「現代の魔法使い」落合陽一(右)と東京都議会議員の音喜多 駿(左)

35歳の東京都議会議員・音喜多 駿(おときた・しゅん)は少なくともふたつ、「日本初」の称号を持っている。ひとつは「日本初のブロガー議員」。2013年の初当選以来、ほぼ毎日ブログによる情報発信を続けている。都議会のセクハラヤジ問題や、舛添要一前都知事の政治資金不正使用疑惑にネットを使って一番槍を突き刺したのも音喜多だ。

そして、もうひとつは昨年秋、日本初のクラウドファンディングによる新党「あたらしい党」立ち上げを果たしたこと。当初の目標額を300万円に設定していたところ、初日でその2倍を超える額が集まり、最終的には議員史上最多の1187万6833円に達した。これも音喜多に寄せられる期待の大きさを物語っている。

ただし、これらは野心家の音喜多にとって通過点であり、あるいは手段にすぎない。政治家としての真の夢は、日本どころか世界史上初となる「女性による政権の樹立」だと彼はいう。

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音喜多 皆さん、こんにちは。音喜多駿と申します。東京都北区選出で、都議会議員の2期目を務めております。

まず、いつも必ず聞かれる「なぜ政治家になったのか」という話をしてから、落合陽一先生との対談に入りたいと思います。

私がなぜ政治家になりたいと思い始めたか。きっかけは、「女の子にモテたい。モテまくりたい!」

シーンとしましたね(笑)。これがきっかけのひとつでした。

私は中学・高校と都内の男子校に通っていたわけですが、まったく女の子にモテず、童貞をこじらせまして、バンドを組んだり、ファッションにお金をかけたり、いろんなことをやってみました。けれどもまったくモテない。

そこで、ひとつの気づきを得ました。これは自分を変えるより、社会を変えたほうが早いんじゃないか。じゃあ、社会を作っているのは誰かというと、政治家なわけです。ここで政治という道が――普通は開かれないんですが、僕の場合は開かれました。

皆さん、おそらく政治家というものは、ものすごく特別な人がなるものだと思っていると思うんですね。例えば、親が政治家だったという方。あるいは母子家庭に育って苦しい人生を歩んできました、だからこの世界を変えたい、というような方。そういうバックグラウンドや熱い思いがないと、政治家にならないんだと思っている方は多いと思います。

でも、僕なんかそういうものはあまりなくて、ちょっとしたことから政治家になった人間です。皆さんにも機会があれば政治の世界に来てもらいたいですし、気軽にトライしていいんだよと伝えたくて、毎回この話をしています。

もちろん、その時点で政治家になると決めたわけじゃないんですが、こうした邪(よこしま)な目的もあったので、早稲田大学政治経済学部では「女性と政治」を研究テーマにしました。そこで面白いことがわかったんです。実は世界の歴史上、女性が政権をとったことはただの一度もないんですよ。

こう言うと、ドイツのメルケルさんとか、イギリスのメイさんとか、女性の首相がいるじゃないかと反論が来るんですけど、これは構造的にいうと、男性社会の中でたまたま女性がトップをとっただけです。「スカートをはいた男性」などといわれることもありますが、中身が男性化した女性がトップをとっただけです。女性が女性の価値観のまま政権をとり、意思決定をして社会をつくったことは人類史上、一度もない。

現在もこの社会は、明らかに男性有利になっていると思います。女性が政権をとってよくなるか、それは僕もわからない。だけど、可能性も見ずに死ぬのはもったいない。そう思っています。だから女性に政権をとらせたい。そのためにはルールを根底から変える必要がある。やはり政治家になりたいという決意をますます固めて卒業しました。

でも、いきなり政治家になろうと思っても、私は水道屋の息子です。金もコネもないし、そもそも25歳にならないと立候補できない。とりあえず就職して、仕事が楽しくなるにつれ、政治家になるのはもう少し社会経験を積んで地位を築いてからでもいいなあ、と先延ばしするようになりました。「いつか俺はやるぜ」みたいな、典型的な20代の若者になっていたわけです。

そこに、一大転機が訪れます。2011年の東日本大震災、「3.11」です。このときは友人がNPOを作って東北へ行くというので、私も副代表になって毎週土日、かれこれ50回くらいボランティアに行きました。そこで向こうの人たちと触れあう中で、こういうことを言われたんですよ。

「私たちの孫もあなたくらいの歳でね、将来政治家になって日本を変えたいって言ってたけど、死んじゃったからねえ」

その時、すぐチャレンジできる環境にあるのにやらないっていうのは亡くなった方々に申し訳ないな、という気持ちが芽生えたんです。しかも、あのときは民主党政権だったんですが、政治が本当にめちゃくちゃで、こんな行政じゃ日本はこの先20年もたないと思ったんですね。だから一刻も早く政治家になろう、と会社への未練が断ち切れました。

