サッカー日本代表を率いる森保一監督サッカー日本代表を率いる森保一監督
偉ぶったところはなく、誰に対しても誠実。人柄は最高らしい。が、大事なのは監督としての手腕。W杯アジア最終予選でも大苦戦するなど、どこか頼りない印象が強い森保監督だけど、期待していいの?

■一貫した現実主義者

サッカーの祭典、カタールW杯が開幕した。

なのに、われらが日本代表に対する世間の期待はイマイチ!? その理由のひとつは監督の存在だろう。多くの人が、森保一監督の采配に不安や諦めに近い感情を抱いている。

4年前の就任当初こそ強化は順調に見えたが、柔軟性を欠く采配や、代表でもクラブでも結果を残していない特定の選手を招集、起用し続ける頑固さを見せ、W杯アジア最終予選では一時、敗退危機にまで追い詰められた。

また、「W杯ベスト8」を目標に掲げながらも、記者会見やインタビューでは無難な発言に終始。地味なキャラクターも相まって、夢を託すにはどうにも頼りなく感じられるのだ。

でも、ちょっと待て! 本当に〝ポイチ〟はダメ監督なのか? われわれが素人なだけで、実はW杯ベスト8というまだ見ぬ風景を見せてくれる手腕の持ち主なのだったりしないのか? ということで、森保監督の手腕についてあらためて検証したい。

数ある森保批判の中で真っ先に挙げられるのが、守備的なサッカースタイル。だが、それこそが彼ならではのストロングポイントでもある。サッカージャーナリストの小宮良之氏が言う。

「『いい守りがいい攻めにつながる』が、彼の基本的な考え方。その守備組織を構築する能力では、日本人指揮官の中で屈指の存在です」

Jリーグで広島を率いていた頃(2012~17年)の実績が何よりの証明だ。前任のペトロビッチ監督が植えつけた超攻撃的なサッカーを土台に、守備面を整備してバランスの取れたチームをつくり上げ、在任6シーズン中、実に3度のリーグ制覇を成し遂げている。

「代表監督となってからも、現実主義者であることは一貫しています。W杯のグループリーグでドイツ、スペインが同組となることが決まった時点で、力量差を考えれば彼ら相手に日本がボールを保持してコンビネーションで攻め続けるようなサッカーは絶対できない、と覚悟を決めているはず」

確かに、W杯登録メンバーには、前線に敵を追い回せる運動量のあるFWを、そして中盤から後ろには経験があってタフなディフェンスができる選手を多く選んでいる。

「守りを強固にして相手のミスを誘い、カウンター一発で仕留める。それが勝つ確率の一番高い戦い方だと。強豪ぞろいのグループに入った日本が決勝トーナメントへ進むための、ひとつの正解であることは間違いありません。ただ、個人的には、そんな意外性や創造性を感じさせないサッカーは好みではないのですが......(苦笑)」

とはいえ、まず守備から入って手数をかけずにゴールへ迫るスタイルは、現代サッカーのスタンダードのひとつ。

「そう。魅力がないと言われようが、彼は自分が選択した戦い方を信じて貫くことができるんです。メンバーの人選にしても、偏っているとこき下ろされようが、これと見込んだプレーヤーを選び続けている。オセロじゃないですけど、結果さえ出してしまえば一気にすべてが称賛に変わります。森保監督が信じるサッカーを遂行できるだけの人材はそろっているので、やり切ってほしいです」

■あの名将との共通点も!

サッカージャーナリストの西部謙司氏は、森保監督が持つ頑固さ以外のパーソナリティにも注目している。

「ブレない、動じないというのは彼の特徴的な資質のひとつではありますが、実は自分の中で腑(ふ)に落ちたときには、ここぞというところで前例をがらりと変えられる大胆さもあるんです」

オマーンとサウジアラビアに敗れて崖っぷち状態で迎えた、ホームでのW杯アジア最終予選オーストラリア戦がそうだった。従来の4-2-3-1の布陣を4-3-3へと変更し、柴崎を外して遠藤、守田、田中の3人で構成した中盤が大当たり。グループ内で最大のライバルと目されていたオーストラリアに競り勝ち、その勢いに乗ってW杯出場権を獲得したのである。

「そして、メンタルは強いけれど、高圧的なところや『俺が俺が』という自己顕示欲はまったくない。選手から見れば、やりやすいタイプだと思います」

発言が地味なのも、監督として決して致命的な欠陥ではない。

「世間で思われてるほど何も考えていないわけじゃなく、すごく常識をわきまえた人だと思うんですよ。サッカーの知識もあり、言ってることも間違ってない。ただ、退屈だっていうだけで(笑)。でも、プロって勝つためにやってるわけだから、話の気が利いているかどうかなんて関係ない。いかにも勝負の世界でずっと生きてきた人の言動ではありますよね」

そうした森保監督の佇(たたず)まいや境遇は、意外にもある名将を想起させるという。1998年フランスW杯でフランスが初優勝したときの監督、エメ・ジャケである。

「彼も大会前まで、選手選考やチームづくりの方針についてメディアやファンなどから猛批判を浴びていました。フランス最大のスポーツ紙『レキップ』は〝反ジャケ〟キャンペーンを張っていたぐらいです」

ジャケはそれまで白人中心だったフランス代表に、ジダンら移民系の選手を数多く招集。また、W杯本番までフォーメーションや選手の組み合わせを固定せず、試合ごとに戦い方を変えていた。ようやくふたつのシステムに絞り込んだのは開幕直前。しかも、そのいずれもが従来のフランスらしからぬ守備重視型だった。

さらに会見などでの発言内容はといえば、

「私はフランスW杯前、サシで彼にインタビューをしたことがあるのですが、当たり前のことを力強く言うだけ。口調だって朴訥(ぼくとつ)で、全然話が面白くない(笑)。そういうところも、メディア受けが悪い一因でした」

だが、W杯が始まるや、ジャケ率いるフランスは快進撃を続けて栄冠をつかみ、アンチを黙らせた。

「周囲から何を言われようが自分の信念を貫き通すところも、いかにも現場叩き上げの実直な雰囲気も、思い返せば今の森保監督に重なる部分がありましたね」

ジャケにあやかり、世間をあっと驚かせてくれ、われらがポイチ監督!