12月13日、ポール・バトラー(英国)を11回KOで下し、WBA、IBF、WBCに続きWBO王座を獲得した井上尚弥。4団体統一は史上9人目でアジア人初、バンタム級史上初の快挙。4つの王座をひとつずつ、すべてKOで獲得したのも史上初だった12月13日、ポール・バトラー(英国)を11回KOで下し、WBA、IBF、WBCに続きWBO王座を獲得した井上尚弥。4団体統一は史上9人目でアジア人初、バンタム級史上初の快挙。4つの王座をひとつずつ、すべてKOで獲得したのも史上初だった

異次元の強さでバンタム級世界4団体王座統一を成し遂げ、「スーパーバンタム級への転向」を明言した"モンスター"井上尚弥(いのうえ・なおや)。4階級制覇を目指す新たな戦場ではどんな強豪が待ち受けているのか?

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■混沌たるスーパーバンタム戦線

判定決着の雰囲気が漂う11回。怒濤(どとう)のラッシュで倒しきったのが〝モンスター〟たるゆえんだ。12月13日、東京・有明アリーナ。井上尚弥(大橋)がバンタム級で初めて世界4団体の王座を統一した。

4年半前にジェイミー・マクドネル(英国)を1ラウンドで沈めて以降、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と高度な技術戦を繰り広げ、ノニト・ドネア(フィリピン)とは激闘を演じた。世界に衝撃を与え続けたバンタム級での闘いに終止符を打ち、1階級上げることを宣言した。

「スーパーバンタム級には強豪がひしめいている。トップ戦線に入っていきたい」

バンタム級王者として歴史に名を刻んだ井上は、通例ならスーパーバンタム級で世界ランク1位、もしくは上位にランクされる。スーパーフライ級、バンタム級へと転向したときと同じように、いきなり世界挑戦が可能だ。

新たな階級ではどんな猛者が待ち受けているのか。

WBC・WBO王者スティーブン・フルトン(米国)と、WBAスーパー・IBF王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)。ふたりの突出したチャンピオンが君臨し、4つのベルトを分け合う。共に無敗で、井上のひとつ下の28歳。年齢的にも脂が乗っている。

《WBC・WBO統一王者》スティーブン・フルトン(米国) 1994年生まれ。2021年1月にWBO世界スーパーバンタム級王座、同年11月にWBC同級王座を獲得。22年6月に王座を防衛したが、フェザー級転向を計画しており返上の可能性も。21勝(8KO)無敗《WBC・WBO統一王者》スティーブン・フルトン(米国) 1994年生まれ。2021年1月にWBO世界スーパーバンタム級王座、同年11月にWBC同級王座を獲得。22年6月に王座を防衛したが、フェザー級転向を計画しており返上の可能性も。21勝(8KO)無敗

しかし、両者共に先行きが読めない。井上との対戦が熱望されるフルトンは21戦全勝(8KO)。スピード、技術を兼ね備え、スタミナも文句なし。スーパーバンタム級で最も評価が高いボクサーといっていい。

だが、この階級では大柄な身長169㎝で、1階級上のフェザー級に転級する意向を示している。すでにWBCはフェザー級1位ブランドン・フィゲロア(米国)との暫定王座決定戦を承認。スーパーバンタム級での井上vsフルトンのビッグマッチ実現は微妙な状況になってきた。

《WBA・IBF統一王者》ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン) 1994年生まれ。2016年リオデジャネイロ五輪銅メダリスト。20年1月、WBA・IBF世界スーパーバンタム級統一王座を獲得。22年6月、3度目の防衛に成功した試合で左拳を骨折。11勝(8KO)無敗《WBA・IBF統一王者》ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン) 1994年生まれ。2016年リオデジャネイロ五輪銅メダリスト。20年1月、WBA・IBF世界スーパーバンタム級統一王座を獲得。22年6月、3度目の防衛に成功した試合で左拳を骨折。11勝(8KO)無敗

一方のアフマダリエフはリオデジャネイロ五輪銅メダリストで、プロ戦績は11戦全勝(8KO)。好戦的でパワーあふれるサウスポーだ。

6月にロニー・リオス(米国)との防衛戦で左拳を骨折し、現在は療養中。復帰後はIBF1位マーロン・タパレス(フィリピン)との指名試合が義務づけられており、こちらもすぐに井上戦とはいかないだろう。

