表での変遷から。今回のW杯アジア最終予選に初めて出場したのが、1月27日の中国戦でした。本大会出場に向けての大事な一戦、重圧も相当だったのではないですか。

板倉 いや、ホント、めちゃくちゃ緊張しましたね(笑)。

中川 昨年の東京五輪にも出られていますが、全然違うものですか?

板倉 違いましたね。今までどんな試合でも緊張感を持って臨んできましたが、まったくの別次元というか。センターバックの(吉田)麻也くんとトミ(冨安健洋)をケガで欠いていたときだったので。

招集がかかって、所属先のドイツから日本に向かう機内で、これは先発の指名が来るぞと。ここできっちり結果を出さなかったら終わりだぞって、自分に言い聞かせて。

中川 使命感ですね。ようやく、自分に先発のチャンスが巡ってきたという喜びよりも結果を出さねば、という。

板倉 そうです。あんな感覚は初めてでした。日本のために勝たないとダメだっていう、まさに国を背負っている感覚は。

中川 スコアは2-0の勝利。無失点に抑えました。どういう点を意識してプレーされましたか?

板倉 普段できないことを試して、いいところを見せようっていうのではなく、いつもどおりの基本に忠実なプレーを心がけていましたね。とにかく、日本が勝つために手堅く、全力を尽くすという。

中川 レギュラーを狙うよりも、フォア・ザ・チームの精神ですね。その後のサウジアラビア戦(2月1日)や、W杯出場を決めたオーストラリア戦(3月24日)はMFでの出場、すべて0点で相手の攻撃を封じ込めましたが、3戦を通して自信は深まりましたか?

板倉 いや、中国戦はさっき言ったとおり、極度のプレッシャーと久々の代表スタメンということもあったせいか、動きが硬かったんですよ。いつもどおりの動きができないというか。でも、最終的に本大会出場を決められてホッとしました。

22~23年シーズンの幕開けに向けて、自主キャンプを行なったときの一枚。昨季までのシャルケにおけるフル出場を新天地でも叶えるべく、体のメンテナンスにも余念がない

■6月のブラジル代表は本番の強度ではなかった

中川 直近の代表戦についてもお聞きしたいです。6月のキリンチャレンジカップ、キリンカップサッカーの4試合は、結果が2勝2敗でした。

板倉 W杯を見据えて、いろいろとメンバーを代えながらトライできたのは良かったと思います。4-3-3の基本の布陣だけでなく、相手によって臨機応変に対応できるよう、短い時間でしたが4-2-3-1や5バックなども試せました。

いい結果が出せた試合もあった一方、最後のチュニジア戦(6月14日)のように出来の悪い試合もありましたが、W杯前のタイミングとしては貴重な機会を持てました。

中川 板倉選手個人にフォーカスすれば、レギュラーポジション争いにおいて、かなり前進したのではないですか?

板倉 どうなんですかね、自分らしくプレーはできましたが......。今までずっとスタメンで出ていたわけでもなく、今回もトミがケガということもあり、自分に出番が回ってきましたが、先発を勝ち取りたいっていう思いは強いです。

中川 では、スタメンの座をつかんだぞという意識よりも危機感のほうが強いですか?

板倉 いやもう、危機感しかないですよ! 誰もがスタメンを保証されているわけではないですし、ましてや僕は定位置にはいなかったんで。ただ、そんななかでも、6月の4試合すべてに出られたのは非常に大きかったです。

中川 板倉選手らしさといえば、6月6日のブラジル戦。体を張って厳しく寄せて、持ち味を出せていましたよね。相手の強度はテストマッチといえども、いかがでしたか。

板倉 やっぱりうまかったです。全員がボールを持てて、仕掛けられる。世界最高峰だなと。W杯本番と同じ強度ではなかったでしょうけど、ブラジルはプレーの質の高さが違いました。

中川 そういったレベルの高いチーム相手の場合、意識されていることはありますか?