私は49歳までに総理大臣になろうと本気で思っています。その後は女性の総理にバトンを渡し、「音喜多駿から女性社会がスタートしたよね」と言われる政治家になりたい。残念ながら、政治家になってもモテるわけではなかったんですが、死後にモテるという壮大な目標です。

今では新聞やテレビやブログなどで露出しながら政治活動をしていて、おかげさまで地方議員としては相当名が知られている議員だと思います。僕個人のブログのアクセス数が自民党の公式ホームページを上回っているので、よく「ひとりで自民党を倒した」と言うんですが、自民党議員にめちゃくちゃ怒られます。ふざけるなと(笑)。

落合 ありがとうございました! 普段はメディアやコンテンツ制作に関わる人などと連続討議していく授業なんですが、今回は政策提言は抜きにして、ブログやクラファンなど多くのメディアを使いこなしていらっしゃる実践者としての音喜多さんにいろいろ聞いてみたいと思います。偏った見方をせずに、ポリティクスとテクノロジーの関係を見ていくためにも、ここからさまざまなお話を掘り下げて行きたいと思います。

政治家の仕事についてはシロウトなのでわからないんですが、実は先日、たまたま1時間半くらい時間が空いたので、勉強がてら「衆議院議員全員の政治資金会計を見よう!」と意気込んで、ずっと見てたんだけど......。

音喜多 そんな人います?(笑)。

落合 いやあ、めっちゃ面白かった。年賀状の時期、彼らは郵便代や送料が1000万円超えたりするんですね。デジタル世代からすれば新鮮です。

音喜多 国会議員ともなれば、やりますねえ。

落合 収支報告をバーっと見て、なるほど、議員事務所って数千万円から数億円くらいのお金をこうやって集めて、こういうふうに使って回すものなんだ、と勉強になりました。逆にテック関連はほとんど使わないんですね。

音喜多 しかも、議員が代表を務める政治団体には税金かからないですからね。相続税も。だから、二世三世の議員はアホみたいに有利ですよ。

落合 なるほど......。都議会議員はどうなんですか? 僕は詳しくないんですけど、明らかにそういうシステム的な恩恵を得ているなって人はいます?

音喜多 いますね。都議ってけっこう名誉職的なポジションでもあって、区議会で議長までやった人が上がってきたり、あるいは二世がそのまま守ってたり。逆に言うと、野心的な人が少ないんですよ。

落合 なるほど、貴族感漂うみたいな(笑)。では、メディアとの付き合い方や仕組みづくりも含めて、都議会が今、直さなければいけないところはどこだと思いますか?

音喜多 やっぱり、ひとつは業界団体のしがらみを解くことだと思うんですけど、自民・公明・民主とがっちり組んでめちゃくちゃ献金してるから、なかなかそれができない。

あとは、そうだなあ。"都議会の闇"と呼ばれるものがひとつあって。警察消防委員会っていうのがあるんですが、その委員会質疑が毎回、5分くらいで終わるんです。

落合 その5分は短いんですか? 長いんですか?

音喜多 議員が警察に質問追及しちゃいけないっていう慣習があるんです。だからほとんど5分くらいで終わる。その代わり、警察は議員の陳情を聞くとか、よほど目に余らなければ公職選挙法違反で捕まえることはしないとか、手心を加えると言われています。そういう癒着関係がずっとあって。

この委員会で質問した議員は、次の選挙で落選するっていう伝説もあります。選挙で警察からものすごい締め付けをくらうわけですよ。あれが違反だとか、ここは車停めちゃいけないとか。

だけど、本来は議員が警視庁をチェックしないといけないのに、それができないのはおかしいじゃないですか。僕、都民ファーストの時に同僚にそう言ったんです。そしたら「それだけは触れちゃいけない」って真顔で言われました。以前、ある議員が「それでもやる!」って質問したことがあったんですけど、そしたらどうなったと思います? 翌日、警視庁の都庁担当者が坊主頭になってたんですよ。議員に質問させたから、とかそういうことなんですかね。怖いでしょ。

落合 それが理由かどうかはわからないけど、例えばネットメディアで透明性を担保して、YouTubeなどに動画が上がって議論が盛り上がれば、良い方向に変わるとは思いますね。

音喜多 だから今、都議会でもネット中継を導入するかどうかでもめてるんです。自民党さんがすごく反対してるんですけど、その理由のひとつは警察消防委員会を見られたくないからじゃないかと。だって、さすがにネット中継で、重要な議案が上がってるのに誰も質問しないシーンを見たら「なんで?」ってことになるでしょ。

落合 なるほど。いずれにしても、そういう議論の透明化の仕組みを作るのにネットメディアを活用するのはひとつのいい手段だとは思う。

さて、次の議論に行きましょうか。今、シルバー民主主義ってよく言われるじゃないですか。僕は高齢化社会に貢献するべく日々、技術開発と実装をしていく立場なんですが、シルバー民主主義についてはどう思いますか?

