練習から一切妥協せず、常に100パーセントで。2014年W杯ブラジル大会で果たせなかった夢を8年ぶりで果たそうとする日本の守護神・権田修一(サッカー日本代表GK/清水エスパルス)選手がサッカー王国・清水に、そして森保ジャパンに望むこととは――? スポーツキャスター・中川絵美里が聞いた。

■サッカー王国ゆえの静岡の"弱点"

中川 まずお聞きしたいのは所属先の清水エスパルスについてです。6月上旬にゼ リカルド監督が就任して以降のチームの調子は、権田選手から見ていかがでしょうか?

権田 ご存じのとおり、現状の順位(取材時点でリーグ17位)からすると決していいシーズンとは言いがたいです。僕は昨季清水に加入しましたけど、入りたての頃は選手が半分くらい入れ替わったところで、お互いが様子見というか手探り状態でプレーしている印象がありました。

ただ、ここ最近は選手ひとりひとりの「このままじゃダメだ。もっと変わらないと」という気持ちがどんどん前面に出ているように思えるんです。サッカーのうまいへたじゃなくて、根本として人間的に成長しているような気がするんですよね。

降格圏にいるくせに何を悠長なことを言ってるんだと怒られるかもしれないけど、少しずつ力がついてきていると感じています。

中川 それは、ゼ リカルド監督の指導も影響していますか?

権田 ええ。監督は、選手に自信を持たせることを大事にしていますね。今はこの順位だけれど、自分たちがやっていることは間違ってない、素晴らしいんだ、だからこのまま続けていこう、と。選手に自信を与えてくれる監督なので、ここから徐々に上がっていけるんじゃないかと思っています。

中川 変化を求めるようなチーム内の空気というのは、ごく最近になって生じたんですか? それとも去年からそういう予兆は少しずつでもあったのでしょうか?

権田 これはそもそも論なんですけど、静岡って、サッカーに関してはやっぱり特殊な土地柄だと思うんですよ。僕、清水へやって来たとき、つくづくそれを実感しました。で、実はエスパルスが伸び悩む原因って、そこにあるんじゃないかと。中川さんはここ清水出身だから、ピンとこないかもしれませんが......。

中川 その"特殊性"とはどういう点でしょうか?

権田 エスパルスがあるのが当たり前、J1にいるのが当たり前、テレビをつければサッカー放映が当たり前、スタジアムはお客さんでいっぱいが当たり前、応援されるのが当たり前、飲食店に行けばチヤホヤされるのが当たり前。なんかこう、あまりにも恵まれすぎというか。その分、選手のハングリーさが欠如しているんじゃないかと感じたんです。

中川 サッカー王国という土地柄が、"ぬるま湯"のような状況をつくり出してしまったというわけですか。

権田 だって中川さん、上京されてみて、サッカーのニュースが少なすぎて驚きませんでした?

中川 びっくりしました(笑)。今まで静岡では当たり前だと思っていたのが、実は特殊な環境だったということに気づきましたね。

権田 エスパルスでは番記者の方々も、いつも最低6人はいて。サポーターの目も非常に肥えています。それと静岡って、住み心地がいい所なんです。だから、少年サッカーをやっているうちの息子の友達や、そのご家族を見ても、何代にもわたって静岡県民という人が多い印象があります。

そのためにサッカーもしっかり地域に根づいている。生まれたときからサッカーがそこにある。なので、ユース出身者は確かに上手なんですよ。言われたこともきちんとできるし。

でも、何もかも条件がそろっているがゆえにハングリーさがいまひとつな気がして。やはり強くなるためにはもう一段、熱を上げていかないとダメだと思うんです。そこがたくましくなったら、さらに伸びる若手選手はエスパルスにたくさんいます。

中川 では、権田選手もチームメイトたちにはハッパをかけている感じですか?

権田 言うべきことは言いますね。やっぱり、チームがこの状況ですから。ただ、本当にチームの雰囲気が変わりつつあるんですよ。そこに期待したいです。

中川 今年は開幕当初、故障者が続出したこともあり、スタートから苦難の連続でした。前半戦、チームが噛(か)み合わなかったのは、ちょうど変革の途中だったという解釈でよろしいんでしょうか?

