2月にビッグマイナーチェンジした超人気コンパクトSUV・ヴェゼルも速攻試乗!!!

昨年、N-BOXが21万8478台を売り新車販売1位になったホンダだが、自動運転やEVなどの未来戦略は、いったいどうなっているのか。

おなじみ自動車ジャーナリストの小沢コージがキーマンを徹底取材してきたぞ!!!

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■国内4社目の純利益1兆円超え! だが…

ホンダは2月2日、2018年3月期の業績予想で連結純利益が初めて1兆円の大台に乗る見込みだと発表した。前年比約6割増で従来予想の5850億円からの大幅な上方修正だ。ちなみに純利益が1兆円を突破する国内企業はトヨタ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンクグループに続く4社目。

そんな絶好調のホンダは、20年に高速道路での車線変更が可能な自動運転車を導入し、25年には完全自動運転の技術を確立、30年までに世界販売の3分の2をHV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)などの電動車にするという。

しかし、ホンダ車のホットなニュースといえば、新型シビックタイプRが独ニュルブルクリンク北コースでFF最速となる7分43秒80のラップタイムを記録したという話か、人気爆発中の軽自動車N-BOXの売れ行きくらい。30年までの目標を可能にする次世代カーの開発はどうなっているのか。元ホンダ社員の小沢は本気で心配だ! ということで、北海道は鷹たか栖す町ちようにあるホンダのテストコースで行なわれた試乗会で、本田技術研究所の幹部・坂井義春氏を直撃した。

■世界で最も売れてるホンダ車はヴェゼル

―本田技術研究所は二輪、四輪、エンジン、航空機、次世代技術の開発を行なう、まさにホンダの心臓部です。まず伺いたいのは昨年、世界で一番売れたホンダ車です。

板井 2月に一部改良を行なったヴェゼル(米国名「HR-V」)が昨年、グローバルで70万台超売って1位でした。

―ヴェゼルは日本でも2014年から3年連続SUV部門1位の人気車です。もはやヴェゼルはホンダの顔ですね。あ! そもそも板井さんはヴェゼルの開発責任者だったんですよね?

板井 ええ(笑)。

―ちなみにヴェゼルの次に売れたホンダ車は?

板井 昨年、約50万台を売ったCR-Vです。今、世界は完全にSUVの時代です。

取材は北海道鷹栖町にある本田技術研究所で行なった。がっつり雪上試乗をこなした小沢(右)は、間髪入れず60分以上の濃厚インタビューを板井氏(左)に敢行した!!!

ホンダが、どう戦えば生き残れるのか

現時点で国内市場には未導入の新型CR-V。試乗モデルは左ハンドルのプロトタイプだった。パワートレインは2リットル直4DOHC+2モーターのハイブリッド。けっこうな雪道にもかかわらずパワフルな走りを披露したが、走行フィールはモーターならではの上質で滑らかな乗り心地であった。ちなみに駆動は4WD。発売は最短だと今夏というウワサも。

―ただ、CR-Vは販売が低迷し、2016年8月で日本から撤退しました。今夏、CR-Vが国内復帰したところで勝算はあるんでしょうか。

板井 今、国内の主要自動車メーカーは大きく分けると3つになります。トヨタグループ、日産グループ、そして独自路線を進む、われわれホンダ。トヨタと日産は年間1000万台以上を販売しています。500万台メーカーでしかないホンダが、どう戦えば生き残れるのか。それを考えると日本にCR-Vは必要です。

―どういうことですか。

板井 今年発売予定の新型CR-Vには3列シート仕様があります。われわれは日本のミニバン市場に懐疑的でした。で、いち早く動いたのはマツダさんです。ミニバンを捨てて、上手に3列シートSUVでカバーしていますよね。

―予約受注だけで1万2042台を記録したCX-8のことですね。ホンダも3列シートSUVを持っているから投入するぞって話ですか。

板井 トヨタのハリアーも売れていますしね。

―昨年の新車販売台数が5万8732台で普通車ランキング16位のハリアーは、他社のSUVにはない独特のヤンキー風デザインが魅力。CR-Vも日本向けに少し顔をイジったりはしないんですか。

板井 それこそが1000万台プレーヤーとわれわれの違いです。ホンダにトヨタと同じ戦い方は無理です。アチラは上手に二匹目のどじょうを狙うじゃないですか。圧倒的な営業力もありますしね。

―ホンダは手元にあるソリューションで、あの手この手をやるしかないと。

板井 ええ。われわれは1000万台メーカーほど動けないし、手も広げられません。

ホンダのライバルはグーグルです

■ソフトバンクと研究する感情エンジン

―2030年までに世界販売の3分の2を電動車にする計画を発表していますが、それに伴い、昨年7月にホンダは日立と電動車両用モーター事業の合弁会社「日立オートモティブ電動機システムズ」を設立しています。ズバリ聞きますが、ホンダのEVって今どうなっています?