音喜多 シルバーデモクラシーは民主主義のバグだと思っています。近代民主主義の思想が生まれたときには、人間がこんな長生きするようになるなんて誰も考えていなかったんですよ。現役世代が一番多いという人口構造に基づいて制度設計されていた。ところが、平均寿命が延びることによって、こうして高齢者が一番多くなるという逆転現象が起きてしまったと。

このバグはシステムで直せる可能性があると僕は思っています。提唱した学者の名をとって「ドメイン制度」と呼ばれる投票方式があるんですが、要は18歳未満の選挙権がない子供を持つ親は、2票分の投票権があるというものです。子供の投票権を親が代行できる仕組みにすれば、シルバーデモクラシーはかなり是正できる。こういうことを日本から試していかないといけないんじゃないかな。

落合 なるほど、そういう考え方もあるんですね。もうひとつ気になることがあって、テクノロジーやメディアで対応策を考えるとするなら、東京と地方のさまざま格差問題についてどう思いますか?

音喜多 僕は都議会議員だからっていうのもありますが、東京一極集中を是とする肯定論者です。東京の富を吸い上げて地方に薄く広く分配しても、東京が貧しくなるだけで、その分地方が豊かになるわけじゃないんですよ。それなら、東京は東京で思う存分頑張って......。

落合 「ドバイを目指せ」みたいな意味ですか?

音喜多 そうです。一応、世界第3位の大都市ですよ、東京は。不平等とかそういう話じゃなく、事実として、東京は日本の中で別格なんですよ。それは認めて、活かしていかないといけないんじゃないかと。

落合 僕も実は、東京一極集中を妨げることには否定派です。東京をより強力な都市にするのは必要なことだと思っています。しかし、それは同時に地方に力を与えることとセットになっていなければならない。このふたつは矛盾しない。

そのとき、一極集中とのセットで重要なことは、多様な解決手法を認めること。東京に住んでいる人も地方に住んでいる人も同じように問題解決をしようとするのは、もはや成り立たず、国政より地方自治の方が必要な時代だと僕は思っているんです。なぜかといえば、地域の文化や特性、そこでの所得や産業によって、取るべき方向性も考えるべき政策も全然違うからです。変わっていく時代性を感じながらテクノロジーやメディアを開発することで、そういった物事の下支えをインフラ側からやっていければと思っています。僕は僕の能力でできることをする。

例えば先日、佐賀の嬉野(うれしの)で「うれしの茶」の農家の人にお茶の作り方の工程を見せてもらいました。そこで聞いたのが、茶畑をイチからつくるのって7、8年かかるんだけど、1年放置すると伸び放題になってしまって、お茶はだいたいダメになっちゃうんだって。でも、高齢化の影響で、今はやる人がいなくなった畑がどんどん増えている。同じような問題を抱えている地域はほかにもあるだろうけど、じゃあ、東京と同じようなやり方でそこにイノベーションが起きるかといったら、起きないですよね。そういった地方の問題はどうとらえてます?

音喜多 基本的に、中央集権がひずみだと思います。これは道州制的な議論になるんですけど、地方は地方で全然課題が違うわけだから、財源と人事権はやっぱり全部、地方に委譲することですよね。独立採算制をとって、地方は地方のアイデアでやってもらう、と。もちろん破綻しそうな時は国が手助けする必要はありますけれども。

課題がそれなりに共通している地域でひとくくりにして、例えば「九州圏」とか、そのくらいの塊にして、人材交流をしながらそれぞれの地方が切磋琢磨して魅力を伸ばしていくっていう手法をとらないと。今は「後継者いないね、でも地方交付金もらえるし、まだ食っていけるよね」って言いながら、緩やかにみんな死んでいくっていう道を歩んでいるので、やっぱり荒療治が必要で、「金も権限もあげるから自分たちでやってみてください」ということには、絶対どこかで一度はチャレンジしなければいけない。

落合 なるほど。

◆後編⇒落合陽一×音喜多 駿(東京都議会議員)「政治にテクノロジーを入れるとしたら?」

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『日本進化論』(SB新書)

●音喜多 駿(おときた・しゅん) 
1983年生まれ、東京都出身(北区の水道工事店の長男)。早稲田大学政治経済学部卒業後、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループに7年間勤務。2013年6月、東京都議会議員選挙にみんなの党公認で初出馬・初当選(北区4位・1万3296票)。17年7月、都民ファーストの会公認で都議2選(同区歴代最多の5万6376票)。同年10月、都民ファーストを離党。18年10月、地域政党「あたらしい党」の立ち上げに際しクラウドファンディングを実施、1000万円を超える支援金を集めた。現在、同党の代表として4月の統一地方選挙へ向け活動中