「現代の魔法使い」落合陽一(右)とThe Breakthrough Company GOの代表・三浦崇宏(左)

設立から2年足らずの間に、NTTドコモ「dカーシェア」、ワーナーミュージック「ケンドリックラマーの黒塗り広告」、日本テレビ「世界一受けたい授業THE LIVE 恐竜に会える夏」、メルカリ「新聞折り込みチラシ」など、名だたる大手を含む多くの企業の広告やプロジェクトを手掛けてきたThe Breakthrough Company GO。

その代表で自身もPR/CreativeDirectorを務める三浦崇宏(みうら・たかひろ)は、大手広告代理店の博報堂で10年間研鑽を積んだ後に独立し、起業。「変化と挑戦にコミットすること」が自社の存在意義だと言い切る。

「変わり続けることを変えず、つくり続けることをやめない」を行動指針とする落合陽一(おちあい・よういち)とは当然、ウマが合いそうだが、ただし三浦の場合、いわゆる理系知ではなく、文系知の精髄を駆使して変化を演出する。彼が広告クリエイターとして最も重宝するのは、「概念操作」という発想だという。

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三浦 僕は学生時代、ずっと小説家になりたかったんです。早稲田大学の第一文学部にいて、早熟なデビューを目論んで。でも、早々に挫折しまして。

複数人でコンテンツをつくる仕事に就きたかったので、就活では広告会社と、テレビ局各社を受けました。テレビ局は何をやっても面白ければいい――つまり、目的は自由。だけど、最終的には番組に落とし込まないといけないというふうに、手段が限定されています。一方、広告会社はお客さんを儲けさせなきゃいけないという目的は限定されている。だけど、Webやってもいいし、イベントやってもいいし、番組やってもいいし、CMつくってもいい。手段は自由です。

そう比較したときに、いずれ独立したら目的は自由に選べるようになるんだから、自由な手段の経験が積めるほうがいいと考えて、博報堂に入りました。

落合 それはすごくわかる。結局、僕はどこにも就職しなかったからなんとも言えないけど(笑)。

三浦 博報堂ではマーケティング、PR、それからクリエイティブと職歴を重ねました。博報堂や電通では、「ずっとクリエイティブ」とか「ずっとPR」という人が多く、10年間で3職種やりましたっていう人はすごく少ないんですね。それが僕のクリエイターとしての特殊性につながっているかな、という感じです。

それから独立して、GOという会社を始めました。「GO」というのは、博報堂時代の僕の部下に対するアドバイスが、たとえ質問が「この仕事、予算がハマらなそうですけど大丈夫ですかね」だろうが、「こういうのってタレントさん受けてくれますかね?」だろうが、「これって本当に意味ありますかね?」だろうが、何を聞かれても「いいから行けよ」だったので。それが社名になりました。

会社をつくったときの話をすると、僕は博報堂でずっと日産自動車の担当だったんです。日産が、自動車の会社から自動運転の技術の会社に変わろうというトランスフォーメーションのタイミングで、そのマーケティングにずっと伴走するという仕事。そこで考えてみると、ちょうどユニクロがデジタル化を叫んでいるし、ソフトバンクがIoT戦略に舵を切るよと言っているし、そんななかで、あらゆる会社が変わりたいと思っている。だけど、さまざまな要因によって、「変わらない」という意思決定をしている会社が多いと感じたんですね。

そこで、広告だけじゃなくてマーケティング、PR、テクノロジー、金融、あらゆる領域で企業と社会の変革をお手伝いします、変わりたいんだったら全部まとめて面倒見ます、ということをテーマにGOを立ち上げました。「いいから行けよ」です。

それで、一発目の仕事が......。

落合 「LIVE JACKET」? あ、「WEARABLE ONE OK ROCK」か。

GO設立後、最初の仕事は2017年1月、ロックバンドONE OK ROCKのアルバム発売イベント「WEARABLE ON OK ROCK」。落合陽一、博報堂との協業で、全身で音楽を体感できる着るスピーカー、「LIVE JACKET」によるプロモーションを行なった