権田 まったくそのとおりだと思います。変化しようとする時期は、なかなかスムーズにはいかないものです。なぜかというと、去年に比べて選手みんなが積極的に意見を出すようになっているから。

自分から発信するということはそれだけ責任が生じるし、時に衝突も免れない。以前は、試合が終わっても「はい、お疲れ」ってあっさりしていたのに、今は議論を戦わせる日も多い。

例えば、6月26日のセレッソ大阪戦は、失点を1で抑えられて1-1の引き分けでしたけど、被シュート数は17。これをどう改善すべきか、かなりみんなで話し込みましたね。いい流れができているんじゃないかと思います。

中川 ここからは、ひたすら上がるだけですね。

権田 ええ。着実に手応えは感じています。僕としては加入した以上、その先もずっと落ちないチームにしたいんです。契約満了です、僕いなくなりました、クラブは降格しました、というのは絶対にいやなんです。

■最終予選の3日間は生きた心地がしなかった

中川 日本代表の話に移ります。W杯カタール大会まであと数ヵ月と迫っていますが、今の心境をお聞かせください。

権田 6月のテストマッチではブラジル戦に出させてもらいましたけど、ああいった強豪国に勝つには普段から自分自身をもっと高めないとダメだなとあらためて感じました。やはりクラブと違って、代表チームというのはメンバーが集まれる時間に限りがあります。

代表招集期間で得た課題を普段の日常に持ち帰って、どれだけ錬磨、レベルアップした上で再び代表に戻れるか。もちろん所属クラブの勝利を念頭に置きつつ、僕の中では常に(W杯で対戦する)ドイツやスペインに勝つには何が必要なのかを日々考えています。

中川 毎日の練習に加えて、絶えずイメージトレーニングも行なっているわけですね。

権田 はい。Jリーグである程度結果を残せたとしても、自分の基準はそこで満足するということはないんです。テストマッチといえども、ブラジルはやっぱり強かった。じゃ、これがW杯本番だったらどうなっていたのか。どうやったら勝てるのか、常にそれを考えています。

中川 日々、具体的にはどんな取り組みをされていますか? 

権田 相当なプレッシャーのなかで自分がどう落ち着けるのか、またどうしてもチームとして落ち着くことのできない時間帯を、最後尾で構える自分がどうやって落ち着かせるのか、自信を与えられるのか。とにもかくにも、まずは「冷静さ」を培(つちか)うことですね。

中川 個人としてもチームとしても、落ち着いてプレーすることはやはり大事ですよね。

権田 ええ、それにゴールキーパー(GK)というのは、ビルドアップにどう貢献するか、など大切なことはいろいろありますけど、結局のところはすべて「止める」しかないんです。何周回っても、行き着くところはそこなんですよ。

ブラジル戦も、失点はPKによるものでしたけど、PKはGKにとって不利だとされていようが止めるしかない。本番のドイツ戦で、ブラジル戦のようにPKを決められてしまったら負けるわけですよ。いくら健闘しましたといっても、0-1という結果は負けなので。

ゴールシーンというのは点を取った選手にとっては誇らしいけど、僕らGKにとっては失敗の場面なんです。テレビで何度も繰り返されるシーンを見ながら、僕ならどう止めるかを考える。

この程度だったら、マヌエル・ノイアー(ドイツ代表の正GK)は余裕で止められるだろう、だったら自分も止められるようにしなければ......と失敗を課題にすることで、さらなるレベルアップが見えてくるんじゃないかと。

6月のブラジル戦では好セーブを連発し、後半半ばまで失点を許さなかった。「日本代表の世界ナンバーワンといってもいいぐらいの強みが、結束力の固さ。控え含め、メンバー26人全員が一丸となったら、サプライズを起こせるはずです」(権田) 写真/日刊スポーツ/アフロ

中川 昨年9月のホームでのオマーン戦(0-1)の敗北をはじめ、序盤は苦戦が続いたW杯アジア最終予選を突破しただけに、権田選手の言葉は説得力がありますね。

権田 2敗目がアウェーのサウジアラビア戦で、0-1(21年10月7日・現地時間)。その4日後にホームのオーストラリア戦があって。その間の3日間は生きた心地がしなかったです。あそこまで追いつめられた経験は、あまり記憶にないですね。