板倉 僕も含めてチームで意識していたのは、ベタ引きすることで相手を待ち構えるのではなく、前からの守備をトライするようにしてました。事実、相手のミスを誘発できたところもありました。

あとは、なるべくペナルティエリアの外で勝負を決めること。ブラジルは巧妙なので、ペナルティエリア内でこちらがうっかり足でも出してしまったら、あっという間にファウルですからね。そこは注意してました。

中川 さかのぼって、6月2日のパラグアイ戦では、後半から3ボランチのアンカーで起用されました。過去にあまりない起用でしたよね?

板倉 ええ、今までほとんどやったことがなかったんで、ぶっつけ本番でしたね。

中川 個人的には、やってみていかがでしたか?

板倉 相手の守備の強度がさほどでもなかったので、割と攻撃面ではやりやすかったなと。ただ、もっと前にボールをつけられた(パスを出せた)はずだし、守備でももっとプレスはかけられただろうと。45分間だけでしたが、ひとつのオプションとしてトライできたこと、いろいろと学びがあったのはよかったです。

中川 14日のチュニジア戦は、10日に4-1で快勝したガーナ戦とは打って変わって、0-3と惨敗でした。この結果についてはどうとらえていますか?

板倉 僕も含めて、チーム全員が「ああ、このままじゃダメだ」と。僕らは、ボールは持たせてもらえていたけど、チュニジアのほうが戦術面でもフィジカル面でも優れていました。でも、こう思うんです。W杯の本大会前にああいった敗北を経験できたことで改めて気づかされたのは、逆に良かったんじゃないかと。

中川 あの惨敗で、むしろチーム全体がピリッと引き締まったというわけですね。

板倉 そういうことです。

中川 もうひとつ、チュニジア戦では、DFで主将の吉田麻也選手のミス、不調が取り沙汰されていました。危機的状況に陥ったとき、ほかに精神的支柱となる選手は存在するのでしょうか。

板倉 まず、お断りしておきたいのは、あれは麻也くんだけのミスではないということ。僕のミスもあったし、チーム全体のミスもありました。で、麻也くんがすごいと思ったのは、あれだけ追い込まれても、声を出してチームを鼓舞していたことです。そこに強靱(きょうじん)なメンタリティを感じました。

中川 常にキャプテンシーを忘れないということですね。

板倉 はい。それと、メンタリティの強さでいえば、ほかのみんなも立派ですよ。練習の時点から、向上心に満ちあふれていて。「もっとうまくなりたい」という気持ちが前面に出ていて、手を抜かないんですよ。ほとんどの選手が海外でもまれて、ハングリーですからね。代表に合流するたび、大いに刺激になります。

■干された末に、片言英語で直談判!

中川 昨シーズンまではドイツのシャルケ04で活躍されてきましたが、海外挑戦の第一歩はオランダ1部のFCフローニンゲンでした。しかし、最初の半年間は全然出場機会に恵まれなかったそうですが......。

板倉 そうです、まったく出られませんでした。2019年の1月に所属のマンチェスター・シティからすぐさまレンタルの形で出されて。で、1分も出られなかったです。

中川 相当こたえますよね。

板倉 いや、マジで地獄でした(苦笑)。毎日、日本に帰りたいって思ってました。なんせ、オランダ語はもちろん、英語もまったく話せないから、コミュニケーションが取れない。辛うじて、クラブの同僚に五輪代表でも一緒だった(堂安)律がいてくれたから、完全な孤立は避けられましたけど......。

中川 出られない状況が続くと、気持ちも萎(な)えてきますよね。

板倉 ええ、トップチームの試合には帯同すらできず、U-21とかU-23の試合に出ろと。とにかくやるしかないので一生懸命やりましたけど、その試合は当然、トップチームの監督は見てもいないわけです。このままじゃらちが明かないと思って、ある行動に出たんです。

中川 それはどのような?

板倉 「なんで、僕は試合に出られないんですか?」っていうワンフレーズの英語を辞書で調べて、デニー・バイス監督のところに乗り込んだんです。

中川 行動力ありますね!

板倉 で、その言葉をぶつけて詰め寄ったところまではよかったんですが、監督の回答が何言ってるのか全然わからなくて。ヒアリングがサッパリだから意味なかったですね(笑)。

中川 そんな状況をどうやって打破したんですか?