三浦 はい、落合さんと一緒にやったONE OK ROCKのキャンペーン。その後はAKB48のMVをやったりとか、最近だとケンドリック・ラマーのポスターをつくったりとか、日テレのライブイベントとか、あとは週刊少年ジャンプと東京メトロのコラボ企画をやったりしています。

そんなわけで、派手で話題になりやすいキャンペーンが得意な会社だと思われがちなんですけど、実は一番注力しているのが大企業の新規事業です。どうやってその事業を作るかとか、マネタイズとか、そういったもろもろ全部、僕が新聞広告とかCMをつくるときの発想法でクライアントの新規事業をプロデュースする。これが、実はうちの会社の一番得意なことです。あとはスタートアップ企業のPRとブランディング。このあたりが主な仕事になっています。

例えば、クライアントさんがいいものだと思っているものが、実はユーザー側はまったくいいものとは思えていないよ、というときにどうするか。もちろん、テクノロジーで商品そのものをアップデートするという選択肢もあるんですが、僕が一番得意なのがコンセプトの開発。これは言ってみれば「概念操作」です。

広告の事例を出しますね。

もともとは「足こぎ式車いす」と呼ばれていた製品を、「あきらめない人の車いす」にコンセプトを変え、COGYという名称でリブランディング。製品ホームページもリニューアルし、多くのユーザーの声を掲載している

「COGY(コギー)」という車いすがあります。事故や病気で足が動かせなくなった人でも、座ると姿勢が固定され、自然と足が伸び、歩行中枢が刺激され、結果、足でペダルを回せるようになるという車いすです。画期的なテクノロジーなんですが、もともとはまったく違う名前で、これが全然売れていなかったんですよ。

売れなかった理由は何かというと、この製品、「足こぎ式車いす」っていうカテゴリー名を名乗っていたんです。みなさん、足が動かなくなったと仮定してみてください。「落合さん、足大変ですね。『足こぎ式車いす』持ってきました!」って言われたら......。

落合 やばいやばい!

三浦 だから僕たちは、この「足こぎ式車いす」を、「あきらめない人の車いす」というふうにコンセプトを変えました。これが概念操作です。僕たちはこのやり方で、いろんな企業活動の考え方が変わるきっかけを提示しています。

落合 ありがとうございました! 今回は、広告ってこれからどうなるんですかねっていう話がしたくて。

僕、大学院修士2年の終わり頃から(放送作家・脚本家の)小山薫堂さんの会社で仕事してたんです。当時、小山さんがよく言ってた言葉で強く覚えているのは、「落合君、これからは"狭告"の時代だよ。狭く広告することだよ」ってことです。その後、小山さんのいろんな仕事を見て、「ああなるほど、狭く深く刺した後、そこから広く認知度を上げていくっていうことか」って思ったんだけど。

ライブコマースの時代になったら、例えば「インスタで誰かがやっててカッコいいから購買する」というような、狭いけど深いコミュニケーションがやっぱり重要だと思いますが、三浦さんはどう見ているのかな。

三浦 僕が博報堂に入って、一番最初にすごくいい話だなと思ったのが、「広告とは『広く告げること』だと思っているうちは絶対動かない。『広く告(コク)る』である」と。要は、1対1のエモーショナルな関係をどれだけn化できるかっていうことが大事で。あるたったひとりの生活者のことをものすごくリアルに考えて、その人が確実に動くと思ったものはおそらく動くだろう、ということです。

たぶん、小山さんがおっしゃっていた"狭告"もそうだけど、ひとりひとりのライフスタイルそのものが信じられるコンテンツになるから、それが購買訴求としてすごく強いものである、というのは確実にありますよね。

フリマアプリ大手メルカリが、「いかにも」なデザインのチラシ広告を新聞に折り込むという斬新な仕掛け(2018年12月12日付朝刊)。北海道と名古屋限定だったが、地域を超えてSNSでも話題が広がった

