アルビレックス新潟について語った宮澤ミシェルアルビレックス新潟について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第271回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、アルビレックス新潟について。見事にJ2で優勝を果たしJ1への昇格を決めた新潟。宮澤ミシェルはここまでの道のりは「本当に長かった」と語る。

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ヴァンフォーレ甲府が天皇杯決勝で、サンフレッチェ広島を破っちゃうとは驚いたね。勝負に絶対はないから、J2の甲府にも勝機はあるとは言え、彼らが勝つにはあの方法しかなかったよな。PK戦の末にそれを現実のものにしちゃうんだから、立派だった。

広島も最後の最後で、天皇杯を逃した悔しさは大きいと思う。でも、今週末にはセレッソ大阪と戦うルヴァンカップ決勝戦があるからね。リーグ戦で3位につけていて、天皇杯は準優勝。躍動したシーズンの締めくくりとして、ルヴァンカップはなんとしても手にしてもらいたいよな。

それにしてもJ2リーグ戦18位のチームが、天皇杯ではコンサドーレ札幌、サガン鳥栖、アビスパ福岡、鹿島アントラーズ、そして広島を撃破。Jリーグは上位から下位まで力の差があまりないリーグだと言われているけれど、J2のチームがJ1勢を立て続けに食っちゃうってのは、やっぱりトーナメント戦ならではの醍醐味だよ。

その甲府が苦戦したJ2リーグも、この週末に自動昇格の2チームが決まったんだよ。優勝はアルビレックス新潟で、2位が横浜FC。横浜FCは1シーズンでJ1返り咲きを決めたけど、新潟にとっては長くて遠い道のりだったよ。いやぁ、本当に長かったね。

私が新潟ローカルのテレビ番組でサッカーコーナーを担当するようになって、もう十数年が経つんだよ。2017年シーズンに降格になって、翌年からJ2を戦ってきたけど、ここまで本当に苦労したよ。私の古巣、ジェフユナイテッド千葉と同じように、二度とJ1に戻れないのでは、と思ったシーズンもあったからね。

その流れが変わったのは、今季からFC東京の監督になったアルベルト・プッチ・オルトネダを、2020年に招聘してからだったね。ボールポゼッションを高めるサッカーで主導権を握れるようになって、昨年はJ2で6位。「さあ今年こそ!」と期待が膨らんだら、監督はJ1に引き抜かれちゃった。

それを引き継いだのが、松橋力蔵監督。彼は私と学年で5つ違うから重なったことはないんだけど、高校の直系後輩。その松橋監督になって、どんなサッカーに変わるかなと注目していたら、彼が選択したのはアルベルト監督の築いたものを煮詰める方法だったよね。ボールを保持して繋いでいく。そこにプラスして、チャレンジのボールをタテに差し込む。保持することが目的ではなく、得点を決めるためにチャレンジすることを大切にしたのがよかったと思うね。

それと、メンバーを固定せずに戦い抜けたことも大きかったよ。攻撃的なポジションでなら珍しくないけれど、新潟の場合はDFラインも3パターンくらい使い分けたんだよ。この狙いは松橋監督が言うには「瓢箪から駒」。コロナ対策で複数の組み合わせを用意しておいたら、それぞれが結果を残したから継続したそうなんだ。でも、理に適っていたよな。J2はJ1よりも試合数が多くて、W杯で日程面が凝縮されていたなかでも、いいコンディションの選手を起用できた。だからこそ安定してシーズンを戦い抜けたよね。

今季の新潟をよく表しているデータがあるんだよ。それが個人得点ランキング。今季のJ2の得点王最右翼は横浜FCの小川航基で24点(10/16時点)で、そこから10位以内のリストを見ていくと、新潟の選手はひとりも入ってこないんだよ。

新潟は9ゴールで高木善朗、伊藤涼太郎、谷口海斗が並んでいて、鈴木孝司が8得点。高木も鈴木も故障がなければ、点数はもっと伸びていた可能性はあるんだけど、誰かひとりに依存してゴールを決めたわけではなかった。だからこそ、チーム全体でJ2最多となるゴールを決められたんだよね。

この点についてはまったく予想外だったよね。シーズン開幕前に「新潟躍進のために必要なことは?」と聞かれたときは、「20ゴール獲れる外国人選手」って答えたくらいだからさ。ただ、「じゃあ来季は?」ってなったら、やっぱり「20得点できるFW」が必要だよって答えるけどね(笑)。

やっぱり、J1で戦っていくためにはセンターラインのところは重要だからね。柱を前線にドンと立てたいよな。あとは若い選手を引き抜かれないこと(笑)。伊藤涼太郎や松田詠太郎、小見洋太などの攻撃的MFや、ボランチの高宇洋などの今シーズンの躍動を支えた若い選手たちが引き抜かれちゃうと、今季やったサッカーがJ1では継続できなっちゃうからね。

それと、高木や鈴木が来季もしっかりピッチに立つことだよな。特に高木は、9月に右膝十字靭帯損傷で手術を受けて、復活は来夏くらいになりそうだけど、前半戦は間違いなく高木がいたからチームが躍動した部分があった。復帰予定の来夏はJ1残留争いに向けて戦っている可能性は高いから、それまでにしっかり治して戻ってきてほしいよな。

たださ、J2の戦いはまだ終わったわけではないからね。今週末のJ2最終節では、J1参入プレーオフを戦う4チームが決まる。すでにファジアーノ岡山、ロアッソ熊本、大分トリニータの進出は決まっていて、残り1枠を徳島ヴォルテス、ベガルタ仙台、モンテディオ山形で争っている。最終節でどのチームが10月30日から始まるJ1参入プレーオフに滑り込んでくるのか。カタールワールドカップのメンバー発表後は、どうしてもそっちに目は行っちゃうんだろうけど、J2の戦いもスゲー熱いことになってるから、しっかり見届けてくださいね!

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