筑波大学で講義をする落合陽一(右)と島影圭佑(左)

『情熱大陸』出演で話題沸騰、“現代の魔法使い”落合陽一が主宰する「未来教室」。『週刊プレイボーイ』本誌で短期集中連載中、最先端の異才が集う筑波大学の最強講義を独占公開!

普通の眼鏡と同じように顔につけ、読みたい文字を見ながらボタンを押す。すると書かれていることを音読して聞かせてくれる。さらに、外国語なら翻訳も可能。今回のゲスト・島影圭佑が開発した「OTON GLASS(オトングラス)」は、そんなウェアラブルデバイスだ。

彼がOTON GLASSの開発を始めたのは、プロダクトデザインを学んでいた大学在学中の2012年。父親が失読症になったことがきっかけだった。その後、商品化のために会社を起こし、試行錯誤を重ねる過程で島影は「新しいデバイスを受け入れる社会自体をデザインする」ことに取り組むようになっていく。前編記事に続き、OTON GLASSを通して見える未来の社会とは――。

* * *

島影 根本的な欲望がなんなのかっていうことですね。例えばOTON GLASSの場合、これをつくる以外にも、視覚障害や識字障害の方を助ける方法っていろいろありますよね。だけど自分ができることで、一番パフォーマンスが出るのはやっぱりモノをつくることだと思っていて。

それも、自分の射程のなかから飛び出す創作行為をやりたい。OTON GLASSみたいな製品は普通、デザイナーやクリエイターは手を出さないでしょう。(普段の仕事から)距離がありますから。でも、それをあえてやることによって、今までのクリエイター像にないクリエイターに自分を更新する。そうすると景色が変わってくる。気持ちよさを感じるのはそこですね。

落合 それねえ。自分が手を出さない射程を探して、俺、気がついたら『サンジャポ』に出て芸人になってんですよ。そこでは専門性は1ミリも通じない。

島影 (笑)。僕の方からもお聞きしたいんですが、現在の落合さんの、「作品」というものの定義はどうなってますか? 落合さんの活動を見てると、製品として出そうとしてるものとか、研究のアクティビティ自体を作品という形にしているのかなというイメージなんですけど、どうでしょう。

落合 自分の中のツボとやっていることが合った時しか、俺は作品としてやらないんです。メディアでは作品として紹介されちゃうけど、自分ではめったに言わないですね。メディアは雑なんで、メディアアーティストがつくるものは全部作品、大学の先生がつくるものは全部研究だと思ってる。だから雑なメディアに僕が出てくると、全部作品か全部研究で紹介されて、それ見て「2ちゃんねる」が燃えたり、もしくはツイッターが燃えたりしてる。僕はそれを「何言ってんだ」って見てます。おもしろーって。

島影さんの作品、『日本沈没』と『日本以外全部沈没』を合わせるって話、めっちゃ面白かった。これって中国が歩んでる歴史と一緒で、「旧中国」「新中国」「脱中国」。「超中国」だけあんまりないかな。

「人の多様性をAIテクノロジーで支える」という日本の未来像

「日本を思索する」の展示風景(2015年10月、IAMASにて)。鑑賞者は「自分が本当に望む日本とは何か」を考える。

島影 これをつくる前には、政治的なことについて自分の考えを深める方法があまり見つかってなかったんだけど、作品を通じて、政治に対する想像力を更新していって、気持ちよかったです。

ただ、僕は「OTON GLASS」の社長として人々の理解を得るためにプレゼンする機会が多いので、一方で政治的な作品を手がけることについては自分の中で若干、迷いがあって…。

落合 政治家の人って文化が好きだから、文化的に落ちていれば実は、製品づくりから『日本を思索する』まで一本のストーリーで書けると思う。つまり、「われわれは失読症になりやすい、なぜなら漢字が難しいからだ」とか、よくわからない過程を勝手に挟んで、日本の人々が漢字を使い始めたところからしゃべり続けると伝わる…っていうのはあるよ。

俺がいまバズらせようと実験してるのは、「人の多様性をAIテクノロジーで支える」という日本の未来像。いろんな障害のなかでも、数百人にひとりくらいの症例だと、治すテクノロジーが社会システムの中にある場合が多いのね。だけど、例えば義手・義足が必要な症例でも、3000人に1人とか、もっと少なくなると、治すメソッドがほぼ国にない。全体をなんとかしようというメソッドの発明を「やってもしょうがない」からやらないんですよ。個別の対応になる。だから高いんです。

そうやって取りこぼされる症例も、多様性としてテクノロジーで支えられる社会を考えているんだけど…。

島影 いいですね。

落合 いい話に聞こえるでしょ? でもこれ、俺の殺意からやってることで(笑)。人間を標準化することが嫌いで、だからそういう思想を築いた西洋の啓蒙思想家、デカルトとかロックとかルソーとか、こいつらがマジむかつくからやってる。

健常者・障害者を分ける考え方にしろ、「個人」のあり方にしろ、近代をもたらしたヨーロッパ人と本気で向き合い、超克し、テクノロジーを使って実力行使で勝つ。僕はそんなことをよく考えるんだけど、島影さんが今、何と向き合っているのか最後に聞きたいです。

島影 OTON GLASSをGoogleとかの大きなプロジェクトと比較する人がいるんですが、まったく違う文脈の話なんですっていうことを理解してもらいたんですよ。草の根で、民主的に始まったものが包括しているテクノロジーってものすごく優しいんだよってことを言いたい。

落合 マクドナルドのポテトと肉じゃがを比べるようなもの。

島影 そうです。それを比べるな!っていう感じで。さっき法制度の話をしましたけど、Googleなどの大きすぎるところだと突破できなかったものが、優しいテクノロジーを社会と共にデザインしていくことで突破できるんだぜっていう事例をつくりたいです。

■「# コンテンツ応用論2017」とは?本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ。筑波大学学長補佐。同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。コンピューターを使って新たな表現を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)。

島影圭佑(しまかげ・けいすけ)1991年生まれ、新潟県出身。株式会社OTON GLASS代表取締役、「日本を思索する」作家。首都大学東京、情報科学芸術大学院大学IAMAS、慶應義塾大学SFC研究員を経て、スタートアップと作家活動を行なう。経済産業省「IoT Lab Selection」準グランプリ、平成29年度総務省「異能vation」最終選考通過。

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)