中川 そこまで権田選手はじめ、代表の選手たちは追い込まれていたわけですか。

権田 人間って、極限状態になるとこうなるんだって。普通なら、日々生きているなかでいろいろ考えが浮かぶじゃないですか。今度の休み、どうしようかなとか。誰それと打ち合わせしなきゃとか。そういう考えが一切起こらないんです。サッカー以外何も考えられない。

それに、普段なら試合が近づいてくるとだんだんと高揚するんですけど、その3日間はカウントダウンでしかなかった。「まだ3日ある」ではなく、「あと3日しかない」という状態です。

中川 故障者も非常に多かったですしね。

権田 そう。毎試合、誰かしらケガで欠いていて。チームの支柱であるCB(センターバック)の(吉田)麻也がいないとか、FWの大迫勇也やSBの酒井宏樹がいないとか。今年の1月27日の中国戦なんて、CBの谷口彰悟と板倉滉(こう)の組み合わせの練習が2日間のみで、あとは本番でしたからね。

でも、メンバーが当たり前のように全員そろっているのではなく、ギリギリまで追い込まれていた状況だったからこそ、皆、研ぎ澄まされたんでしょう。だから、なんとか本大会出場を決められたんだと思います。

■6月の"三笘発言"と、森保ジャパンの戦術

中川 代表メンバーのお話が出たので、森保ジャパンの選手たちについて聞かせてください。

権田 僕は清水エスパルスに所属しているので、そことの比較になりますが、今の日本代表は自立している選手が本当に多いです。自分がどういう役割を担うべきか、チームのためにどうすべきか、よくわかっている。さらに、海外でさまざまな国の選手とプレーしてもまれている分、みんないい意味で我(が)が強いですね。

中川 では、ベテランの権田選手が率先して牽引(けんいん)するというわけではないのですか?

権田 ええ、僕はポジションの性質上、一歩引いて選手たちを観察する感じですね。で、元気がない選手を見かけると、さらっと声をかけるぐらいです。

最年長の、GKの(川島)永嗣(えいじ)さんは誰よりも練習して、黙って背中で努力を見せるタイプだし、DFの長友(佑都)さんは明るく盛り上げて、主将の麻也は締めるところは締めるみたいな。そんな感じですね。

中川 となると、おのおのの自立心が非常に高いのが森保ジャパンの特徴ということになりますかね。

権田 そうですね......中川さんは、海外に住んだことはありますか?

中川 いえ、ないです。

権田 僕の場合、海外に住むことを「外国で税金を納める」と表現するんですが、その国に行って助っ人として仕事をもらい、税金を納めるとなると大きな責任が生じます。この責任が、すごく人として成長させてくれる。

僕が最初に代表に入った2010年頃は、国内組と海外組がほぼ半々だったんです。でも、今は海外組が大半を占めている。みんな大きなものを背負っているから、練習の段階から激しいし、前に出る姿勢が強いんですよ。

中川 変に遠慮するということがないわけですね。それで思い出したのが、6月14日のチュニジア戦(0-3)の敗戦後、三笘(みとま)薫選手が「チームとしてどう攻めていくのか、もう少し決まり事があったほうがいい」とコメントを残したこと。

この差し迫った時期でも主張すべきことをはっきりと主張したことがとても印象的でした。この発言については、権田選手はどう思われましたか?

権田 ええ、まさに主張がしっかりしているわけだから、僕はいいことだと思います。三笘選手も責任を背負ってそういう発言をしたわけだから。変に陰でコソコソ言って、責任を負わないほうがダメですよ。

中川 GKとして最後尾から見て、森保ジャパンの戦術についてはどう思われますか?

権田 6月のテストマッチ4戦を通じて思ったのは、守るために守ってしまったら、難しいなと。逆に攻めるために攻めたら、チュニジア戦のようにカウンターを食らう場面が多くなっちゃうなと。

攻めているときはリスク管理しながら、なおかつ連動性をもって臨むのがいいと思います。事実、アジア最終予選はそれで勝ち抜けました。さっき話が出た三笘選手だって、あれだけ抜いていける選手はそういないし、切り札としてはベスト。

彼がマークされたとしても、その分、相手を何人も引きつけられるわけだから、ほかの選手が上がっていける。前線に能力が高い選手はそろっていますからね。攻撃のバリエーションはいくらでもつけられるでしょう。

