WBCが盛り上がっていますね。日本が4連勝で予選プールを突破することは想定内でしたが、先日の準々決勝のイタリア戦を見て、決勝ラウンドに進出してくるチームはやはり強いな、と感じました。

でも、日本チームも負けていません。その"切り込み隊長"となっているのが、日本でも人気沸騰中の大リーガー、ラーズ・ヌートバー選手です。本日はそのヌートバー選手と、彼が所属するセントルイス・カージナルスの魅力についてお話しさせてください。

WBCは決勝ラウンドが始まり、侍JAPANも戦いの場をアメリカに移します。

先日のイタリア戦でも、8回にダルビッシュ有投手がドミニク・フレッチャー選手に被弾しましたが(実はフェンスに当たっていたのでホームランではなかったという見解もありますが)、一発の脅威をまざまざと感じました。アメリカラウンドのより厳しく、1点がモノを言う試合での投手のみなさんの苦労はいかばかりか......。

野球は総合力だな、とあらためて思います。素晴らしい投手がいても、強打者がいても、それだけでは勝てません。侍JAPANは打者たちはひとつの線になって、どこからでも点が取れるチームになってきたと感じる方も多いと思いますが、1番打者として出場を続けるヌートバー選手は日本の大きな得点源になっています。

ヌートバー選手の強みは「OPS」に秀でていること。OPSとはOn-base plus slugging の略で、出塁率と長打率を足し合わせた値のことです。この値が高ければ高いほど、得点に貢献していることを意味します。彼に求められているのは出塁。塁に出たヌートバー選手を、クリーンナップが返すというチームの狙いも感じます。

彼が所属するカージナルスは、昨年にナショナルリーグ地区を制した強豪です。ヌートバー選手はチームで1、2番を打つことが多いのですが、それ以外でも8番や代打など、いろいろな役割をこなせる選手として認識されています。その万能さゆえ、日本の先頭打者というピースにハマったのでしょう。

カージナルスには万能な選手が多いイメージがあります。雑な言い方になってしまうかもしれませんが、野球IQが高く、求められた仕事を高いレベルでこなすことができる選手が揃っていると感じます。

主砲のノーラン・アレナド選手も、純粋なホームランバッターではなく出塁への意識も高い選手です。また、打撃はもちろん、なんといってもサードの守備を高いレベルでこなしますし、オールMLB(セカンドチーム)にも選出されています。アレナド選手の存在は、チームの全員野球のスタイルを体現していると言っていいでしょう。
ヌートバー選手をきっかけに、カージナルスにも興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいですヌートバー選手をきっかけに、カージナルスにも興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいです

監督のオリバー・マーモルさんはまだ36歳。選手としてはメジャー経験がないものの指導者としては一流で、昨シーズン終了後には最優秀監督賞の4位に選ばれています。監督が志向するのが、全員が打って、全員がつなぐ。そして全員で守る野球。だからこそ、どんな選手でも与えられた役割にフィットできる高い順応性を持っています。

ヌートバー選手に代表されるカージナルスの選手は、まさに"日本人好み"です。打撃も守備も一生懸命で、がむしゃら感もある。WBCでのヌートバー選手のプレーからもそれを感じますが、だからこそ日本のチームにあっという間に馴染んだんだと思います。

カージナルスはリーグ屈指の強豪というわけではありません。それでも、ずっとAクラスの成績を残しているのは、メンバーが入れ替わっても変わらないチームの哲学があるから。

その上で、韓国代表としてWBCに出場したトミー・エドマン選手、本塁打王に輝いたこともあるポール・ゴールドシュミット選手などが加入したことでチームは活性化を続けています。そこで揉まれて、結果も出してきたヌートバー選手はやはり素晴らしいプレーヤーです。

ナショナルリーグの中部地区には、鈴木誠也選手が所属するシカゴ・カブスというライバルチームも。カブス対カージナルスはライバル関係で知られていて。ヤンキース対レッドソックス、プロ野球でいうと阪神対巨人のように、2チームが対戦する時は大いに盛り上がります。今シーズンはヌートバー選手と鈴木選手の対決も楽しみですね。

カージナルスの魅力のひとつに、ファンがとてもアットホームなことも挙げたいと思います。スタジアムに足を運ぶカージナルスのファンは、華麗なホームランやスター選手を見に行くだけでなく、「野球を見に行く」のだとか。現地の方に聞いた話ですが、本拠地ブッシュスタジアムがもっとも沸くのは、なんと好走塁なんですって。

シングルヒットを打ったあと、ちょっとだけ相手の守備が乱れた隙に2塁を陥れた時には、最高の拍手が送られるそうです。野球をよく知るファンも一緒になって、チームと選手を育てているのでしょう。

ブッシュスタジアムは、私がいま訪れたい球場のひとつです。素敵なチームで育ったヌートバー選手の活躍に、これからも期待したいと思います。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!