板倉 まず、言葉については、もともと話すことが好きなんで、英語を教えてくれるオランダ人の先生に家庭教師になってもらいつつ、先生の家族ともすごく仲良くなったおかげで徐々に覚えていきました。今では英語のコミュニケーションは問題なく、その先生やご家族との交流も続いています。

中川 板倉選手は、こうしてお話を聞いていても非常に人当たりがいいから納得です。

板倉 いやいや、しゃべるのが好きなだけです。それと、サッカーのほうは、トップチームの練習に合流となれば、その段階からバッチバチにやってました。試合にろくに出てない日本人となると、やっぱり最初はナメられがちでしたから。

中川 バイス監督以下、スタッフもそうした板倉選手の努力をチェックしてたんですね。

板倉 ええ。試合に出られないからって変に腐っても、自分に返ってくるだけですしね。で、コツコツとやっていたところ、最初はベンチを温めているだけだったのが、そのうち「アップに行ってこい」となって。監督の態度がだんだん変わってきたのが実感できたんです。

中川 努力のかいあって、2季目の19-20年シーズンは16試合連続出場、3季目の20-21年シーズンでは、計35試合フル出場を果たして、チームの年間最優秀選手に選出されました。

板倉 最後のほうは、監督が筋トレする際、バーを持ち上げるのを手伝うくらい親密になれました(笑)。今となっては、あの最初の半年間がなければ大きく成長できなかったと感じています。逆境に感謝です。

ファッションが大好きという一面を持つ板倉。好みの服を身に着け、趣味のカフェ巡りをするのがオフの楽しみのひとつ

■デカくてゴツい、ドイツ選手に鍛えられ

中川 昨シーズンはドイツのシャルケでプレーし、2部リーグ優勝。1部への返り咲きに大きく貢献されました。昨年末には、サッカー専門誌による2部リーグ最優秀センターバックにも選ばれています。相当に充実したシーズンだったのではないですか。

板倉 そうですね、シャルケに来てからは頭から全試合に出られたんで、充実度は高かったです。あと、やっぱり名門クラブですからね。昇格は必須でしたので、その重責は知らず知らずのうちに感じていたと思います。

1試合を残して昇格を決められたんですけど、そこで「ああ、やっと終わった」っていう安堵(あんど)感がドッとあふれ出たことを覚えてます。

中川 シャルケに入ってみて、フローニンゲンとはまた違った収穫はありましたか?

板倉 ありましたね。まず、ホームのフェルティンス・アレーナの雰囲気。6万人以上収容可能ですからね。ド迫力でした。それと、オランダは"うまい"選手が多かったけど、ドイツは2部といえども、デカくて、ガタイがいい選手が多いんです。そういった選手と毎試合やれたのは収穫でしたね。

中川 板倉選手は身長が186㎝ありますが、それでも彼らが大きいと感じましたか?

板倉 はい。実際、僕なんかスタメンの中では、身長は真ん中くらいでしたし。基本、相手FWも、僕よりデカくてガタイがいい選手ばかり。そういう環境は今までありませんでした。

中川 それは間違いなくフィジカルが鍛えられますね。でも、そういう相手と対峙(たいじ)するときは、同じタイミングでいくと、どうしても難しいところがありますよね。どのように工夫されましたか?

板倉 まさしく。同じタイミングでいけば吹っ飛ばされるので、ずらしたタイミングで体を当てるとか、相手よりも先にコースへ入るとか。とにかく、相手は割とぶつかりたがりで、わざとつかみかかってくるタイプが多かったので、真っ向から行かないようにしてましたね。

中川 では、予測する力、判断力というのも相当鍛えられるんですね。

板倉 はい。出場した31試合を通じて、間違いなく経験値を積み重ねることはできました。

■W杯の対戦国について分析したこと

中川 ドイツ人選手の話を伺いましたが、W杯のグループリーグ初戦(11月23日)の相手は、ドイツです。そしてコスタリカとスペインとの対戦が続きます。この組み合わせについての率直な感想は?