板井 昨年の「東京モーターショー」に出展したホンダ アーバンEVコンセプトをベースに、2020年に日本で発売します。EV時代に突入したら、私は今までとはクルマに対する感覚や考え方が大きく変わると思います。

―というと?

板井 今までのようなメーカーと消費者、つまりB to Cの関係ではなくB to Bになる可能性が高い。さらにEVと自動運転が結びついたら爆発的に変わるでしょう。そもそもEVと自動運転って相性が非常にいい。クルマのメンテナンスが基本的に不要になるし、自動運転が実現されるとシェアリング領域も飛躍的に増えますから。

―なるほど。ソフトバンクとAI(人工知能)や、5G(第5世代移動通信システム)を活用した「コネクテッドカー(つながる車)」の共同研究もしていますね?

板井 AⅠ領域を研究しています。人間の感情を読み取る「感情エンジン」と呼ぶAⅠをクルマに搭載して、カメラ、センサーなどのデータや、ドライバーとの会話からその日の感情や趣味嗜好(しこう)を学ばせる。AⅠが人間と対話しながら役に立つ情報をやりとりしたり、安全運転を支援するサービスを目指しています。

―もう少し言うと?

板井 例えばオンラインショッピッングしていると、勝手に広告が出てきますよね。しかも、自分の興味がある商品が。アレはビッグデータからその人の嗜好を分析した結果です。要はドライブ中にオーナーの好きそうなレストランをAⅠが推定し、ランチタイムに教えたりします。

―それから米シリコンバレーに「ホンダR&Dイノベーションズ」という研究所があります。あそこでは何を研究しているんですか。

板井 ⅠoTの技術開発です。すでにアメリカではカード会社のVISAと連携して、ガソリンスタンドで自動決済できるようにしました。ETCと同じ原理でガソリンスタンドで支払いができる。ただ、これを日本でやろうと思うと相手企業が対応できないし、法整備の問題も出てくる。米国のように新規事業に寛大だと話は違うんですが。

―カリフォルニア州では、人が乗らない完全自動運転の公道実験を4月2日から認めるそうですが、今の日本で無人の公道実験は難しいですよね。

板井 今までと違うことをやる場合、日本はスゴいネガティブな国になる(笑)。

―大手自動車サプライヤーと話していたら、既存の国内ナビメーカーに忖度(そんたく)してアップルのカープレイやグーグルのアンドロイドオートは限定的にしか入れられないとボヤいてて。この壁をどうします?

板井 もちろん、日本のマーケットだけを見ていたらそうなりますが、ホンダはグローバルで戦う企業です。その壁は乗り越えていかないと先がない。もうプレーヤーだって違う時代なんです。少し前までホンダのライバルはトヨタやGM(ゼネラルモーターズ)でしたが、今はグーグルです。そこを認識しないと、この世界では生き残れません。

レジェンドが2月9日に一部改良を受けて超絶進化。注目の3モータースポーツハイブリッドの走りも旧型より大幅に向上した。

ホンダジェットはメンテナンスで稼ぐ

■ホンダジェットはメンテで稼ぐ!

―「GAMA(全米航空機製造者協会)」の2月21日(日本時間22日未明)の集計によって明らかになりましたが、ホンダの小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」の2017年の納入機数が、小型ジェット機部門(定員10人未満)で、米セスナ社の主力機「サイテーションM2」を抜き、初めて世界トップに輝きました。単純にスゴいとは思うけど、ぶっちゃけホンダジェットって儲かるんですか。

板井 ジェット機ってプリンター事業と同じなんです。

―どういうことですか。

板井 ホンダジェットの販売では儲かっていません。メンテナンスで稼ぐんです。皆さん、メンテナンスは絶対やります。飛行機が墜落したら困りますからね。

実は1986年にはジェット機の開発に着手していたというホンダ。ちなみにホンダジェットのカタログ価格は490万ドル(約5億2550万円)

―なるほど。ちなみに、イーロン・マスクが経営する米スペースX社が超大型ロケット「ファルコン・ヘビー」の初打ち上げを見事に成功させています。イーロン・マスクが所有するテスラのスポーツカーもロケットに積載されていた。こういう壮大なビジョンをホンダは提示できていない気がします。どうですか。

板井 ホンダの企業活動は人の役に立つ、生活を豊かにする、生活の質を高めるという理念の下に行なわれています。昔から人々に多くのモビリティを提供するのがホンダなのです。実は2014年から、沖縄県の宮古島市で、東芝と共同で太陽光発電を利用した超小型EVの実験走行をしています。高齢化社会、過疎化を見据えた実験です。

―今はやりのモビリティカンパニーをホンダはとっくに目指していたと。

板井 スーパーカブだって、自転車に発電機のエンジンつけて、湯たんぽをガソリンタンクにすれば人の役に立つという発想が原点ですから。今後も本田宗一郎のフィロソフィーは大切にしていきます。

(取材・文/小沢コージ 写真協力/本田技研工業)