ブラジル戦、チュニジア戦ともに枠内シュート0で大丈夫か、と不安視する声がけっこうありましたけど、逆にパラグアイ戦やガーナ戦はどうでしたか?と問いたいです(共にスコアは4-1で日本の勝利)。僕らは外の声にいちいち一喜一憂せず、前に進むのが大事だと思っています。

■W杯への準備は「していない」

中川 W杯というと、権田選手は14年ブラジル大会はメンバー入りするも試合出場はならず、9年越しで初出場を目指すことになります。あらためて夢の舞台への思いをお聞かせください。

権田 無事に出場できたとして、グループリーグのドイツとスペイン、コスタリカには、それぞれノイアーとウナイ・シモン、ケイロル・ナバスという世界的なGKがいます。4人を並べたら正直、「ゴンダって誰?」っていう話ですよ。

でも日本が予選を突破したら――当たり前ですけど、僕はそんな彼ら3人のうちふたりを差し置いて上に行けるわけです。その可能性があるというのはものすごいモチベーションになります。

中川 実現できたとしたら、快挙ですよね。

権田 W杯は「お祭り」です。8年前のブラジル大会の初戦、コートジボワール戦では、向こうのエースだったドログバが途中で出てきたときに会場の空気が一変して。それだけ現地のブラジル人観客はドログバに注目していました。

あのときと同じようにカタール大会では、グループリーグの日本の試合に来る現地の観客は、ほとんどがドイツやスペイン見たさに訪れる人たちでしょう。でも、そんななかで彼らに勝ったら大騒ぎですよ。日本サッカーはマジで盛り上がると思います。今から楽しみで仕方がないです。

中川 W杯本大会に向けて、残り少ない時間でどのような準備をしていくのか教えてください。

権田 僕のスタンスとしては、W杯への準備というのは「していない」です。なぜか。目の前にあることを常に100パーセント全力で当たることこそ、目標達成への近道だと思っているからです。

例えば、明日Jリーグの最終戦、その次にW杯グループリーグ初戦だとして、前者に80パーセントで臨み、残り20パーセントはセーブしておくようなことは絶対にしたくない。

そんなことをしたら、逆にW杯で力をフルに出せなくなるものなんです。なので、練習の時点からすべてを出したい。今日の100パーセントが明日の100パーセントにつながるという思いでいます。

中川 普段の練習から、妥協は一切しないと。

権田 そうです。僕が思うに、ゴールキーパーって、すべてのポジションの中で一番なんでもできなければダメなんです。最もアスリートでなければならない。誰よりも心体ともに強くて、誰よりも技術があって。

もっと欲を言えば、どんなシュートもすべて止められる。さすがにそれは映画の『少林サッカー』みたいで困難でしょうが(笑)、とにかく、コミュニケーションも戦術眼もすべて秀でているのが理想です。だから、少しでもそこに近づけるよう、日々練習するしかない。

中川 なおもハングリーでいたいわけですね。

権田 もちろんです。だから、笑う人もいるかもしれないけど、W杯と並んでUEFAチャンピオンズリーグに出場するということも、今も目標にし続けています。ここからW杯本番までにどのくらい成長できているかわからないですけど、とにかくサッカーに対して熱量を持って、一日一日を大切にしていきたいです。

●権田修一(ごんだ・しゅういち)
1989年3月3日生まれ、東京都出身。2007年、FC東京U-18からトップチーム入り。16年、SVホルン(オーストリア2部)へ期限付き移籍。サガン鳥栖を経て19年1月よりポルティモネンセ(ポルトガル1部)へ。20年12月より清水エスパルスへ期限付き移籍し、21年はJ1で全38試合出場、チームの1部残留に貢献。完全移籍を果たした今は、日本代表でのキャップ数も32を数える

●中川絵美里(なかがわ・えみり)
1995年3月17日生まれ、静岡県出身。フリーキャスター。昨年まで『Jリーグタイム』(NHK BS1)のキャスターを務めたほか、TOKYO FM『THE TRAD』の毎週水、木曜のアシスタント、同『DIG GIG TOKYO!』(毎週木曜27:30~)のパーソナリティを担当。テレビ東京『ゴルフのキズナ』(毎週日曜10:30~)に出演中

スタイリング/武久真理江(中川) ヘア&メイク/小嶋絵美(中川) 衣装協力/AKIKO OGAWA.

★不定期連載『中川絵美里のCheer UP』記事一覧★