板倉 強いチームが来たなと(笑)。ちょうど、組み合わせを知ったのはシャルケでの試合終了後のロッカールームでした。チームメイトが携帯でチェックしてて。「おい、ニッポンはドイツ、スペインと当たるぞ。ノーチャンスだな」と、めっちゃ言われたんですけど、逆に楽しみだなって。

中川 期待感のほうが上回ったわけですか。

板倉 はい。W杯ですしね、ドイツにコスタリカ(27日)、そしてスペイン(12月2日)と、難しい試合ばかりになるでしょうけど、ワクワクしてます。

それはほかの日本代表のみんなも同じ思いかと。ドイツやスペインを打ち破って決勝トーナメントへ上がっていけたら、ものすごく盛り上がるじゃないですか。やってやろうっていう気持ちです。

中川 頼もしい限りです。各国に対する分析は、ご自身の中ではいかがですか?

板倉 ドイツの場合、プレーしてみてわかったことですが、往々にしてきちょうめんで、規律もしっかりしている。日本人に近いんですよ。球際やセカンドボールといったところも基本をしっかり守って、抜け目なく戦ってくるでしょうね。

中川 やっぱり、お国柄というのがあるんですね。

板倉 ええ。例えばブラジルってみんな超うまいけど、サボる時間帯もある。でも、ドイツは一切手を抜かないですね。だから、こちらも集中しないと。

中川 もうひとつの強豪国スペインはいかがですか?

板倉 去年の東京五輪で対戦して負けてますからね。雪辱を果たしたいです。4-3-3のシステムで、ガビやペドリといった若手の逸材もたくさんいる。プレーの質やポジショニングの賢さも抜群で、攻められる時間帯は多くなるでしょう。でも、奪った後のカウンターとかはチャンスかなって。僕ら日本には、前線に速い選手がそろってますから。

中川 去年の夏場の五輪は中2日での連戦、W杯のグループリーグは中3日の間隔です。

板倉 +(プラス)1日でも、だいぶ違います。ペースに配慮して、大事に戦っていきたいですね。

中川 サッカー人気が陰りを見せているといった声も聞かれます。吉田選手は「もう少し選手の露出を増やして、人気を取り戻さなければ」といったコメントも残しています。

板倉 麻也くんの言うとおりだと思います。僕らが小さい頃は、スタジアムに行けずとも日本代表の試合は欠かさず見てましたし、常に憧れの存在でした。かつての僕らがそうであったように、これからの未来を背負う子供たちを含め、日本サッカーにもっとたくさんの人の目を向けてもらえるよう日々頑張りたいです。

中川 最後に、今後の目標についてお聞かせください。

板倉 今までがそうであったように、移籍先ではまず信頼を得て、スタメンを勝ち取る。毎試合、集中する。それを続けていけば、道が開けるわけです。当たり前のことですが、継続するのが本当に難しい。でも、自分の努力次第でどうにでもできるのがサッカー選手です。新天地でもブレることなく、前に進んでいきたいです。

●板倉 滉(いたくら・こう)
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。川崎フロンターレで育ち、ベガルタ仙台を経て2019年1月、マンチェスター・シティに移籍。その後、レンタルでオランダ1部FCフローニンゲンへ。爆発的な成長を遂げ、20-21年シーズンにはクラブの年間最優秀選手に選出される。21年-22年シーズンからは独2部のシャルケ04でプレー、1部昇格の原動力に。今夏ブンデスリーガ、ボルシアMGに移籍。DFだけでなく、中盤もこなせる逸材だ

●中川絵美里(なかがわ・えみり)
1995年3月17日生まれ、静岡県出身。フリーキャスター。昨年まで『Jリーグタイム』(NHK BS1)のキャスターを務めたほか、TOKYO FM『THE TRAD』の毎週水、木曜のアシスタント、同『DIG GIG TOKYO!』(毎週木曜27:30~)のパーソナリティを担当。テレビ東京『ゴルフのキズナ』(毎週日曜10:30~)に出演中

ヘア&メイク/川上優香(中川) 衣装協力/HIMIKO 競技写真/7044sueishi/アフロ 写真提供/SeeK

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