本日はクリスマスイブ。さらにお正月という大きなイベントが、足音を立てて近づいてきます。年末年始のお休みは愛する人と過ごすのもいいですし、一人でのんびりも悪くないですね。私はこたつがあれば生きていけますから。

ということで、年末へのカウントダウンが始まった師走の街から、野球大好き山本萩子が「カウント」についてお話させていただきます。

カウントとは、正式には「ボールカウント」と呼ばれ、投手と打者の勝負に対する判定(ボール・ストライク)のことです。ストライク3つで1アウト、ボール4つで1塁に進むことができます。アウト3つで攻守交代です。よくテレビの野球中継やスタジアムの電光掲示板に表示されるこれ↓だと思ってください。

B ●●●
S ●●
O ●●

カウントとは、単なる状況を示すだけものではありません。毎回真剣勝負ではありますが、カウントはその緊張をさらに高めるものです。たとえば、同じコースに同じスピードで投手が投じた球でも、その1球の持つ意味、威力、効果はカウントによってまったく異なります。

たとえば、強打者相手にど真ん中に緩いストレートを投げたら、スタンドに放り込まれるかもしれません。しかし、2-2と相手を追い込んだ状況で、あえてど真ん中に投げたら、変化球を予想していた相手は意表をつかれて空振り、あるいは見逃してしまうかもしれません。投手と打者の駆け引きにおいて、カウントはそれくらい大きな意味を持っています。

0-0を含めると、打者が打席に立ったときに想定されるカウントは12種類あります。投手としては3球以内に打者を追い込み有利なカウントに持ち込みたいですし、打者はそうさせたくない。言ってしまえば、野球の駆け引きはそこに大きな魅力が詰まっていると言えます。

ということで、カウント別に山本流の楽しみ方を伝授します。解説者ではなく、あくまでファン目線なので、そこは悪しからず。

まずは3-1。
B ●●●
S ●
O ●
(ランナー1塁)

打者有利なワクワクカウントです。投手は歩かせたくありませんから、ストライクを取りたいのですが、少しでも甘いところに投げるとそれを狙われる。厳しいコースだとしたら1球見逃せますから、打者有利の要素が高いですね。

応援するファンとしては打撃への期待が高まるシーンであり、投手目線で言うと息の詰まる勝負の場面でもあります。甘い球を空振りしたときはファンのため息が聞こえそう。選球眼のいい打者だったら、迷わず四球を選ぶかもしれません。

2-2
B ●●
S ●●
O ●
(ランナー1塁)

並行カウントと呼ばれ、投手が有利ですね。ストライクからボールになる球を投げがち。投手に手札が残されているので勝負に行ってもいいし、意表をついてもいい。

打者にとっては緊張の打席ですが、すでに4球投げているので球筋や配球の傾向もわかり、多少の余裕はあるかもしれません。インコースで攻められた場合は、次に来るであろう、逃げる球の準備をしたいところです。

もし私が打者だったら、球種を絞って勝負をかけます。投手だとしてもすぐ勝負に行っちゃいそう。遊び球はいらないなと思ってしまうタイプなのですが、打ち込まれたら立ち直れないかな。もちろん配球に正解はありません。

素敵なホリデーシーズンをお過ごしください素敵なホリデーシーズンをお過ごしください

3-0
B ●●●

O ●●
(ランナーなし)

思い切りいくor見逃しの2択ですが、アメリカでは紳士協定として、このカウントからは1球見逃すというのが不文律になっていて、それを破ると報復があることも。でも、なぜ振ってはいけないんでしょう。ボールを優先させたのは投手と捕手の責任ですよね......。

今シーズン、日ハムの試合で、3-0から清宮選手が振らなかったことに、ビッグボスが怒ったことがありました。打者として大成するつもりなら、このカウントはぜひ振って欲しい、そういう思いがあったのだと思います。

私がこのカウントで打席に立っていたら、迷わず振ります。初球を空振りしても、残り2回チャンスがあるわけですから。

3-2
B ●●●
S ●●
O ●●
(ランナー満塁)

ランナーは自動的にスタートするので、大きく試合が動く可能性があります。たとえるならば、絶対に飛ばなくちゃいけないバンジージャンプ。崖ギリギリに立たされているのは投手か、果たしてバッターか。まさに勝負のカウントですね。

打者が手を出せない球で三振を取ったときの盛り上がりは、何物にも変え難いものがあります。ちなみに日本シリーズでは、ヤクルトの村上選手が満塁から見送って押し出し四球を選びました。

野球というのは打者と投手の間にあるカウントが大きなドラマを作っていることがわかっていただけたでしょうか。1球に必ず物語があり、凡庸な球に見えても、もしかすると最後に三振を取るための大きな伏線かもしれません。

「サッカーは野球と違って目が離せない」という人がいますが、いやいや、実は野球だって一瞬たりとも目が離せないスポーツなんです。

「カウント」を意識すると、野球観戦はもっと面白くなる。そんなお話でした。それではまた来週!

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!