Jリーグの歴史をつくってきた名門クラブが踏ん張りどころを迎えていると語るセルジオ越後氏

Jリーグの歴史をつくってきた名門クラブが踏ん張りどころを迎えているね。

鹿島が8月7日、レネ・ヴァイラー監督との契約を解除し、翌8日に岩政コーチの新監督就任を発表した。今季からチームを率いていたヴァイラー監督はスイス人。鹿島といえば、ジーコの存在に象徴されるように、Jリーグ誕生以降、監督も助っ人もブラジル路線を貫き、多くのタイトルを獲得してきた。一般的にも鹿島=ブラジルのイメージが浸透している。

そんなクラブのアイデンティティともいえる路線を転換してのヴァイラー監督招聘(しょうへい)だっただけに、どういうシーズンになるのか、どんなサッカーになるのかと注目していたけど、こんなにも早く解任されるとは驚いた。

成績不振といっても、解任時点でリーグ5位。リーグ優勝は難しくても、アジアチャンピオンズリーグ出場圏内(3位以上)は狙えるし、天皇杯も勝ち残っている。今の鹿島の選手層を考えれば、そこまでひどくない。 

また、新型コロナウイルスの影響で来日が遅れ、開幕前の補強も不十分、さらに7月にチーム得点王の上田がベルギーへ移籍するなど、ヴァイラー監督に同情する事情もあった。

それにもかかわらず、フロントが今回の決断に至ったということは、成績以外の部分、つまり監督と選手やスタッフとの関係がうまくいっていなかったと考えるのが自然だ。実際、ブラジル人選手たちが不満を持っているらしいと僕も人づてに聞いていた。

また、監督が辞めるのに岩政コーチが監督に昇格するのもおかしい。普通はコーチも責任を取って辞めるよね。聞くところによると、ヴァイラー監督には母国語(ドイツ語)ではない英語の通訳がついていたそうだ。それも含めて意思の疎通がうまくできていなかったんじゃないかな。

もちろん、チームがうまくいっていない以上、体制を変えるのは悪いことではない。最終的にサポーターが納得する結果を出せればいいわけだし、そうならなかったらフロントが責任を取ればいいだけ。シンプルな話だ。

ただ、それにしてもブラジル路線を一大転換した割には、その準備がしっかりできていなかったのかなという印象だ。名門らしくないね。

昔ほど潤沢な予算はないし、マーケットの規模的にも地方クラブの難しさがある。今季の戦いぶりを見ても選手層の薄さはやっぱり気になる。

特にFW鈴木の負担が大きすぎるね。彼はベルギーから復帰した今季、「チームを優勝させる」と宣言したとおりに素晴らしいプレーを見せている。

運動量が多く、攻撃だけでなく守備も手を抜かない。サイドに出てチャンスメイクをしながら、自らもゴールを決める。チームを仕切って、負けている試合でも最後まで諦めない。強気な性格も含めて、かつての小笠原(満男。2018年シーズンで引退)の姿が重なって見える。

ただ、その彼に点を取る仕事に専念させてあげられないのが、チームの苦しい事情を物語っている。今後、もし故障でもしたらと考えると恐ろしいよ。

そうした状況で、タイトルから長く遠ざかっているチームをどう立て直すのか。"鹿島らしさ"をどう保つのか。鹿島はサポーターも情熱的だ。リーグ全体の盛り上がりという意味でも頑張ってほしいチームだし、どう変わっていくのか引き続き注目したい。

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