上位ランカーに目を転じると、日本のファンにもなじみのあるボクサーが多い。

WBCは1位ルイス・ネリ(メキシコ)と2位アザト・ホバニシアン(アルメニア)の対戦を指令。フルトンがフェザー級に転向すれば、この試合がスーパーバンタム級の王座決定戦に昇格される可能性が高い。

《WBC1位》ルイス・ネリ(メキシコ) 1994年生まれ。2017年の山中慎介戦で禁止薬物が検出され、翌年の再戦では体重超過で王座剥奪。20年にスーパーバンタム級に転向しWBC王座獲得。翌年陥落した後、2連勝。33勝(25KO)1敗《WBC1位》ルイス・ネリ(メキシコ) 1994年生まれ。2017年の山中慎介戦で禁止薬物が検出され、翌年の再戦では体重超過で王座剥奪。20年にスーパーバンタム級に転向しWBC王座獲得。翌年陥落した後、2連勝。33勝(25KO)1敗

〝悪童〟の異名を持つネリは元WBCバンタム、スーパーバンタム級の2階級王者。荒々しいファイトとパワーを武器に、戦績は33勝(25KO)1敗。73.5%と高いKO率を誇る。だがそれ以前に、日本のファンには忘れられない苦い思い出がある。

2017年8月と18年3月、山中慎介と2度にわたり対戦し、ドーピング疑惑、体重超過と問題を繰り返した。日本ボクシングコミッション(JBC)は国内でのボクシング活動を永久に停止させるとしており、日本では試合が組めない。

井上vsネリは山中の敵討ちとなるが、いわば「禁断の闘い」。海外で激突となれば、注目を集めると同時に、抵抗感を抱くファンも多いだろう。

《WBC2位》アザト・ホバニシアン(アルメニア) 1988年生まれ。2018年5月、WBCスーパーバンタム級王座への挑戦では判定負けを喫したが、上位にランクされ続けている。22年9月には米ロサンゼルスで井上とスパーリング。21勝(17KO)3敗《WBC2位》アザト・ホバニシアン(アルメニア) 1988年生まれ。2018年5月、WBCスーパーバンタム級王座への挑戦では判定負けを喫したが、上位にランクされ続けている。22年9月には米ロサンゼルスで井上とスパーリング。21勝(17KO)3敗

ネリと対戦予定のホバニシアンは、井上が9月に米ロサンゼルスでスパーリング合宿を行なった際に手合わせをした。

井上よりひと回り大きく、34歳の試合巧者はパンチ力も抜群。戦績は21勝(17KO)3敗ながら、ここ8年で負けたのはレイ・バルガス(メキシコ)に挑んだWBCスーパーバンタム級タイトルマッチのみ。長らくこの階級で上位にランクされ続ける実力者だ。

王者アフマダリエフの復帰後、挑戦するタパレスは元WBOバンタム級王者で、大森将平、岩佐亮佑、勅使河原弘晶の日本人ボクサーと対戦経験がある。

元WBOバンタム級王者のジョンリール・カシメロ(フィリピン)も階級を上げ、ベルトを狙う。かつて、井上への挑発を繰り返し、実現すれば「因縁の一戦」となる。

井上が目指すは、ライトフライ、スーパーフライ、バンタムに続く4階級制覇。そして究極の目標は、世界初となる「2階級での4団体王座統一」になるだろう。混沌(こんとん)たるスーパーバンタム級戦線で、さらなる衝撃を生み出すか。モンスターの〝新形態〟に期待が高まる。

●井上尚弥(いのうえ・なおや) 
1993年生まれ、神奈川県出身。ライトフライ級、スーパーフライ級を経て、2018年5月にWBA世界バンタム級王座を獲得し3階級制覇達成。19年5月にIBF王座、22年6月にWBC王座、そして12月13日にWBO王座を獲得し、アジア人初、バンタム級史上初の4団体統一王者となった。24戦24勝(21KO)無敗。
○井上尚弥選手のドキュメンタリー写真集が2023年発売予定!!
発売時期や内容など詳細は決定次第、公式インスタグラム「井上尚弥ドキュメンタリー写真集」で順次発表していきます。