落合 なるほどね。ちなみに、GOはどういう体制でやってますか? 僕は組織の中の全員が同じ方向を向いていないほうが正しいと思っていて。

三浦 うちはクライアントさんが「新しいことやりたいんです」って来たとき、必ずビジネスプロデューサーとクリエイティブディレクターのふたりひと組で対応するんですよ。前者の責任は「GOの利益の追求」で、後者の責任は「クライアントの利益の追求」です。これってわりと重なる部分もある一方で、ある意味、矛盾したモチベーションじゃないですか。

落合 それ、超重要ですね。

三浦 ふたりひと組で、常にケンカさせながら顧客の成長にコミットしていくというやり方をしてるんですよね。

落合 僕はラボも会社もそうですが、例えば家庭では、僕はとにかく「クリエイティブにかじを切る」と言い、妻はお金のことを言います。そういうふうにカウンターパートがいる人生が一番いいなと思っていて。いないと議論が進まないじゃないですか。

三浦 ものすごく小さいところで弁証法をつくっていくというかね。Aの主張とBの主張を戦わせた結果の、止揚するものがないと成長しない。

うちの会社の人間は、みんな大手企業を辞めてきているので、わりと覚悟をもって「変化と挑戦にコミットする」という気持ちだけは共有しているんですね。だから、あとはもう自由に、己の信じることを限りなくやってくださいよという体制です。いつも健康的にケンカしてますね。

落合 逆に、アーティスト同士って健康的なケンカをしないんですよ。アーティストは「俺がかっこいいと思ったものは文脈的に人生的にかっこいいのである」ということだけで成り立ってる生き物だから、優しいというか、「みんな違ってみんないい」というか。

三浦 アーティストとクリエイターはまったく違うものですね。クリエイターやデザイナーは基本的に、課題の解決を試みる人間なんですよ。アーティストっていうのは、課題を発見する人間です。だから、アーティストはそのアウトプットがわかりやすいものとは限らない。

落合 僕もデザインの仕事をするときは、相手がいいねって言ってくれることを望んでいます。で、アーティストとしての落合陽一は、普段は基本的に「僕のことは放っておいてください」という(笑)。

三浦 「わかるよ」って言われたら終わりじゃん、単純に。

落合 まあ、「わかる」って言ってくれること自体はうれしいんですけど。

三浦 極端な話、アーティストに関しては、「世界中の誰が否定しても俺はこれの価値を信じてるし、何百年もの時の流れの中で誰かがそれに気づくかもしれないね」くらいのノリじゃないですか?

落合 そうそう。で、最近俺、気がついたんだけど、カッコよさはね、みんながカッコいいと言った瞬間にちゃんと伝播するんですよ。だから、アーティストにフォロワーがたくさんついてると、その伝播速度が早くなるんです。

三浦 でも、その一方で、みんながそう言った瞬間にカッコ悪くなるってこと、ない?

落合 ある。だから次のことがしたくなるんだけど、それは新陳代謝だと思っていて。ちょっと前まで自分がカッコいいと思ってたものが自分から離れていったなと思い始めて、それで次のステップに行くっていうプロセスを何周も何周もしていくと、徐々に更新されながら作風も変わりながら、磨かれるじゃないですか。それでいいと思うんですよ。

逆に「誰か認めてくれないかな~」ってモゴモゴ言ってる人って、進化のスピードがすげー遅いんですよ。

◆後編⇒落合陽一×三浦崇宏(広告クリエイター)「『広告』はこれからどう変わっていくのか?」

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる 学ぶ人と育てる人のための教科書』(小学館)

●三浦崇宏(みうら・たかひろ) 
PR/クリエイティブディレクター。1983年生まれ。2007年に博報堂に入社。博報堂、TBWA/HAKUHODOのマーケティング、PR、クリエイティブ部門を経て、17年に独立し、The Breakthrough Company GOを設立。「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞、カンヌライオンズPR部門ブロンズ・ヘルスケアPR部門ゴールド・プロダクトデザイン部門ブロンズ、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSイノベーション部門グランプリ/総務大臣賞など受賞多数