日本サッカーのこれからをフカボリ!日本サッカーのこれからをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第49回目のテーマは、日本サッカーのこれからについて。カタール・ワールドカップでの日本代表の活躍に日本中が大いに沸いたが、大事になのはその熱量を維持していくことだと福西崇史は語る。

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明けましておめでとうございます! 昨年開催されたカタール・ワールドカップから1カ月ほどが経ちますが、新年になってもいまだ興奮冷めやらないですよね。

特に日本代表がドイツ代表とスペイン代表に勝った時はまさに日本がひとつになった瞬間でしたよね。あのすさまじい熱気を、昨日のことのように思い出してしまいます。いつまでもこの興奮から冷めたくないというのが正直な気持ちですね(笑)。

ただ、あの日本代表の躍動は4年後、8年後、さらにその先へとつなげていかなければならないものです。それを継続していくなかで、ワールドカップでのベスト8以上という新しい景色にたどり着けるのだと思っています。

では、今回のワールドカップで日本代表やサッカーに興味を持った人たちに、その興味を維持してもらうためには何をすべきなのか。それについて考えていきます。

日本代表は吉田(麻也)キャプテンの呼びかけもあって、W杯から帰国したときに多くの代表戦士がテレビなどに出演しました。あのW杯の盛り上がりを分かち合った多くの人にとっては、うれしいことだったと思います。メディアの力を借りることは、多くの人にアピールするうえでは大事なことですからね。

でも、彼らのほとんどは海外組なわけです。日常の戦いに戻ってしまうと、彼らのプレーを観る機会は限られてしまいます。国内のサッカーシーンへの興味を持ってもらうには、やっぱりJリーグのプレー強度をもっと高める必要があるでしょうね。

これまでサッカーをあまり観なかった人にとっては、今回のワールドカップが基準になるわけです。それでJリーグに足を運んでみて、「全然違う」となってしまっては、せっかくのサッカーへの興味は削がれてしまいますからね。

ただ、これは一朝一夕で高まるものでもありません。選手個々はもちろんのことですし、リーグ全体で強度を上げるように、たとえばレフェリングなど、さまざまな側面から取り組んでいかなければいけませんよね。

そして日本代表のほとんどを占める海外組の選手たちには、もっとレベルの高いクラブに移籍できるように励んでほしいですよ。ビッグクラブのレギュラーとしてプレーする選手がひとり、ふたりと出てくれば、ファンの関心をつなぎ止められるくらいメディアが取り上げるでしょうし、国内でプレーする選手たちも刺激を受けるはずなので、Jリーグの強度も高まっていくことになるはずです。

なぜ、新しいファンを重視するかと言えば、日本はまだまだサッカー文化が確立されている国ではないからです。ベスト8で敗れたブラジル代表やグループステージで敗れたベルギー代表などに対しての国民の振る舞いと比べれば、一目瞭然ですよね。

もちろん、選手を傷つけたり、暴動を起こせと言っているわけではないですよ。ただ、それほどサッカーにのめり込んでいるし、そういう人たちがその国のサッカーを支えてもいるわけです。

では、日本はどうかと言えば、目標にしていたベスト8には届かず、今回もベスト16でしたが、ドイツ代表やスペイン代表に勝ったことで満足している空気感がありますよね。それだと時間が経ってしまうと、サッカーに向かっていた熱量は下がってしまいます。

だからこそ、コアなサポーターには代表やクラブにもっと高い要求してもらわないといけないですし、その声を大きくするためにもコアなサポーターを増やさないといけないわけです。

そんな中、日本代表の指揮官は森保(一)監督の続投で決まりました。森保監督にはカタール・ワールドカップまでの4年間でつくった流れをベースにして、上乗せを期待したいと思います。戦い方、選手選考などでブラッシュアップできる可能性もありましね。

一方で、監督を誰がやるかはもちろん重要ですが、それよりもサッカー協会が4年後、8年後に向けてどういうビジョンを描き、森保監督にはどのような力量を求めているのかを姿勢として明確に打ち出すことが重要です。それができるとできないとで、将来的な日本代表の伸びしろは大きく変わっていくと思います。

選手に関していえば、日本代表にはまだワールドクラスのスター選手はいませんが、その下のレベルの選手たちは増えてきています。以前は世界と戦えるレベルの選手は1チーム分くらいしかいませんでしたが、いまは2チームくらいつくれるほど。

これはロシアW杯後に世代交代を推し進める必要性があるなかで、東京五輪があったために、若い世代の強化をうまく日本代表の強化へとつなげることができたからでした。

とはいえ、まだまだ強豪国の選手層に比べたら、日本の層は脆弱ですよね。準優勝したフランス代表は主力選手がだいぶいないなかで、あの成績ですから。優勝経験国2カ国を倒したことはすごいことですが、それはもう過去のことです。もっと高みを目指すためには、つねに先を見据えなければいけないと思います。

日本代表がもっと強くなるためには、今回の主力選手たちを突き上げる若手の台頭は不可欠。パリ五輪世代には、東京五輪世代に勝るとも劣らないくらい将来を嘱望される選手たちがいます。彼らが日本代表を突き上げる存在になれれば、日本代表はさらに成長できるでしょうね。

ただ、日本では五輪世代は未来への希望のように捉えられていますが、世界のサッカー基準でみたら、イングランドのベリンガムにしろ、ドイツ代表のムシアラにしろ、スペイン代表のガビにしろ、18歳や19歳にして今回のワールドカップで代表の主力としてプレーした選手はいるわけです。

五輪世代は若手ではなく、主力を張るべき年齢なんですよね。だからこそ、パリ五輪世代の選手たちにはまだまだ時間が残されていると勘違いすることなく、しっかり成長を遂げてもらいたいと思っています。

そして、今大会を経験した選手たちが彼らと張り合いながら、若い選手に不足している経験値を補う働きをする。三笘薫にしろ、堂安律にしろ、前田大然にしろ、4年後はまだ20代後半で、久保建英はパリ五輪世代なので4年後でも24歳ですからね。

上田綺世や町野修斗は今大会の日本代表に選ばれましたが、カタールでは悔しい思いしか味わってないでしょうから、ここからの4年間は若手の波に飲まれている場合ではない。必死になって結果を残してくれることを期待しています。

そうやって各選手がそれぞれの環境で努力し切磋琢磨していくことで、日本サッカーのレベルはまた一段高まっていくでしょうし、それが国内サッカーを支えるコアなサポーターの拡大につながっていくのではと思います。

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