スター共存の難しさについて語った宮澤ミシェルスター共存の難しさについて語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第269回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、パリ・サンジェルマンについて。攻撃陣にスーパースターを3人もそろえるパリ・サンジェルマンだが、やはりその共存は難しいものだと宮澤ミシェルは語る。

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パリ・サンジェルマンはシーズンが開幕しても相変わらず賑やかだよな。

メッシがいて、ネイマールがいて、そしてエムバペがいる。自己主張の強いスーパースターが3人もいる攻撃ユニットだから、話題性には事欠かないからね。メディアもニュースに取り上げやすいってのがあるんだろうな。

少し前にエムバペが試合中にメッシとぶつかったのに目もくれなかったのが話題になっていたじゃない? あれなんて無理くり火種を探しているように見えちゃうもんな(笑)

エムバペに限らず試合中に味方とぶつかって気づかないことなんていくらもあるよ。どうやれば得点シーンにつながるかを集中して考えていたら、軽くぶつかったくらいのことは気にもとめないもんだよ。それを味方にいちいち謝るのかってのもあるし、そんなことは試合が終わったあとにロッカールームで言えばいいことだからね。

PKをめぐってネイマールとエムバペが揉めたシーンも、そもそもチーム内にあるPKキッカーの序列を守らなきゃいけないよな。でも、ときにPKやFKをどうしても蹴りたいってときもあるからね。本田圭佑が若手だった頃に日本代表でFKを譲らずに蹴ったことがあったじゃない? あれと一緒だよな。

でも、PSGだとそういうことさえネガティブイメージの話題になる。やっぱりエムバペが破格の契約金でチームに残留したことで、チーム内のサラリーのヒエラルキーが一変しちゃったことが大きいとは思うよな。はた目から見ている人間が嫉妬ややっかみを交えて、おもしろおかしく伝えたものが世界に広がっていく。怖い時代だよ。

ただ、スーパースターが3人も揃えば問題が出るのがサッカーなんだよ。野球はチームスポーツという点ではサッカーと同じだけれど、個人商店の集まりみたいな感じでしょ。だから、あっちの店もこっちの店も行列の店だとしても何の問題もない。

だけど、サッカーはそれだとチームが崩壊しちゃう。だから、ほとんどのチームは、ゴールを奪う選手がいて、それを支える選手がいるわけだよ。それなのにPSGにはゴールを奪う仕事で実績を積み上げてきた選手が3人もいる。そこの仕事についてはそれぞれがプライドを持っているから、ぶつかったとしても仕方がないんだよな。

スーパースター3人に前線を組ませて成功したチームは、後にも先にもバルセロナだけなんじゃないか? 2013-2014シーズンにネイマールがバルサに加わったけどタイトルが獲れなくて、翌シーズンはルイス・スアレスをリヴァプールから獲得した。

メッシとネイマールの共存ですら危ういのに、そこにスアレスだからね。多くの人が成功するわけがないと思ったもんだよな。でも、蓋をあけてみたら、最前に背番号9番のスアレス、10番のメッシ、11番のネイマールをシンプルに並べて、リーグ戦は3人合わせて81ゴール! MSNでラ・リーガ、UEFAチャンピオンズリーグ、コパ・デル・レイといった主要タイトルを独占したんだよな。

MSNが成功した背景は3選手とも南米出身ってのがあったし、スアレスの存在が効いていたよね。メッシという王様をリスペクトしていたし、ネイマールのわがままをコントロールしていたもの。

でも、メッシとネイマールとエムバペだと、メッシは我関せずに自分のプレーを突き詰めたいタイプだし、ネイマールはプライドが高いし、まだ年齢的にエムバペを許容できないように映るよな。そういうなかでエムバペが名実ともに王様になるには、やっぱり結果だよな。ゴールを決めてチームを勝利に導き続けるしかないわけよ。

リーグアンでは5試合を終えて7得点はネイマールと並んでトップ。UEFAチャンピオンズリーグではグループリーグ初戦で2得点。この成績をシーズン終了まで続けられたときに初めて、エムバペが世界最高のサッカー選手という評価を手に入れるんだと思うよ。そうなったらPSGのゴタゴタは消えちゃうから、いまのうちは思いも寄らない角度から飛び出てくるPSGの話題を楽しんでおきたいね(笑)

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